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2026.03.27
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メキシコ中銀、インフレと景気悪化のリスクを睨み、僅差で利下げ決定
~原油高、有事のドル買い、治安情勢の悪化、USMCA再交渉の不透明感、ペソ相場に不安材料山積~
西濵 徹
- 要旨
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メキシコ中銀は、3月26日の定例理事会で政策金利を25bp引き下げて6.75%とすることを決定した。2024年3月に利下げを開始して以来、累計450bpの利下げとなる。トランプ関税による輸出を巡るリスクや低成長が利下げを促す一方、最低賃金引き上げによるインフレ懸念から2025年2月会合では利下げを一時休止した。しかし、中東情勢が景気の下振れ懸念となるなか、今回は2会合ぶりに利下げを再開した。
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2025年のインフレ率は中銀目標の範囲内で推移したものの、年末以降にかけて加速し、3月前半には前年比+4.63%と一段と加速して中銀目標の上限を上回っている。中東情勢の緊迫化による原油高、ペソ安による輸入物価の上昇、治安悪化、USMCA再交渉の不透明感など、物価、経済両面でのリスクが高まり、市場では金利据え置き予想が大勢を占めていた。よって、今回の利下げ決定は予想外のものとなった。
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声明文では「3(利下げ)対2(据え置き)」の僅差で利下げが決定されたことが明らかにされた。中銀は景気下振れリスクを重視して利下げを決定したものの、同時に短期的なインフレ上振れも認めており、判断の整合性を欠く面は否めない。さらに、先行きはデータ次第で追加利下げの可能性を示唆している。したがって、強含む動きをみせてきたペソ相場については当面、上値の重い展開が続く可能性に留意が必要であろう。
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メキシコ銀行(中央銀行)は、3月26日に開催した定例理事会において、政策金利を25bp引き下げて6.75%とすることを決定した。ここ数年のメキシコは、インフレ率が中銀目標(3±1%)の上限を上回る伸びが続いたものの、2023年に鈍化に転じたため、中銀は2024年3月にコロナ禍一巡後初の利下げに踏み切った。その後も中銀は一時休止を挟みつつ、2024年8月から2025年12月まで12会合連続で利下げを実施してきた。背景には、トランプ米政権の関税政策により、輸出の約8割、名目GDP比で3割にのぼる対米輸出に悪影響が出ることへの懸念があった。米国との協議を経て、米国はUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に準拠する財を関税の対象外とした。さらに、米連邦最高裁による違憲判決を受けて、米国政府は相互関税を終了し、通商法122条を根拠とする追加関税を課しているものの、USMCAに準拠する財は対象外としている。また、メキシコは中国を念頭に、今年1月から同国と貿易協定を締結しない国からの輸入品に最大50%の追加関税を課しており、こうした米国の意向に沿った動きは、米国が同国に比較的融和姿勢を示す一因になっていると考えられる。とはいえ、2025年の経済成長率は+0.6%にとどまり、実体経済は勢いを欠いている。一方、政府は1月から最低賃金を大幅に引き上げるなどインフレ加速が懸念されたため、中銀は2025年12月会合で先行きの利下げ休止を示唆し(注 )、2月会合で13会合ぶりに利下げ局面を休止させた(注 )。中銀は今回、2会合ぶりの利下げに動いたこととなり、2024年3月以降の利下げ幅は累計450bpとなる。

2025年のインフレ率は一時的に上振れする動きがみられたものの、基本的に中銀目標の範囲内で推移してきた。しかし、年末にかけて緩やかに加速して、2月は前年同月比+4.02%と目標の上限を上回るとともに、コアインフレ率も同+4.50%と引き続き高止まりしている。また、イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに中東情勢が緊迫化しており、原油価格は大きく上振れするなど物価上昇圧力が強まる懸念が高まっている。3月前半時点のインフレ率は前年同月比+4.63%と一段と加速して2024年末以来となる水準となるなど、早くもインフレが顕在化している。足元の金融市場においては、中東情勢の緊迫化を受けた「有事のドル買い」の動きが強まっているうえ、メキシコ独自の事情も影響して、米ドルに対して上昇基調が続いた通貨ペソ相場を取り巻く環境も変化している。メキシコでは2月末、軍が米国政府の協力を得る形で麻薬カルテルのリーダーを殺害したが、その後は報復や後継者争いの激化などが重なる形で治安情勢が悪化している(注 )。さらに、今年7月にUSMCAの再交渉が予定されるため、今月から再交渉に向けたUSTR(米通商代表部)とメキシコ政府(経済省)による協議が行われているが、その行方については不透明感が残る。事実、USTRは同国を含む16の主要貿易相手国・地域を対象に、通商法301条に基づく不公正な貿易慣行に関する調査を開始することを発表し、通商法122条を根拠とする追加関税が失効する今年7月までに新たな関税を課す可能性を示唆している。そして、メキシコは産油国であるものの、近年の産油量の減少に加え、エネルギー自給政策も重なり輸出量は大きく減少する一方、石油製品の輸入は大幅に拡大しており、エネルギー収支(輸出と輸入の差し引き)は赤字となっている。足元の原油価格の上昇は収支の赤字幅拡大により、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を悪化させる。ペソの対ドル相場は調整に転じており、輸入物価を通じたインフレ加速を招く懸念も高まっている。よって、金融市場では中銀が金利を据え置くとの見方が大勢を占めていたため、今回の決定は予想外のものとなった。


なお、会合後に公表された声明文では、今回の決定は「3(25bpの利下げ)対2(据え置き)」と票が割れるなど、当局者の間で意見の分裂が拡大するとともに、僅差で決定されたことが明らかにされた。そのうえで、今回の決定について「中東情勢の深刻化がもたらす課題に対処するために適切と判断した」との考えを示した。同国経済について「2026年初めに著しく弱含む動きが確認されている」としたうえで、「中東情勢の動向は極めて不透明ではあるが、景気の下振れリスクを招くと見込まれる」として利下げ実施が優勢になったとの見方を示した。物価動向については「上下双方に振れるリスクがある」との見方を示しつつ、「リスクを巡るバランスとインフレ見通しを勘案したうえで利下げサイクルを継続することが適切と判断した」との考えを示した。そして、先行きの政策運営について「マクロ経済と金融の状況の推移に応じて、追加利下げの妥当性と時期を評価する」として、さらなる利下げに含みを持たせる考えをみせている。しかし、今回示されたインフレ見通しでは、短期的にインフレが上振れするとの見方が示されている。こうした状況にもかかわらず、中銀が利下げを決定したことは整合性を欠く印象は拭えない。今回の決定は、中銀当局者の間では景気下振れに対する警戒感を意識する向きが依然として強いことを示唆しており、足元のペソ相場の調整は政策判断に影響していないと見込まれる。したがって、当面のペソの対ドル相場は上値の重い展開が続く可能性に留意する必要があろう。

注1 2025年12月19日付レポート「メキシコ中銀は12回連続利下げも、ガイダンス修正で利下げ休止か」
注2 2月6日付レポート「メキシコ中銀は13会合ぶりの利下げ局面休止、一進一退が続くか」
注3 3月10日付レポート「メキシコ・ペソ相場に変化の兆し、先行きの方向性は?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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