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2024.09.24
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大学淘汰の現実と求められる「学生保護」
~社会問題化する前に新たなセーフティネットを構築すべき(前編)~
谷口 智明
- 要旨
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急速な少子化に伴い、日本の大学は厳しい経営環境に直面している。中央教育審議会では、文部科学大臣からの諮問に対し、2024年8月に将来社会を見据えた高等教育の在り方について「中間まとめ」を公表した。本号では、前編として大学淘汰の時代が到来することを見据え、特に私立大学が経営破綻した際の学生保護の必要性について確認する。
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今後の18歳人口の動向や進学率等を踏まえると、2040年度以降、大学入学定員が現状のままならば、学生数は入学定員の8割程度しか埋まらないことになる。つまり、多くの大学が入学希望者を競って取り合うことになる。とりわけ学校数を増やしてきた私立大学を中心に大学淘汰の時代が到来している。
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足元、私立大学の半数超が定員割れとなり、特に小規模大学ほど深刻な状況にある。主に学生納付金に依存した収入構造のため、定員割れは私学経営に大きな影響を与える。「中間まとめ」でも、今後は定員未充足や募集停止、経営破綻に追い込まれる高等教育機関が更に生じることは避けられないと言及している。
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日本では私立大学の学生が約7割を占めており、高等教育の根幹を担う存在であることから、高い公共的使命が求められる。過去には閉鎖した私立大学から近隣大学に学生を受け入れるなど個別対応した例もあるが、破綻大学が増えれば、学生が行き場を失い社会問題化する恐れもあろう。
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一般的に、大学と学生の間には、授業料等を支払う一方で、授業等の教育役務を提供する「在学契約」が継続していると考えられる。破綻を理由に他大学への編入等は容易でなく、契約者保護の観点が重要だ。そこで、学生の教育機会を確保し、安心して学業を続けられるようセーフティネットの構築が必要である。
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経営破綻による社会的コストを最小限に抑えるためには、事前的措置と事後的措置の両面からの対策が必要だ。次号では、後編として筆者が関係する生命保険業における事前的措置と事後的措置のスキームを参考に「学生保護機構」(仮称)の創設など、学生のセーフティネットの枠組みについて、私見を述べたい。
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1.はじめに
急速な少子化に伴い、日本の大学は厳しい経営環境に直面している。とりわけ私立大学の半数以上が定員割れとなるなど、経営破綻のリスクも懸念される。一方で、突然の大学閉鎖は学生の教育機会を奪い、学生の将来に深刻な影響を及ぼすことになる。
中央教育審議会では、2023年9月に文部科学大臣より諮問された「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」に応じ、大学分科会の下に「高等教育の在り方に関する特別部会」を設置して、2040年以降を見据えた高等教育の目指すべき姿や具体的方策について検討を進めてきた。2024年8月には「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)」(以下、「中間まとめ」)が公表された。今後、さらに検討を重ね、2024年度内に答申される予定である。
そこで、本号では、前編として大学淘汰の時代が到来することを見据え、特に私立大学や私立短期大学(学校法人)(注1)が経営破綻した際の学生保護の必要性について確認する。さらに、次号では、後編として学生保護の枠組み構築に向けた制度整備について、生命保険業の事例を参考に私見を述べる。
2.大学淘汰の時代
(1)18歳人口と大学入学者数・大学数の推移
「中間まとめ」では、冒頭より「危機は今、我々の足下にある。それは、この急速な少子化である」として、少子化に対する強い危機感が示された。そこで、まず大学の経営環境について、需給の視点より説明したい。
需要サイドの学生について、一般的にわが国で大学進学者となる18歳人口は、1992年の約205万人を直近のピークとして、2023年には約110万人と半分近くまで減少している。文部科学省の推計によると、2040年には約82万人に減少し、その後は80万人程度で推移すると見込んでいる。但し、足元の状況はさらに深刻だ。厚生労働省「令和5年人口動態統計月報年計(概数)」によると、2023年の日本人の出生数は72.7万人と国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口(2023年日本人出生数73.9万人)よりも下振れしており、少子化は予測よりも加速している。2023年に生まれた子どもたちが18歳を迎える2041年の18歳人口は、80万人を大きく下回り70万人台となる蓋然性が高いだろう。
こうした18歳人口の動向や大学進学率等を踏まえ、大学進学者数(学生数)は2026年度に65万人とピークを打った後、2040年度以降50万人程度に減少すると推計されている。従って、供給サイドの大学入学定員が現状(2022年度約62.7万人)のままならば、学生数は入学定員の8割程度しか埋まらないことになる(資料1)。明らかに供給過剰であり、大学進学者にとっては、大学を選ばなければいずれかの大学に入学できるといった「大学全入の時代」となる。

また、供給サイドとして国公私立大学・短期大学数は、1992年度の1,114校から2001年度には1,228校とピークをつけたものの、2023年度は1,113校と1992年度比ではほぼ横ばいとなっている。しかも、私立大学に限ってみれば、1992年度の384校から2023年度の622校と約1.6倍に増加している。つまり、18歳人口が大きく減少するなかで、大学数を維持することができた背景には、大学進学率の上昇に伴う進学者数の増加といった効果が大きかったと考えられる。
以上をまとめると、極めて急速な少子化の進行により、18歳人口の減少が避けられないなか、多くの大学が入学希望者を競って取り合うことになる。とりわけ学校数を増やしてきた私立大学を中心に大学淘汰の時代が到来しているといえよう。
(2)私立大学の動向~過半数が入学定員割れ
そこで、私立大学の入学志願動向についてみてみよう(資料2)。日本私立学校振興・共済事業団(以下、私学事業団)の調査によると、学生の募集定員に満たない入学定員割れ(入学定員充足率100%未満)の私立大学の割合は、18歳人口がピークだった1992年度の7.1%から2024年度には59.2%と上昇傾向にあり、2校に1校以上が定員割れしている。1989年度の調査開始以降、過去最多を更新する結果となった。なかでも入学定員が1,000名を超える大規模な私立大学では、入学定員充足率が100%を超えているものの、600名未満の中小規模大学では70~80%台で、さらに規模が小さいほど充足率は低い傾向にある。また、資料2には含まれていない私立短期大学では、2024年度において91.5%が定員割れとなっており、深刻な状況が続いている。

では、私立大学の定員割れが続くと、何が起きるのだろうか。特に私立大学は国立大学と比べて学生納付金(入学金や授業料等)に依存した収入構造となっており、主な収入源となる学生納付金が減少することで、経営に悪影響を及ぼすことになる(注2)。例えば、2022年度決算において、私立大学を運営する全国の学校法人のうち、101法人が債務超過等により経営困難な状況にあり、うち16法人が自力での再生が極めて厳しい状態との報道もある(注3)。
私学事業団が、私立大学や私立短期大学の5年後の経営状況について、運営する学校法人に聞いたところ、「やや厳しい」と「厳しい」を合わせた回答は増加傾向にあり、2023年度で私立大学の約7割、私立短期大学の約8割となっている。なかでも「厳しい」との回答が私立大学で約2割、私立短期大学で約4割に至っている(資料3)。
こうした経営環境の悪化を鑑み、「中間まとめ」では「これから先の急速な少子化は、中間的な規模の大学が1年間で90校程度、減少していくような規模で進んでおり(注4)、これまでのような進学率上昇による入学者の増加を望むことは難しい。この危機に併せた対応をしなければ、今後は、定員未充足や募集停止、経営破綻に追い込まれる高等教育機関が更に生じることは避けられない。」と言及している。まさに大学経営の持続可能性について強い危機感が示されたといえよう。

3.学生保護(学生のセーフティネット)の必要性
学校法人の場合、私立学校の自主・自律を基本とし、所轄庁の指導・監督は抑制的であるべきとの見方もあるが、規模からしても高等教育の根幹を担っており、私学助成等の公費負担も行われるなど、高い公共的使命を有する存在である(注5)。例えば、主要国における国公(州)立大学と私立大学の学生数の構成をみると、欧米では、国公(州)立の学生が圧倒的多数を占めているが、日本や韓国は私立の学生が約7割という特徴を持っている(資料4)。
大学が経営破綻し突然閉鎖されることになれば、在学生の教育機会が失われ、卒業が困難になる可能性もある。過去、私立大学が在学生の卒業を待たずに閉鎖されたケースでは、文部科学省の主導のもと、各大学団体に協力を求めつつ、近隣の大学等で学生を受け入れてきたが(注6)、将来的に大学破綻が増えることになれば、個別対応にも限界があろう。
一般的に、大学と学生との間には、大学が修業年限を通じて授業料の支払いを受ける一方で、授業を実施し、学校の設備を利用可能な状況に置くなどの役務を提供する「在学契約」が継続していると考えられている(注7)。このなかで、学生は教育サービスの提供を受け、必要単位を取得するなどその課程を修了した結果、大学は大学教育修了相当の知識・能力の証明として学位を授与する。この学位は国際通用性のある能力証明ということもできる。大学が経営破綻したからといって、学生が他大学に再入学したり編入したりすることは容易ではなく、この契約が一方的に解除されることは、学位や卒業証明書の扱いを含め、その後の人生に多大な影響を及ぼす可能性がある。こうした状況を考慮すると、契約者としての学生を保護するという契約者保護の観点が重要だ。
そこで、「中間まとめ」では、縮小・撤退への支援として「学校法人が解散する場合等における学生保護の仕組みの構築や残余財産の帰属の要件緩和」が掲げられた。つまり、私立大学や私立短期大学(学校法人)が経営破綻した際、学生の教育機会等を確保するためのセーフティネットを予め構築しておく必要がある。経営破綻の末、未来を担う人材が路頭に迷うといった社会的な混乱が起きる前に、教育機会を確保し、安心して学業を続けられる環境を整えておかなければならない。例えば、民間企業の中でも、公共性の高い事業を営み、経営破綻した際には預金者保護や契約者保護の制度を備える金融機関の仕組みを大学に応用することも考えられるのではないだろうか。

4.小括
それでは、具体的にどのようなスキームが考えられるだろうか。大学が経営破綻した際の学生保護の枠組みについては、特に前例がある訳ではない。一般的に経営破綻は突然発生するものではなく、経営悪化に陥っている会社を経営改善あるいは早期に退出させるといった事前的措置の方が、経営破綻後の事後的措置よりも契約者や取引先、債権者の負担といった社会的コストが小さく済むと考えられる。つまり、大学の経営破綻に伴う社会的コストを最小限に抑えるためには、事前的措置と事後的措置の両面からの対策が必要となる。
そこで次号では、後編として、筆者が所属する生命保険業における事前的措置と事後的措置のスキームをケーススタディとして取り上げ、「学生保護機構」(仮称)の創設など、学生のセーフティネットの枠組みについて、私見を述べたい。
【注釈】
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学校法人は私立学校を設置運営する主体で公益法人の一つ。1つの学校法人が、大学や短期大学、高等学校、中学校など複数の私立学校を設置することができる。私立学校法によると、所轄庁は、私立大学及び私立高等専門学校を設置する学校法人については文部科学大臣、私立高等学校以下の学校をのみを設置する学校法人については都道府県知事となる。
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2021年度の大学・短期大学を設置する学校法人(附属病院や設置する高等学校以下の学校の収入も含む)の収入の財源別比率は、学生納付金が48%を占める。これに対して、国立大学法人は、公財政(運営費交付金、補助金等収益の合計)が35%、学生納付金が10%である。
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2024年5月20日日本経済新聞朝刊「私立大101法人『経営困難』 全国18%、再編・統合加速も」。
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文部科学省によると、大学・短期大学への進学者数は、2040年度頃には年間約23,355人減少する一方で、2023度の大学・短期大学の入学定員の中央値が270人であることから、中間的な規模の大学が1年間で90校程度減少していく規模と試算された。
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教育基本法第八条では「私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。」とし、「公の性質」を有しているとされている。
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法令違反や不祥事、経営悪化により、2013年に文部科学省から解散命令が出され、在学生がいる中で閉鎖された創造学園大学(学校法人堀越学園)の場合、学生の転学支援について、文部科学省より各大学団体等に協力を依頼して対応した。) 国立大学法人福島大学行政政策学類「学修案内(令和4年度入学者用)」はじめに「大学と学生の間柄について」参照。
【参考文献】
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文部科学省中央教育審議会大学分科会高等教育の在り方に関する特別部会(2024年)「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について(中間まとめ)」
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文部科学省中央教育審議会大学分科会(2023年)「学修者本位の大学教育の実現に向けた今後の振興方策について(審議まとめ)」
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文部科学省大学設置・学校法人審議会学校法人分科会学校法人制度改善検討小委員会(2018年)「学校法人制度の改善方策について」
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内閣府規制改革推進会議第5回人への投資ワーキング・グループ(2022年)「『事後型の規制・制度』による学校法人・学校の連携・再編及び撤退の促進に係る文部科学省の取組について」
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日本私立学校振興・共済事業団(2023年)「令和5(2023)年度私立大学・短期大学等入学志願動向」
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日本私立学校振興・共済事業団(2023年)「私立学校運営の手引き(2023年3月改訂版)」
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経済同友会(2018年)「私立大学の撤退・再編に関する意見-財務面で持続性に疑義のある大学への対応について-」
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久下眞一(2020年)「学校法人会計基準の課題-「継続性」と「健全性」を把握する観点からの見直し-」三省堂書店/創英社
谷口 智明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

