ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

ライフデザインの視点『コロナは引っ越し(移住)意欲を高めたのか』

稲垣 円

目次

地方分散への期待

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに、テレワークをはじめとした、場所を問わない働き方は珍しいものではなくなった。こうした動きを「地方分散の追い風」として、人口が集中する都市部から地方への移住や休暇先で仕事をするワーケーションを推進する動きも活発化している。では、生活者は実際にどのように捉えているのだろうか。本稿では、当研究所が実施した「第4回 新型コロナウイルスによる生活と意識の変化に関する調査」の結果から、生活者の引っ越し(移住)意識について着目した。

なお、本調査では、新型コロナウイルス感染拡大が生活者の「住まいを移す」ことへの意識や行動にどの程度影響を及ぼしたのかを確認するために「引っ越し」と「移住」を同義として扱っている。

引っ越し(移住)することへの関心

資料1は、現在居住する地域から別の地域へ引っ越し(移住)することへの関心をたずねた結果である。

感染拡大に関わらず引っ越し(移住)に関心を持つようになったという回答は、全体の約2割であった(資料1の①~④の合計)。なかでも、「①感染拡大をきっかけに関心を持つようになった」と回答した人は7.4%、過去1年以内に実際に引っ越し(移住)した人は、1.4%であった(⑤・⑥合計)。

7割強の人は「⑨感染拡大以前から現在も関心がない」と回答していることから、生活者にとって感染拡大は、引っ越し(移住)を促すほどの大きな関心事になっていない、と言うのが現状であると思われる。

資料1 引っ越し(移住)することへの関心
資料1 引っ越し(移住)することへの関心

関心はあるけど、具体的な計画は立てていない

では、引っ越し(移住)に関心を持つようになった層(資料1 ①~④)は、具体的な予定を立てているのだろうか(資料2)。行き先・時期の両方またはいずれかが決まっている人は33.4%(「行き先や時期は既に決まっている」「時期は決まっているが、具体的な行き先は決まっていない」「行き先は決まっているが、具体的な時期は決まっていない」の合計)、残り6割強の人は「関心はあるが、行き先や時期などの具体的な計画は立てていない」と回答した。

引っ越し(移住)への関心はあるものの、その大半の人は具体的に行動に移すまでには至っていない様子がうかがえる。

資料2 現在の引っ越し(移住)に関する予定
資料2 現在の引っ越し(移住)に関する予定

引っ越し(移住)を阻むものは?

では、関心があるのに具体的に計画を立てていないのはなぜなのか。理由として最も高い割合を示したのが「経済的に余裕がないため」(34.7%)である。続いて、「現在の仕事や働き方を変えることが難しいため」(22.2%)、「現在の生活環境に満足しているため」(19.2%)であった(資料3)。当然ながら、住まいを移す際はその前後に大きな費用が掛かる。金銭面だけでなく時間や様々な調整のコストは、積極的な行動を妨げる要因となり得るだろう。仕事面においても、出社義務を伴う職場である限りテレワークを実践していたとしても、居住地の制約はなくならず選択肢は限られる。引っ越し(移住)を促すには、企業側がフルタイムのテレワークが可能な就労環境の整備を進め、移住の選択肢を取りやすくする視点や支援が不可欠だと言える。

資料3 引っ越し(移住)に関心があるが、 具体的な計画を立てていない理由
資料3 引っ越し(移住)に関心があるが、 具体的な計画を立てていない理由

起爆剤となる施策、まずは二拠点やお試しで

そして現在の生活環境に満足している人に引っ越し(移住)を促すには、強い動機が必要だ。近年では、「国内教育移住」と言われるように、子どもにとってより良い環境を求めて家族で移住するケースもあり、ある自治体では人口増に寄与するほどの現象になっている事例もあるという。子どもにとって理想的な教育環境が備わっており、かつ暮らしに必要な要素がある程度満たされる地域であれば、引っ越し(移住)を促す起爆剤となるのではないだろうか。

ここ1年ほどで平日は都心にいて休日は地方で過ごす、あるいは仕事は地方で行い、会議の時だけ都心といったデュアルライフ(二拠点生活)や多拠点生活をしやすくするサービス(定額制移住サービス、シェアハウス、コワーキングスペース)、ワーケーション向けの長期滞在型のホテルプランなど、気軽に移動、滞在しやすい環境が整備されつつある。多くの自治体が「お試し移住」なども実施している。こうしたサービスを活用することで移住への抵抗は少なくなるはずだ。

インフラ(滞在場所や通信環境、自分に近い境遇の人の経験談や相談ができるプラットフォーム)や制度の整備はもちろん、生活者を惹きつける自治体独自の戦略も引き続き検討が必要であろう。

稲垣 円


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