工作機械受注が教えてくれる景況感(2024 年3月) 日本株が梯子を外されるリスクは低下した

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月41,000程度で推移するだろう。

  • USD/JPYは先行き12ヶ月138程度で推移するだろう。

  • 日銀は、10月に追加利上げを実施するだろう。

  • FEDは6月に利下げを開始、FF金利は年末に4.75%(幅上限)への低下を見込む。

目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。S&P500は+0.1%、NASDAQは+0.3%で引け。VIXは15.0へと低下。

  • 米金利はカーブ全般で金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.369%(▲2.3bp)へと低下。
    実質金利は1.991%(▲3.7bp)へと低下。長短金利差(2年10年)は▲38.3bpへとマイナス幅拡大。

  • 為替(G10通貨)はUSDが軟調。USD/JPYは151後半で一進一退。コモディティはWTI原油が85.2㌦(▲1.2㌦)へと低下。銅は9417.5㌦(+6.0㌦)へと上昇。金は2343.5㌦(+11.8㌦)へと上昇。

経済指標

  • 3月米NFIB中小企業調査によると中小企業の景況感指数は88.5へと0.9pt低下。インフレの先行きを読む上で有用な人件費計画(+19→+31)は上昇したものの、雇用計画(+12→+11)は低下と強弱区々(グラフは3ヶ月平均値)。もっとも、3ヶ月平均では双方とも低下基調にあり、インフレ再加速懸念を和らげる動きとなっている。その他では「『売上不振』が最も深刻な経営課題であるとする企業の割合」が+8へとじわり上昇した他、「販売価格引き上げを計画する企業の割合」が+30とピーク比抑制された状態で概ね横ばいとなった。全体として中小企業の動向はインフレ抑制的であると判断される。

注目点

  • 4月9日に発表された3月の工作機械受注統計(日本工作機械工業会)は生産・投資活動の拡大に期待を持たせる結果であった。3月の受注額(原数値)は1356億円、前年比伸び率(原数値)は▲3.8%へとマイナス幅縮小し、プラス圏を視界にはっきりと捉えた。筆者作成の季節調整値は前月比+1.8%、1214億円と増加。3ヶ月平均値では▲1.8%と減少に転じたものの、これは1月の大幅減が効いており、均してみれば底打ち感が強まっていると判断される。単月の内訳は「国内向け」が季節調整済み前月比+20.1%、原数値前年比▲0.2%と大幅回復した反面、「外需」は前月比▲5.8%、前年比では▲5.7%と持ち直しの動きが一服した。

  • 日本の工作機械受注は、そのサイクルがグローバル製造業PMIやアナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)と連動性を有する。3月グローバル製造業PMIは50.6へと0.3pt上昇し、16ヶ月連続で50以下の領域で推移した後、3ヶ月連続で50を上回った。地域別では日本が自動車生産の一部回復によって持ち直した他、異例の弱さに直面していた欧州はドイツとフランスを除く主要国(英国、オランダ、イタリア、スペイン)で持ち直しが続いた他、米国も改善傾向にあり、中国は5ヶ月連続で50超を維持した。IT関連財の生産集積地である韓国、台湾も緩やかな改善傾向にある。今後、中国経済の減速が足かせとなる可能性はあるが、世界的なIT関連財の在庫調整進展から判断すると、グローバル製造業PMIの改善傾向が続く可能性は高いと判断される。こうした下で日本企業の業績予想(TOPIX予想EPS)は資本効率の改善や円安にも支えられ、上向きの曲線を描いている。今後、IT関連財の回復期待がより明確化してくればその傾きは急になると予想される。

  • 工作機械受注サイクルの位置取りを確認するために縦軸に受注額の水準(36ヶ月平均値からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、大きくみれば、直近は右下局面(低水準・伸び率プラス)を右上方向に進路をとっている。これは受注高が(直近ピーク比)低水準で推移しているものの、底打ちしていることを意味する。単月では左方向へ逆走したものの、過去の経験則に従うなら今後、右方向へ推移した後、徐々に上向きの進路をとると思われる。半導体不足解消に伴う自動車生産の回復およびそれに伴う設備投資誘発が予想される中、IT関連財の在庫調整が進展するにしたがって半導体向け投資の再開が期待される。今後、米中経済が急失速しない限り「左下」方向へ逆走する展開は想像しにくい。株価は資本効率の改善期待や円安など非循環的要因によって上昇したこともあって、既に製造業サイクルの好転を先取りしている感はあるが、工作機械受注を見る限りにおいて梯子を外されるリスクは和らいでいる。

藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。