2022~2024年度日本経済見通し(2023年2月)

新家 義貴

最新の見通しは、2022~2024年度日本経済見通し(2023年3月)(2022年10-12月期GDP2次速報後改定)をご覧下さい。

要旨

日本・国内総生産(GDP)成長率予測値

2022年度予測  実質+1.3%  (前回 +1.6%)
          名目+1.7%  (前回 +1.8%)

2023年度予測  実質+0.9%  (前回 +1.0%)
          名目+2.4%  (前回 +2.3%)

       2024年度予測  実質+1.4%
                 名目+1.8% 

2024年度予測  実質+1.4%
          名目+1.8% 

※前回は2022年12月8日時点の弊社予測値

  • 実質GDP成長率の見通しは、22年度が+1.3%(22年12月8日時点予測:+1.6%)、23年度が+0.9%(同+1.0%)、24年度が+1.4%である。暦年では2023年が+0.8%(同+1.1%)、2024年が+1.5%となる。

  • 22年10-12月期の実質GDPは低成長にとどまったが、23年1-3月期以降も停滞感が強い状態が続く。インバウンド需要の持ち直しが見込まれることや、ウィズコロナの一段の進展によりサービス消費の回復が予想されることが下支え要因になる一方、海外経済の減速に伴って財輸出が落ち込むことが下押し要因となる。コロナ禍からの正常化に向けた回復の動きが続くことから、景気回復が頓挫する可能性は低いが、23年の景気は輸出の下振れを主因として停滞感が強まる見込み。

  • 23年度後半には世界的な製造業の調整局面は一巡し、日本からの財輸出も持ち直しに転じる。コスト上昇圧力の緩和に伴って23年末には日本の物価上昇率も明確に鈍化し、物価上昇による実質購買力の圧迫という下押し要因が解消に向かう。24年の景気は上向く可能性が高い。

  • 消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の見通しは、2022年度が前年度比+3.0%(前回見通し時点:+2.9%)、23年度が+1.9%(同+1.5%)、24年度が+1.1%である。当面、電気代、ガス代によって攪乱されるが、大きな流れとしては23年のCPIは鈍化方向で推移する。原材料高と円安は一時期と比べて落ち着きを見せており、川上からの物価上昇圧力は足元でピークアウトしつつある。23年後半には物価上昇率の鈍化が明確化する可能性が高い。

図表1
図表1

実質GDP成長率は22年度+1.3%、23年度+0.9%、24年度+1.4%と予想

2022年10-12月期GDP統計の公表を受けて2022・2023年度の日本経済見通しの改訂を行い、新たに2024年度の見通しを作成した。実質GDP成長率の見通しは、22年度が+1.3%(22年12月8日時点予測:+1.6%)、23年度が+0.9%(同+1.0%)、24年度が+1.4%である。暦年では2023年が+0.8%(同+1.1%)、2024年が+1.5%となる。22年10-12月期の実質GDP成長率が前回見通し時点の予測を大きく下回ったことで22年度の予測値を下方修正した。また、これにより23年度への成長率のゲタが下がったため、23年度についても若干下方修正を行っている。需要項目別には、中国におけるゼロコロナ政策撤廃に伴ってインバウンド需要の想定を上方修正したことや、海外経済見通しが前回対比上方修正されたことで輸出の予測値を上方修正した一方、物価上昇率が予想以上に加速したことから個人消費をやや下方修正している。

22年10-12月期の実質GDPは低成長にとどまったが、23年1-3月期以降も停滞感が強い状態が続く。インバウンド需要の持ち直しが見込まれることや、ウィズコロナの一段の進展によりサービス消費の回復が予想されることが下支え要因になる一方、海外経済の減速に伴って財輸出が落ち込むことが下押し要因となる。一方、23年度後半以降は、世界的に製造業部門の調整に目処がつくことで輸出が持ち直しに転じるとみられる。24年にかけて景気は外需主導で緩やかに上向くと予想する。

2四半期ぶりのプラス成長も、回復力の鈍さを示す結果に

2月14日に公表された2022年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+0.6%となった。2四半期ぶりのプラス成長とはいえ年率+1%を割り込む低成長であり、7-9月期のマイナス成長(前期比年率▲1.0%)分を取り戻せていない。つい1ヶ月前には、インバウンド需要の急回復や全国旅行支援開始、輸入の反動減といった強い追い風を背景に前期比年率+3%台の高成長が実現するとの見方がコンセンサスだったことを考えると、期待外れと言わざるを得ない。コロナ禍からの経済活動正常化の流れは変わっておらず、景気の回復基調は続いているとみられるが、持ち直しのペースは鈍いものにとどまっていることが示された格好だ。なお、22年10-12月期の実質GDPの水準は、コロナ前である19年平均と比較して▲0.9%Pt低く、まだ経済活動正常化が実現していないことも確認できる。

内訳では、内需寄与度が前期比▲0.2%Ptとマイナスに転じたことが目に付く。個人消費はコロナ禍からの正常化への動きが継続していることに加え、全国旅行支援開始による旅行需要の持ち直しといった後押しもあり、サービスを中心に底堅く推移した。一方、設備投資がこれまでの増加の反動もあって減少に転じたほか、公共投資や住宅投資も減少、民間在庫変動もマイナス寄与となるなど、消費以外の内需は冴えない。なお、在庫のマイナス寄与については、在庫が積みあがるなか、企業が慎重姿勢を強め生産の圧縮を行っていることのあらわれと見ることも可能で、プラスの評価はできない。

一方、外需寄与度は前期比+0.3%Ptと成長率を押し上げたが、これは海外需要の好調さを反映したというよりは、インバウンド需要の急増と輸入の減少を反映したものである。水際対策の緩和を受けてインバウンド需要(非居住者家計の国内での直接購入。サービス輸出に含まれる)が急回復したことで輸出が押し上げられたことに加え、サービス輸入が前期比▲6.7%と、7-9月期の一時的な急増(同+19.9%)の反動により落ち込んだことが外需寄与度のプラスに寄与した形である。

インバウンド需要は急速に持ち直し

先行きについては、プラス材料とマイナス材料が入り混じるなか、全体としては停滞感が強い状態が続くと予想している。

プラス材料としてまず挙げられるのがインバウンド需要の持ち直しである。政府は22年10月11日より、それまで1日5万人を目途としていた入国者上限の撤廃や個人旅行の解禁、ビザ免除措置の再開、ワクチンの接種証明書や陰性証明書があれば原則として入国時検査を行わないことなど、水際対策を大幅に緩和した。これにより訪日外客数は急速に持ち直しており、22年12月時点で19年のピーク対比約5割の水準にまで回復している。インバウンド需要に相当する「非居住者家計の国内での直接購入」も22年10-12月期には前期比+211.8%と急増し、実質GDPを前期比年率で+0.7%Pt押し上げた。元々、日本観光への潜在的な需要は大きいことに加え、為替レートも依然円安水準にあることから、先行きもインバウンド需要は持ち直しが期待できるだろう。中国人観光客については、ゼロコロナ政策撤廃後、中国国内での感染が急拡大したことを受けて日本が水際対策を強化したため、足元では極めて低水準での推移が続いているが、感染抑制が明確になれば水際対策も緩和されるとみられ、今年春には中国人観光客も持ち直すと想定している。19年には訪日客の3割以上を占めていた中国人観光客が回復すればインパクトは大きい。インバウンド需要については2023年中にコロナ前水準に復帰すると想定しており、今後も景気下支え要因として寄与するだろう。

もう一つの押し上げ要因は、サービス消費の回復である。日本では、新型コロナウイルスの感染者数が拡大する度に行動制限が出され、消費が落ち込むパターンを繰り返してきたが、感染第7波と第8波については強い行動制限が出されることは回避された。消費者の新型コロナウイルスに対しての慎重姿勢も以前と比較して和らいでおり、感染リスクを各自が考慮しながら消費活動を行うというウィズコロナが進展している。また、政府もマスクの着用に関して、3月13日から原則として個人の判断に委ねる方向で調整を行っていることに加え、5月8日より新型コロナウイルスの感染法上の分類を、これまでの2類相当から、季節性インフルエンザと同じ5類に引き下げる方針を発表している。こうした見直しには賛否両論あるが、政府がある種のお墨付きを与えることで、消費者の慎重姿勢を和らげ、ウィズコロナを一層進展させることに繋がる可能性があるだろう。日本は諸外国に比べてコロナ禍からの回復が遅れていた分、回復余地が残されていると見ることも可能である。特にサービス消費については今後も改善が期待できるだろう。

図表2
図表2

輸出の悪化が景気を下押し

一方、懸念されるのが輸出の悪化である。海外経済については、一頃と比較して悲観的な見方が後退し、23年も底堅さを維持できるとの意見も増えている。しかし、こうした状況下でも輸出の先行きは慎重に見る必要があると考えている。

確かに、米国景気は予想外の粘り腰を見せており、足元でも明確な減速の動きは見えてこない。労働市場が未だに好調さを保っていることや、資産効果の残存、過剰貯蓄の存在、インフレ率のピークアウトなどが背景にあるとみられる。もっとも、こうした景気の底堅さを演出しているのはあくまで非製造業、特にサービス業である。製造業部門の不振は続いており、改善の兆しはまだ窺えない。

ここで重要なのは、日本からの輸出は、世界の製造業部門の動向に大きく左右されるという点である。経済に占める割合でみればサービス等の非製造業の方が圧倒的に大きいが、日本からの輸出は財が大半を占めるため、サービスよりも財の動き、つまり製造業部門の動向に影響を受けやすい。その点、足元、世界的に製造業部門が悪化に転じていることは大いに懸念される。米国でもISM製造業景気指数が悪化傾向にあり、3ヶ月連続で50割れとなっている。内訳をみても、先行性のある新規受注が大幅に悪化するなど内容も悪く、当面製造業部門の調整は続くだろう。景気見通しの悪化に伴い発注が手控えられているほか、需要が財からサービスにシフトしていることも影響しているとみられる。米国以外でも同様であり、世界的な製造業部門の悪化が日本からの輸出を下押しするだろう。なお、中国経済については、ゼロコロナ政策の撤廃により今後速いペースでの回復が見込まれるが、回復の主役となるのは、これまで強く抑制され続けてきたサービスのリベンジ消費になるとみられる。財からサービスへのシフトが進む可能性もあり、財消費の回復は中国経済の持ち直し度合いと比べて限定的なものにとどまると予想している。中国経済持ち直しに伴う輸出の押し上げに大きな期待はできないだろう。

こうした製造業部門の循環的な悪化に加え、利上げの効果が本格化することも23年の世界景気を下押しする。米国景気は足元で依然底堅さを保っているが、過去の利上げの累積的な悪影響がタイムラグをもって顕在化することを考えると、23年の景気は下押しされざるを得ない。既に銀行の融資基準が急速に厳格化されていることを踏まえれば、今後の企業向け融資の縮小を通じて設備投資が抑制される可能性は高いだろう。また、欧米以外でも、米国の利上げにより通貨安圧力が強まり、インフレの加速から大幅な利上げを実施した国は多かった。世界的に景気は減速感が強まる可能性が高い。

こうしたなか、日本への悪影響も避けられず、23年の財輸出は減少に転じると予想している。輸出と連動する傾向がある鉱工業生産についても下押し圧力が強まり、22年10-12月期~23年4-6月期にかけて3四半期連続の減産になると予想している。また、景気の牽引役として期待される設備投資についても、先行き不透明感が強まるなかで企業が投資を積極化させることは考えにくく、投資手控えも生じやすくなる。既に機械受注等では、足元で製造業の設備投資に悪化の兆しが窺える。非製造業の設備投資は好調に推移する可能性が高い一方、製造業の設備投資が下押しとなることで、設備投資の増勢は鈍化する可能性が高い。

このように、輸出の下振れを主因として景気に下押し圧力がかかることから、23年1-3月期~7-9月期にかけてGDP成長率は+1%を割り込むと予想している。大きな流れとしては、コロナ禍からの正常化に向けた回復の動きが続くことやインバウンド需要の回復という下支え要因もあることから、景気回復の動きが頓挫する可能性は低いとみているが、回復ペースは抑制されざるを得ない。景気は当面、停滞感の強い状態が続く可能性が高い。

一方、23年度の後半になれば、世界的な製造業の調整局面は一巡することが予想される。在庫調整の終了により製造業の生産悪化にも歯止めがかかり、次第に景況感も上向いてくるだろう。日本からの財輸出も持ち直しに転じる見込みだ。また、後述のとおり、23年末にはコスト上昇圧力の緩和に伴って日本の物価上昇率も明確に鈍化することが予想され、物価上昇による実質購買力の圧迫という下押し要因が解消に向かう。このように、23年度後半から24年にかけて、輸出の持ち直しを主因として景気は回復する可能性が高い。以上を踏まえ、実質GDP成長率を22年度が前年比+1.3%、23年度が+0.9%、24年度が+1.4%と予想する。

図表3
図表3

図表4
図表4

図表5
図表5

当面上昇圧力が強い状況が続くが、23年後半には鈍化が明確化

消費者物価指数(生鮮食品除く総合)の見通しは、2022年度が前年度比+3.0%(前回見通し時点:+2.9%)、23年度が+1.9%(同+1.5%)、24年度が+1.1%である。食料品価格の上昇が想定以上のペースで進んだことに加え、円安の進行等を背景にエネルギーや食料品以外でも価格転嫁が進んだこと等を反映し、22、23年度とも上方修正している。

22年12月の全国CPIコアは前年比+4.0%と、1981年12月以来、約41年ぶりの伸びとなった。原材料費の上昇に円安によるコスト増が加わったことで食料品価格の伸び率加速が続いていることに加え、エネルギーや食料を除いたコアコア部分についても上振れがみられている。22年に円安が急速に進展したことで輸入コストが高まっていることを背景として、足元では価格転嫁の動きがエネルギーや食料品以外にも広がっている。特に、耐久消費財や衣料品、日用品といった輸入比率が高い品目において価格転嫁が積極化している。こうした動きが続くことで、23年1月のCPIコアは前年比+4.3%と、一段の上昇が見込まれる。

23年2月以降については電気代、ガス代に大きく攪乱される。政府による負担軽減策が開始されることで電気、ガス代が引き下げられるため、2月以降のCPIは大きく押し下げられ、前年比で+3%台前半に鈍化するだろう。一方、4月、6月には電気料金の大幅値上げが実施される可能性が高く、再び電気代が押し上げられる可能性が高い。

もっとも、こうした攪乱を受けつつも、大きな流れとしては23年のCPIは鈍化方向で推移する見込みだ。これまでCPI押し上げの大きな要因になっていた原材料高と円安については一時期と比べて落ち着きを見せており、川上からの物価上昇圧力は足元でピークアウトしつつある。企業物価指数において、輸入物価指数は22年11月に前月比▲5.3%、12月に同▲4.6%、23年1月に同▲3.9%と大幅に低下。前年比でも足元で+17.8%と、ピークだった22年7月の同+49.2%から明確に鈍化している。これらはタイムラグをもってCPIにも影響してくるとみられ、コスト高に伴う物価上昇圧力は、時間の経過とともに次第に減衰するだろう。

これまでの円安等によるコスト上昇の未転嫁分が残っていることもあり、当面、積極的な価格転嫁が続く見込みで、23年前半についてはCPIコアは前年比+3%前後で高止まりする可能性が高い。もっとも、コスト上昇圧力の緩和に加え、22年の物価上昇ペースが非常に速かった裏が出ることも相まって、23年後半には前年比での押し上げ寄与が明確に剥落することが見込まれる。24年初にかけて比較的速いペースで上昇率が低下すると予想している。

図表6
図表6

図表7
図表7

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ