インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ブラジル中銀が利下げサイクル停止、政府との対立激化は必至か

~G20議長国で中銀の独立性が脅かされる不名誉感、レアル相場の行方には不透明感がくすぶる~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は18~19日に開催した定例会合で政策金利を10.50%に据え置き、利下げサイクルの停止を決定した。同国のインフレは一時18年ぶりの高水準となるも、一昨年後半以降頭打ちに転じ、中銀は昨年8月以降に累計325bpの利下げを実施した。昨年のレアル相場は投資妙味の高さを理由に堅調さが続いたが、年明け以降は経済のファンダメンタルズの脆弱さが増すなかで頭打ちしている。よって、中銀は先月の定例会合で利下げ幅の縮小やフォワードガイダンス撤廃に動くなどハト派姿勢を修正してきた。他方、ルラ大統領は中銀の政策運営を公然と批判して人事を盾に独立性を脅かす動きをみせるなかで中銀の対応が注目された。中銀は今回の決定を全会一致で決定しており、すべての政策委員がインフレを警戒している様子がうかがえる。中銀と政府の軋轢は一段と広がると見込まれ、同国は今年のG20議長国ながら中銀の独立性に疑念が生じるなど、世界経済や国際的な場に少なからず影響を与えることも懸念される。

ブラジル中銀は18~19日に開催した定例の金融政策委員会において政策金利(Selic)を10.50%に据え置き、昨年8月に始まった利下げサイクルの停止を決定した。同国ではここ数年の度重なる大干ばつ、商品高、金融市場の米ドル高による通貨レアル安が重なりインフレが大きく上振れしたため、中銀は物価と為替の安定を目的に2021年3月から累計1175bpもの利上げを実施した。なお、一時は18年ぶりの高水準となったインフレは一昨年後半以降に頭打ちの動きを強めたほか、昨年大統領に返り咲きを果たしたルラ大統領は早期の景気下支えを図るべく中銀に利下げを公然と要求するなど『圧力』を掛ける動きをみせた(注1)。こうした状況にも拘らず中銀は独立性を重視して慎重姿勢を崩さなかったものの、インフレが中銀目標に回帰する動きをみせたことで昨年8月に利下げに動くとともに、先月の定例会合まで7回連続で累計325bpの利下げを実施してきた。なお、昨年の国際金融市場では米ドル高圧力が度々再燃する動きがみられたものの、中銀の利下げにも拘らずインフレ鈍化を受けた実質金利(政策金利-インフレ)のプラス幅拡大による投資妙味の高さを追い風にレアル相場は比較的堅調な推移をみせてきた。しかし、上述のようにルラ大統領はその後も度々中銀の独立性を脅かす姿勢をみせるとともに、ルラ政権の下ではバラ撒き政策を通じた歳出圧力が強まるなかで連邦政府の基礎的財政収支は赤字基調に転じており、公的債務残高は拡大ペースを加速させるなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増す動きがみられる。こうした動きを受けて年明け以降のレアル相場は一転頭打ちの動きを強めるなど潮目が変わりつつあるほか(注2)、先月にはエネルギー価格の設定や投資計画などを巡ってルラ大統領などと軋轢が生じていた国営石油公社(ペトロブラス)のプラテス前CEOが事実上更迭されるなど政治介入が再燃する動きもみられる(注3)。さらに、世界経済を巡る不透明感の高まりを受けた国際原油価格の調整の動きも相俟ってその後のレアル相場は調整の動きを強めるとともに、主要株価指数も頭打ちの動きを強めるなど物価や景気に悪影響を与える懸念が高まっている。よって、中銀は先月の定例会合まで断続利下げに動くも、利下げ幅を段階的に縮小させるとともに、フォワードガイダンスを撤廃するなどレアル安に配慮する姿勢をみせてきた(注4)。足下のインフレ率はインフレ目標の域内で推移するも、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とする物価上昇に加え、レアル安による輸入インフレの動きも重なり頭打ちが続いた流れに変化の兆しが出ており、インフレ期待も上昇基調を強めている。こうしたなか、定例会合の前日にルラ大統領がラジオインタビューにおいて中銀のカンポス・ネト総裁に対して「自主性がなく国に害を及ぼす方が多い」と不満を述べた上で、今年末に同氏が任期満了を迎えることを前提に「次期総裁には市場の圧力に屈せず経験豊富な責任感のある人が望ましい」と述べるなど人事を通じて圧力を掛ける姿勢をみせたため、中銀の決定に注目が集まった。今回の決定について、会合後に公表した声明文では「緩和サイクルの中断を全会一致で決定し、経済活動の堅調さや政策委員間のインフレ見通しの上昇、インフレ期待の不安定化が進んでおり、一段の注意が必要である」として、すべての政策委員が利下げサイクルの停止に同意した。なお、先月の定例会合ではルラ政権下で指名された4人の政策委員が大幅な利下げを主張していたことを勘案すれば、上述のようにルラ大統領が中銀人事を巡って圧力を強めているものの、政治的な中立性や独立性を重視している様子がうかがえる。年明け以降は景気の底打ちが確認されているほか(注5)、その後も南部での洪水被害の影響などを反映してインフレ見通しも「今年は+4.0%、来年は+3.4%」と前回見通し(今年は+3.8%、来年は+3.3%)からともに上方修正しており、すべての政策委員がインフレを警戒している様子がうかがえる。他方、今後は政府と中銀の間の軋轢がこれまで以上に広がることも予想されるほか、そのことがレアル相場や株式市場などに悪影響を与える可能性もある。中銀の独立性を巡る問題といえばここ数年はトルコがその俎上に載せられる展開が続いてきたものの、このところのトルコを取り巻く状況は大きく変化しつつあるなか、今年はG20(主要20ヶ国・地域)の議長国であるブラジルがそうした『不名誉』な評価を受ける可能性が高まっていることは、世界経済や国際的な場の在り様に少なからず影響を与えることにも留意する必要があろう。

図1 レアル相場(対ドル)と主要株価指数(ボベスパ)の推移
図1 レアル相場(対ドル)と主要株価指数(ボベスパ)の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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