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2026.04.10
アジア経済
原油
アジア経済見通し
中国経済
イラン情勢
中国、企業はインフレに直面も、家計はデフレ圧力を脱せず
~中東情勢悪化による原油高の一方、家計部門は雇用不安と不動産不況の「呪縛」が続く~
西濵 徹
- 要旨
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イスラエルと米国によるイラン攻撃を契機に、中東情勢は緊迫化している。イランによる報復やホルムズ海峡の事実上の封鎖により原油価格は上昇し、世界的なエネルギーインフレへの懸念が高まった。4月7日に米国とイランが2週間の停戦に合意したものの、湾岸産油国のインフラ被害やホルムズ海峡封鎖の解除見通しが立たず、供給制約への懸念は依然残る。
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中国は一次エネルギーに占める石炭比率が6割を上回るなど石炭依存度が高いうえ、ロシア産原油を割安に調達できるため、原油高の直接的影響は他のアジア新興国より限定的である。しかし、代替需要の拡大による石炭価格の上昇など、エネルギー価格上昇の影響は免れない。
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3月の生産者物価(調達価格)は前年比+0.8%と約2年ぶりにプラス転換し、企業部門はインフレ圧力に直面している。原油、天然ガス高を背景にエネルギー・化学・非鉄金属など原材料価格が上昇。生産者物価(出荷価格)も前年比+0.5%と3年半ぶりにプラス転換したが、企業間取引で価格転嫁が進む一方、消費財は下落するなど家計への価格転嫁は進んでいない。
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3月の消費者物価は前年比+1.0%に鈍化した。エネルギー価格は上昇する一方、食料品価格が下落したことが影響した。コアインフレ率も前年比+1.1%に鈍化、価格転嫁が進まないことで財価格は落ち着いているうえ、サービス物価も下落している。雇用不安や住宅価格下落による資産デフレ圧力を背景に、家計の節約志向は根強くデフレ基調が続いている。
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中国経済は企業部門のインフレ圧力と家計部門のデフレマインドが併存する対照的な状況にある。不動産不況の出口も見通せないなか、この「温度差」が企業業績を圧迫するとともに、先行きは市場環境に影響を与えるリスクに注意が必要と考えられる。
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イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに、中東情勢は緊迫する展開が続いている。イスラエルと米国の最初の攻撃では、イランの最高指導者であったハメネイ師をはじめとする政府要人を殺害するなど、一定の目的を達成した。一方、イラン革命防衛隊はイスラエルのほか、中東の米軍基地や関連施設、米国と関係の深い国々への報復攻撃を活発化した。さらに、ペルシャ湾とオマーン湾をつなぐ海上輸送の要衝であり、ペルシャ湾岸産油国の輸出の大部分、世界の原油消費量の2割が通過するホルムズ海峡を事実上封鎖した。結果として、中東産原油の供給懸念を理由に原油価格は上昇し、全世界的にエネルギー価格の上昇によるインフレ懸念が高まっている。トランプ米大統領は当初、攻撃期間は1~2週間、長くても3~4週間にとどまるとの見方を示したものの、1ヶ月を経過しても当初の目的(核開発施設の破壊、核燃料の奪取、テロ支援能力の排除)の達成にほど遠い状況が続いた。また、米国とイランの双方と関係が深いパキスタン、トルコ、エジプトなどが仲介役となり、水面下で協議を行ってきたが、双方の間で認識の隔たりの大きさが意識されるなど、事態が長期化していく可能性が懸念された。
こうしたなか、4月7日(米国時間)に米国とイランが2週間の停戦で合意するとともに、最長15日間の停戦交渉に臨むことを明らかにしており、前進すれば事態打開に向かうことが期待される。しかし、前述したイラン革命防衛隊による報復攻撃では、湾岸産油国のインフラが打撃を受けており、正常化に時間を要することは避けられない。さらに、ホルムズ海峡の解放に向けた見通しも立っておらず、中東情勢の緊迫化をきっかけとする供給制約への懸念は残る。中国は、一次エネルギーに占める石炭比率が6割を上回るなどアジア新興国のなかで突出しており、原油高による直接的な影響を比較的受けにくいとされる。しかし、中東情勢の緊迫化後は代替需要の拡大を反映して石炭価格も上昇しており、エネルギー価格の上昇は避けられない。さらに、停戦合意の発表にもかかわらず、前述した湾岸産油国におけるインフラ被害、ホルムズ海峡を巡る不透明感を理由に、原油価格は高止まりしている。なお、中国は中東産原油に比べて割安なロシアのシベリア産原油やサハリン産原油を輸入しており、原油高の影響は他のアジア新興国に比べて小さいと見込まれる。とはいえ、エネルギー価格上昇の影響を免れることはできない。
原油高の動きが企業部門を中心にインフレ圧力を招くなか、3月の生産者物価(調達価格)は前年同月比+0.8%と前月(同▲0.7%)からプラスに転じている。プラスに転じるのは2023年1月以来であるうえ、プラス幅も2022年9月以来の水準となっている。前月比も+1.2%と7ヶ月連続で上昇しており、前月(同+0.7%)から加速して2022年4月以来のペースとなるなど急速にインフレ圧力が強まっている。原油や天然ガスなどの価格上昇の動きはエネルギー関連や化学原材料関連の物価を大幅に押し上げるとともに、非鉄金属関連など幅広い原材料価格の上昇につながっている。一方、木材関連や農産品関連の原材料価格は引き続き下落基調で推移しており、分野ごとに直面する物価にばらつきが生じている。また、川上段階でインフレ圧力が強まっていることを反映して、生産者物価(出荷価格)も前年同月比+0.5%と前月(同▲0.9%)からプラスに転じている。プラスに転じるのは2022年9月以来3年半ぶりのこととなる。前月比も+1.0%と6ヶ月連続で上昇するとともに、前月(同+0.4%)から加速して2022年3月以来のペースとなるなど、インフレ圧力が広がりをみせている。分野別では、原材料や中間財といった企業間取引を中心に価格転嫁が進んでいる一方、消費財価格は引き続き下落基調で推移しており、家計部門の節約志向が根強いなかで価格転嫁の難しさがうかがえる。

消費財への価格転嫁が難しいことを反映して、3月の消費者物価は前年同月比+1.0%と、前月(同+1.3%)から伸びが鈍化している。前月比も▲0.7%と前月(同+1.0%)から4ヶ月ぶりの下落に転じた。2026年は春節(旧正月)連休の時期が前年から大幅に後ずれするとともに、日数が多かったことも影響している。春節連休の影響が一巡したことを反映して、豚肉(前月比▲7.3%)や野菜(同▲10.1%)、果物(同▲3.3%)、卵(同▲2.7%)、水産品(同▲2.6%)など生鮮品を中心に軒並み食料品価格が下落した。その一方、原油高を反映してエネルギー価格の上昇圧力が強まるなか、政府は激変緩和措置として価格抑制策に動いているものの、自動車用燃料(前月比+10.0%)は大幅に上昇するなどすでに影響が顕在化している。食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率も前年同月比+1.1%と前月(同+1.8%)から鈍化しており、消費者物価全体のインフレ率とともに中銀目標(2%)を下回る推移が続いている。前月比も▲0.7%と前月(同+0.7%)から5ヶ月ぶりの下落に転じた。春節連休の影響が一巡したことを反映して幅広くサービス価格に下押し圧力がかかるとともに、食料品以外の財価格も下落する動きが確認されるなど、デフレ基調が続いている。足元の企業マインドの動きをみると、製造業、サービス業問わず幅広い分野で雇用調整圧力が強まる動きが確認されており、エネルギーなど生活必需品を中心とする物価上昇が実質購買力の下押し圧力となることが懸念されるなか、家計部門の節約志向が一段と強まることも予想される。

足元の中国国内では、企業部門は中東情勢の緊迫化を理由にインフレ圧力に直面する一方、家計部門は雇用不安や生活必需品を中心とする物価上昇が懸念されるなかで節約志向を強めるなど、デフレマインドが根強い対照的な状況にある。家計部門が節約志向を強める背後には、資産に占める割合が高い住宅価格が下落基調を強めるなど資産デフレに伴うバランスシート調整圧力に直面していることも影響している。3月の全人代(第14期全国人民代表大会第4回全体会議)では、不動産市場に関連して、在庫の買い取りによる保障性住宅の供給拡大、積立金制度の改革深化、引き渡し保障に向けたホワイトリスト制度の拡充による債務不履行リスクの抑制といった方針が示された。しかし、これらは過去に実施された施策の域を超えておらず、深刻な状況が続く不動産不況の脱却に向かうかは不透明である。このように、物価を巡る企業と家計の「温度差」が続くことが企業業績の圧迫要因となることで、活況をみせてきた市場環境に影響を与える可能性にも注意が必要である。

西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

