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- うるう年と個人消費を考える
- 要旨
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2024年はうるう年であり、2月が1日長い。前年比でみると、個人消費を中心に見かけ上高い伸びになる経済指標が増える(逆に25年2月には実勢よりも低く出る)。これは単なる日数の変化に由来するものであり、景気動向を見る上では調整することが望ましい。
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GDPの個人消費では、季節調整に際して非耐久財についてうるう年調整を行っているが、耐久財、半耐久財、サービスについては調整を行っていない。これは内閣府が以前検証を行った際、非耐久財以外ではうるう年ダミーが有意にならなかったことによるもの。
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現在の処理は適切であると考えられるが、今後のデータの蓄積により結論が変わることはあり得る。2024年1-3月期の結果が公表された後、改めて詳細にうるう年要因の検証が行われることを期待する。
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うるう年による前年比の攪乱にご注意
今年は4年に一度のうるう年であり、2月が一日長かった。このことは個人消費にどう影響を与えるだろうか。
たかがうるう年と馬鹿にはできない。単純に考えると、日数が1日増加すれば、四半期で見て90分の1、つまり最大で1%程度の支出が増加する可能性がある。家賃など月単位で予め決まっている支出については日数変化による影響が出ないため、実際にここまで増えることはないが、いずれにしても消費全体では影響が出るだろう。
実際、前年比で見れば影響がはっきり出る。総務省が以前、月極めでの支払いが多い品目を除いた日別消費支出を用いて簡易的に試算したところ、消費支出全体で前年同月比が2.3%ポイント程度押し上げられているとの結果も出ている。こうした消費の増加は単なる日数の変化に由来するものであり、景気動向を見る上では調整することが望ましい。新聞やテレビ等で経済指標の結果が報道される際は前年比で言及されることが多いため、うるう年の2月分の数字は実態と比べて上振れていること、また翌年の2月は逆に下振れること、といった点に注意して数字を解釈する必要があるだろう。
なお、うるう年要因は季節調整値では大きな問題にならないことが多い。個人消費を語る際によく引き合いに出される家計調査や小売業販売、日本銀行試算の消費活動指数などでも季節調整に際してうるう年要因は調整されている。業界統計等、エコノミストが独自に季節調整をかけているものについても、たいていうるう年要因は考慮されている。個人消費以外の月次統計でも、季節調整を行う際にうるう年による日数増を調整してあるものがほとんどだ。
非耐久財のみ実施されているGDP個人消費のうるう年調整
一方、悩ましいのがGDPだ。かつてはGDPの個人消費において、季節調整の際にうるう年要因を調整していなかった。そのため、うるう年にあたる年の1-3月期には、個人消費の伸びが実勢対比で上振れ(4-6月期はうるう年要因剥落で下振れ)、基調判断を困難にするとの批判が多かった。
こうした指摘を受けて2019年に内閣府がうるう年要因について改めて詳細な検証を行い、個人消費の一部(非耐久財)において、季節調整に行う際にうるう年要因を考慮することになった。これにより、うるう年による攪乱がなくなることが期待された。
一つ気になるのは、GDPの個人消費では、非耐久財しかうるう年要因を調整しておらず、耐久財やサービス、半耐久消費財については調整されていない点である。これは、内閣府が再検証を行った際、非耐久財以外ではうるう年ダミーの有意性が得られなかったためである。統計的に有意でないものを無理やり入れることは適切ではなく、現行の処理は妥当だろう。筆者もそのことに異論があるわけではない。
ただ、非耐久財以外については、今後さらなる検討の余地があるかもしれない。うるう年効果の有意性が確認されなかったことには、GDP統計では四半期系列で季節調整をかけていることが影響している可能性がある。月次統計の場合には、うるう年による日数増は28分の1の影響を持つが、四半期統計では90分の1の影響になるため、四半期でみた場合、月次統計と比べてうるう年効果は見えにくくなる。2月にうるう年で増加した支出が1月と3月の変動でたまたまかき消され、検出されにくくなっているのかもしれない。また、検証が行われた1980年~2017年の間にうるう年は10回あるが、これだけで効果の検証が十分できているかどうかは分からない。実際に月次統計では有意になることがほとんどで、多くの統計でうるう年要因が調整されていることを考えると、非耐久消費財以外でもうるう年要因によって押し上げられている可能性は否定できないだろう。
そう考えると、今後、データの蓄積によって結論が変わることもあり得る1。うるう年による日数増を含む2024年1-3月期の結果が公表された後(また、その後も4年ごとのデータ追加に際して)、改めて詳細にうるう年要因の検証を内閣府が行うことを期待したい。また、その際には、個人消費に限定せず、輸出や設備投資といった他の需要項目でも1980年からの遡及データで検証を行うほか、多くの月次統計の季節調整で採用されている曜日・祝祭日要因についての検証も合わせて行うことが望ましいと思われる。
(参考文献)
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新家義貴(2019)「うるう年と個人消費 ~2020年1-3月期と4-6月期の成長率を撹乱。消費増税後の景気判断にも影響~」、第一生命経済研究所 Economic Trends
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総務省統計局(2008)「うるう年における2月分の消費支出」家計調査の結果を見る際のポイント No.8
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内閣府経済社会総合研究所・国民経済計算部(2019)「QEの推計精度の確保・向上に関する課題への対応:うるう年調整について」総務省統計委員会・第17回国民経済計算体系的整備部会資料
1 2020年1-3月期もうるう年だったが、2019年10-12月期の消費増税による落ち込みからのリバウンドや新型コロナウイルスによる3月の消費急減などでデータが大きく攪乱され、うるう年要因の検出どころではなくなってしまった。
新家 義貴
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