QOL向上の視点『金融リテラシーの現状と資産形成・投資』

村井 幸博

目次

現在の日本の金融リテラシーの評価

日本の金融リテラシーは米国に比較すると低いと言われている。金融広報中央委員会の金融リテラシー調査(2019年)では「共通の正誤問題の正答率は、日本47%(前回:47%)に対して米国53%(同:57%)と、米国が日本を上回っている」と指摘している。また、家計の金融資産構成の日米比較(日本銀行資金循環統計2021年3月末)では、日本が現金・預金54%、投資信託・株式等14%であるのに対して米国は現金・預金13%、投資信託・株式等51%となり、この差には金融リテラシーが影響しているとされている。しかし、日本の金融リテラシーは本当に低いのだろうか。

まず、前述の金融リテラシー調査の日米比較だが、「共通の正誤問題」による調査とあるが、6問中1問で問題の難易度が異なり、その正答率に大きな差(正答率:日本44%、米国75%)が発生している。これを除く5問の平均点はほぼ同じである。さらに米国の2018年調査では、正答率は50%と日本との差は縮小している。難易度の異なる1問を除くと日本を下回る結果(45%)となり、日本の金融リテラシーが低いとは判断できない。

また、投資信託・株式等の保有比率の差は、①米国の401(k)(日本の企業型DCのイメージ)やIRA(日本のiDeCoのイメージ)等の老後資金の資産形成促進制度は、戦後のベビーブーム世代(1946~64年生まれ)の資産形成時期(70~80年代以降)に整備した一方、日本でのDC導入は2001年であり、日本のベビーブーム世代(1947~49年生まれ)の資産形成には遅かったこと<資産形成を促す仕組みの歴史の差>、②米国株式は長期的に高いパフォーマンスになっていること<資産形成層の成功体験の差>、③日本のベビーブーム世代は1990年以降日経平均株価で60%を超す下落を3度(90~92年、2000~2003年、2007~2009年)経験している(最後は定年退職と重なる)こと<体験に基づく忌避>等の理由もあり、金融リテラシーの問題とは言い切れない。

どうすれば、資産形成・投資が促進されるのか

まず、老後に備えた資産形成が必要な理由の周知である。公的年金は基本的に賦課方式(現役世代の保険料が高齢世代の年金の原資)であるため、制度は安全だが、少子高齢化により年金の給付水準の低下が見込まれる。2019年の財政検証では現在約62%の所得代替率が2040年代には50~52%に低下する結果である。公的年金給付が実質的に大幅引き下げになるシナリオにもかかわらず、その周知は不十分である。

次に、高齢世代から現役世代への早期の資産・資産管理移転である。先ほどの金融リテラシー調査では70歳代の金融リテラシーが最も高い結果になっている一方で、特殊詐欺の被害の約9割が65歳以上の高齢者に集中している。金融ジェロントロジ―の知見では加齢による認知機能低下リスクを加味した資産管理が必要とされるため、金融資産の集中している高齢世代の投資拡大には限度がある。また、長寿社会では相続による資産の移転では相続人も高齢者になっている可能性も高い。そのため、認知機能低下に対応した資産管理手法や相続以外の資産移転の仕組みが必要になる。

最後は、行動変容につながる質の高い金融リテラシー教育・学びの場の提供である。金融リテラシーを知識だけではなく、実際の行動に結びつけるには行動経済学の知見と教える側が行動変容を促す高度な専門知識とスキルを保有することが重要となる。今年から高校の金融教育も本格化するが教える側の人材育成も急がれる。

村井 幸博

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