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2026.04.07
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イラン情勢が金融市場を揺さぶるなかでの新興国の「体力測定」
~資金流入が活発化してきたなか、環境一変で「体力」が覚束ない国も散見される~
西濵 徹
- 要旨
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- イスラエルと米国によるイランへの軍事行動を機に、中東情勢は緊迫化している。イランはホルムズ海峡封鎖や報復攻撃で対抗し、原油高とインフレ懸念が世界に広がっている。軍事行動開始から1ヶ月以上が経過しているものの、トランプ氏が掲げた当初目標は未達の状況が続いている。停戦協議も双方の隔たりが大きいとされるなど、事態が長期化していくリスクは小さくない。結果として、金融市場はリスクオフの様相を呈している。
- 中東情勢が緊迫化する前の金融市場においては、米国の関税政策を懸念した商品市況の調整によるインフレ懸念の後退を背景に世界的な金融緩和が進むなど、「カネ余り」が続いた。こうした状況も追い風に、新興国への資金流入が活発化する動きがみられた。しかし、足元においては一転してリスク回避ムードが強まっており、新興国からの資金逃避が活発化しているうえ、原油高によるインフレを警戒した資金流出の動きが同時進行している。
- 金融危機への発展を断定するのは時期尚早と見込まれるが、一部の新興国の外貨準備高はIMFが示す適正水準を下回り、資金流出の継続でさらに悪化している可能性がある。トルコでは中銀による金売却の動きも確認されており、耐性の低下が懸念される。過度な悲観は不要だが、こうした構造的脆弱性を念頭に置き、市場動向を冷静に見極めることが重要である。
イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに、中東情勢の緊張が高まっている。イスラエルと米国の最初の攻撃では、イランの最高指導者であったハメネイ師をはじめとする政府要人を殺害するなど、一定の目的を達成した。一方、イラン革命防衛隊はイスラエルのほか、中東の米軍基地や関連施設、米国と関係が深い国々を標的とする報復攻撃を活発化させている。さらに、ペルシャ湾やオマーン湾をつなぐ海上輸送の要衝であり、ペルシャ湾岸産油国の原油輸出の大部分、世界の原油消費量の約2割が通過するホルムズ海峡を革命防衛隊は事実上封鎖している。結果、中東産原油の供給懸念を理由に原油価格は上昇しており、全世界的なエネルギー価格の上昇によるインフレ懸念が高まっている。トランプ米大統領は当初、攻撃期間が1~2週間、長くても3~4週間にとどまるとの見方を示していた。しかし、軍事行動の開始から1ヶ月以上が経過した現時点においても、トランプ氏が掲げた当初の目的(核開発施設の破壊、核燃料の奪取、テロ支援能力の排除)は達成されていない。報道では、米国とイランの双方と関係が深いパキスタン、トルコ、エジプトなどが仲介役となり、水面下で協議を行っているとの情報が伝えられている。なお、一連の非公式協議では、米国が15項目の停戦案を提示する一方、イランも5項目の停戦条件を逆提示するなど、双方の認識に隔たりが大きい様子がうかがえる。トランプ氏は1日に国民に対して行った演説において、目標達成に向けてあと2~3週間極めて厳しい攻撃を行う可能性に言及する一方、その間もイランとの協議を継続するとの考えを示した。とはいえ、トランプ氏の演説には、客観的な事実との乖離が多数指摘されていることに鑑みれば、提示した2~3週間で事態打開が図られるかは極めて不透明である。また、イラン側も協議を否定するとともに、報復の手を緩めておらず、事態が一段と長期化していくリスクは小さくない。こうしたことから、足元の金融市場はリスクオフの様相をみせ、混乱する事態に見舞われている。
金融市場が混乱している背景には、中東情勢の緊迫化を受けて環境が一変していることも影響している。2025年以降の金融市場においては、トランプ米政権の関税政策などが世界経済の足かせとなることが懸念され、原油をはじめとする商品市況は調整した。したがって、世界的なインフレ懸念の後退も追い風に、FRB(米連邦準備制度理事会)など主要国中銀のみならず、新興国中銀も金融緩和に動く流れがみられた。結果、金融市場は「カネ余り」が意識されやすい局面が続いた。しかし、実際には関税政策を警戒した駆け込みの動きが世界貿易を押し上げ、経済構造面で相対的に輸出依存度が高い新興国経済を中心に世界経済を下支えした。さらに、FRBによる金融緩和を追い風に米ドル安が意識されたことを受けて、新興国通貨に上昇圧力がかかった。投資資金はより高い収益を求めて、相対的に金利水準が高い新興国への資金流入の動きが活発化した。これに対して、足元の金融市場においては、リスク回避の動きが強まるなかで新興国から資金逃避の動きがみられるうえ、原油価格の上昇を受けて、原油を輸入に依存する新興国を中心に資金流出に見舞われている。

現時点において、金融市場が危機的状況に発展すると想定するのは早計であろう。しかし、米国とイランの協議の行方は見通せない状況が続いており、中東情勢が一段と緊迫の度合いを増して、事態が長期化するリスクは残る。
中東情勢が緊迫化する直前の2月末時点における主要新興国の外貨準備高をみると、IMF(国際通貨基金)が金融市場の動揺への耐性の有無を示すARA(適正水準評価)に照らし、「適正水準(100~150%)」に満たない国が散見される。その後の金融市場においては、前述したように多くの新興国で資金流出の動きが活発化していることを勘案すれば、外貨準備高がさらに減少している可能性は高い。トルコでは、中銀が3月に外貨準備高のうち金を大量に売却していることが確認された(注1)。資金流出に伴う自国通貨安が輸入物価を押し上げることを警戒し、為替介入を活発化させている可能性がある。そうであれば、外貨準備高は減少ペースを加速させており、中東情勢の緊迫した状態が長期化して金融市場の動揺が広がりをみせた際の耐性が損なわれていることも考えられる。過度に悲観的になる必要はないものの、こうした構造的な脆弱性を念頭に置きつつ、金融市場の動向を冷静に見極めることが重要な局面に入りつつある。

注1 4月6日付レポート「トルコ中銀、2週連続で金を大量売却、金価格の逆風となるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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