工作機械受注が教えてくれる景況感(2023年5月)

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き 12 ヶ月 31,500 程度で推移するだろう。
  • USD/JPY は先行き 12 ヶ月 130 程度で推移するだろう。
  • 日銀は現在の YCC を 10‐12 月期に修正するだろう。
  • FED は FF 金利を 5.25%(幅上限)で据え置くだろう。利下げは 24 年 1-3 月を見込む。
目次

金融市場

  • 前日の米国市場は上昇。S&P500は+0.9%、NASDAQは+1.5%で引け。VIXは15.0へと上昇。
  • 米金利は中期ゾーンを中心に金利低下。予想インフレ率(10年BEI)は2.193%(▲1.7bp)へと低下。実質金利は1.550%(+1.0bp)へと上昇。長短金利差(2年10年)は▲84.6bpへとマイナス幅縮小。
  • 為替(G10通貨)はUSDが中位程度。USD/JPYは139後半へと上昇。コモディティはWTI原油が67.1㌦(▲3.1㌦)へと低下。銅は8310.5㌦(▲61.0㌦)へと低下。金は1955.3㌦(▲6.9㌦)へと低下。

図表1
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図表2
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図表3
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図表4
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図表5
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注目点

  • 昨日発表された工作機械受注統計(日本工作機械工業会)は「業績回復を先取りする」という点においてそれを支持する結果であった。5月の受注額(原数値)は1193億円、前年比伸び率(原数値)は▲22.2%と減少基調。4~5月にかけての前年比は大型連休によって営業日数が変動するため幅を持ってみる必要があるが、前年比減少率はマイナス幅が拡大した。筆者作成の季節調整値でみても前月比▲6.2%、1304億円と3ヶ月ぶりに減少であった。ただし季節調整値の3ヶ月平均値は9ヶ月連続の減少を記録した後、直近は2ヶ月連続で増加しており基調変化が窺える。単月の内訳は「国内向け」が季節調整済み前月比+0.2%、原数値前年比▲24.0%、「外需」は前月比▲9.1%、前年比▲21.3%であった。

図表6
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図表7
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図表8
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図表9
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  • 日本の工作機械受注は、そのサイクルがグローバル製造業PMIやアナリストの業績予想(TOPIX予想EPS)と連動性を有する。5月グローバル製造業PMIは49.6と3ヶ月連続の横ばい。中国経済の回復ペースが鈍化しそれに伴って台湾も一段と減速したが、それを横目に欧米経済の減速ペースが和らぎ、日本や韓国などが持ち直したことで3月対比横ばいとなった形。この間、日本企業の業績予想(TOPIX予想EPS)は伸び率が鈍化しているとはいえ、内需の底堅さに支えられ、水準は持続的に高まっている。米国経済減速に対する懸念は根強いものの、今後中国経済の持ち直しが持続する下で半導体市況が最悪期を脱出すれば、製造業のサイクルは上向きに転じる可能性が高まる。

図表10
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図表11
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図表12
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  • 工作機械受注サイクルの位置取りを確認するために縦軸に受注額の水準(36ヶ月平均からの乖離)、横軸に方向感(6ヶ月前比)をとった循環図をみると、直近は左上局面(高水準・伸び率マイナス)に位置している。これは受注が比較的高水準を維持するものの、その勢いが鈍化していることを意味している。過去の経験則に従うなら今後の受注は高水準から減少を続け、左下方向(低水準・伸び率マイナス)への軌道を描くと予想される。ただし、今回は既に右方向(6ヶ月変化率がプラス方向)への動きが観察されており、下方向への圧力は和らいでいる。仮にこのまま右方向へと直進するならば、それは過去のサイクルに比べて「谷」が浅くなることを意味する。既に最悪期を脱したか否かは微妙なところだが、今次サイクルの特殊要因として中国経済の(非循環的な)回復がある他、半導体不足解消に伴う自動車向けの受注増加が期待されることを踏まえると、今後「左下」方向へ深く掘り下げる展開は想像しにくくなった。「業績反転を先取りする」という視点で今は旬に近いと言える。

図表13
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図表14
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図表15
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藤代 宏一


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