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DXの視点『Borger.dkがもたらすデジタル社会』

柏村 祐

国連が年に一度調査を行うデジタル化政府ランキングによれば、2020年度の1位はデンマークとなった。デンマークのデジタル化の躍進は、政府が電子政府戦略を着実に実行してきたことにある。着実にデジタル化を成功させたデンマークで特に注目される点として、2007年から運用を開始した市民ポータルBorger.dkが挙げられる。Borger.dkは、住宅・子供・年金・暮らし全般を支える多種多様な行政サービスを提供しており、市民はBorger.dkにアクセスすることで、様々な行政手続きなどを行うことができる。

例えば、引っ越しに伴う手続きを行う際には、Borger.dkの住宅・移転メニューから手続きを行えば、関連する国や地方自治体の組織に情報が連携され、ワンストップで手続きが完了する。また、デンマークでは、住んでいる地域で「担当医」を決めておく必要がある。そのため、住宅・移転メニューの中には「担当医」を選択するサービスも提供されており、国民はオンライン上で患者の受け入れ可能人数、バリアフリーへの対応状況の情報を見ながら「担当医」の申込みができる。

加えてBorger.dkでは、2008年から個人毎にカスタマイズできる機能が付加されたため、過去の申請状況の確認のみならず、これから必要な手続きや期限、受け取れる年金や申し込み可能な助成金などその人に必要な情報がタイムリーに提供され、速やかに行政サービスにアクセスできるようになった。

デンマーク大使館によれば、オンライン化されたことによる効果として、国民の行政手続きに要する時間が平均1~2日減少し、利便性が大きく向上したことを挙げている。手続きが複雑な会社の設立や納税についてもオンラインで処理が可能であり、数分で手続きを完了させることができる。一方、行政コストは、電話や窓口、紙書類で手続きした場合と比較して1/2~1/3.75に削減されており、国民と行政双方にメリットが生まれている。デンマーク政府の調査によれば、Borger.dkの利用者の91%は「非常に満足」または「満足」と回答している。

Borger.dkのポータルシステムの構成
Borger.dkのポータルシステムの構成

デンマークのデジタル化が成功している要因は、デジタル化を国の成長エンジンの中核に据え、それを掛け声だけに終わらせず、国民目線で着実に実行してきたことにある。コロナ禍で様々な遅れが露呈した日本の行政サービスのデジタル化を実現するためには、国民から共感されるサービスデザインを行うことに加え、政策実行の際にデジタルを優先する法律を整備することや、進行中のプロジェクトについて有識者を交えて客観的にモニタリングし、適宜改良や見直しをしていく機動力も必要だろう。例えば、デジタル化に有効活用できるマイナンバーカードの普及率が低い要因として、国民に利便性が感じられないことがある。今後デジタル化を実現するためには、国民目線の取組みが必要であり、既にデジタル化に成功したデンマークからも学びつつ、機動的に実践していくことが求められている。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員 テクノロジーリサーチャー
専⾨分野: AI、テクノロジー、DX、イノベーション

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