内外経済ウォッチ『日本~“局所的人手不足”がやってくる~』(2022年8月号)

星野 卓也

目次

コロナで失われたサービス業の雇用

日本では3月のまん延防止等重点措置の解除後、レジャー施設などへの人出が回復している。今後経済活動の正常化が進むもと、「局所的人手不足」が生じることが予想される。

海外では経済正常化とともに、深刻な人手不足が発生した。特にアメリカでは感染の落ち着きで需要が急回復する一方、コロナで離職した労働者数の回復が遅れており、労働需給が急速に引き締まっている。2022年に入って平均時給(前年比)は5%超の高い伸びを続けている。

日本の状況はどうか。アメリカではコロナ初期に失業者への支援を充実させたのに対し、日本は雇用調整助成金をはじめ、雇用を繋ぎとめる政策を続けた。このため、全体でみれば日本でアメリカのような大規模な離職は生じていない。ただし、業種別にみると、2019年から2021年で宿泊業・飲食サービス業の就業者数は▲12%、複合サービス事業は▲7%、生活関連サービス・娯楽業は▲6%減った。コロナ禍で需要が急減したこれらの業種では、逆にコロナ禍からの回復過程で需要の増加が見込まれる。

コロナ前と比較した業種別就業者数の伸び
コロナ前と比較した業種別就業者数の伸び

高齢者・外国人の労働者増加が進まないリスク

性・年齢別にみると、ここ2年で「15~24歳男女」、「35~54歳女性」、「65歳以上男女」の労働参加率の伸びが急減速した。背景にはパート・アルバイトなどの非正規雇用者が非労働力化したことがある。アメリカでは特に高齢層の労働参加回復が遅れている。高齢層は再就職のハードルが高いのかもしれないが、日本でも同様の現象が起こる可能性があるだろう。

また、円安は外国人の訪日観光需要に追い風である一方、日本で働く外国人労働者にとっては賃金水準低下を意味し、日本で働く魅力を低下させている。外国人労働者は製造業・建設業のほか、宿泊業などのサービス業における就労者も多い。

このように細かにみていくと、日本においても労働供給が順調に回復するかどうか、不透明な要素がある。アメリカほどではないにせよ、サービス業などにおいて局所的に人手不足度合いが強まる可能性が高い。流動性の高いパート・アルバイトの賃金上昇率は、今後労働需給の引き締まりとともに高まっていくと考えられる。

年齢階層別・労働参加率の変化幅
年齢階層別・労働参加率の変化幅

星野 卓也


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星野 卓也

ほしの たくや

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 日本経済、財政、社会保障、労働諸制度の分析、予測

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