「全国旅行支援」と消費者物価指数

~仮にCPIに反映された場合、0.2%~0.4%Pt押し下げの可能性~

新家 義貴

要旨
  • 全国を対象とした観光需要喚起策である「全国旅行支援」が7月前半から8月末にかけて実施される見込み。2020年に実施されたGoToトラベルと比べて支援金額の上限が大きく引き下げられているが、基本的な仕組みは大きく変わらない。

  • 現在実施されている「県民割」はCPIに反映されていない。割引を受けるにあたって行き先に制限があること、ワクチン接種済であることといった条件が付くことなどが理由と思われる。一方、全国旅行支援では行先の制限がなくなることから、CPIに反映される可能性がある。もっとも、ワクチン要件についてどう考えるかは難しいところで、反映させるさせないの最終的な判断は総務省が行うことになる。

  • 仮に反映される場合、CPIコアを0.2%Pt~0.4%Pt押し下げる可能性がある。適用日数も考慮すれば、7月分で0.1%Pt~0.2%Pt、8月分で0.1%Pt~0.3%Pt程度が想定される。

  • 現時点では8月末までの実施とされているが、感染状況や世論の動向次第では9月以降の延長、もしくはGoToトラベルの再開も視野に入る。この場合、CPIコアへの下押しが9月以降も継続する可能性がある。

「全国旅行支援」は消費者物価指数に反映されるか?

観光庁は6月17日に、全国を対象とした観光需要喚起策である「全国旅行支援」を7月前半から8月末にかけて実施すると発表した。現在は、県内もしくは地域ブロック内での旅行を対象とした支援策である「県民割」が実施されているが、こうした地域の縛りを外し、全国を対象とした支援策として実施することになる。

支援の内容は、2020年に実施されたGoToトラベル(以下、旧GoTo)とよく似ている。旧GoToでは、旅行代金に対して35%の割引、割引上限額は一泊あたり14,000円となっていた(+クーポン券15%)。これに対して今回の全国旅行支援では、旅行代金に対して40%の割引、割引上限額は交通付旅行商品で一泊あたり8,000円、宿泊のみでは5,000円となっている(クーポン券は、平日3,000円、休日1,000円)。旧GoToでは高額宿泊施設に需要が集中したとの批判があったことから、割引上限額についてはかなり引き下げられているが、基本的な仕組みはあまり変わらない。

この全国旅行支援は、消費者物価指数に反映されるのだろうか。2020年の旧GoToではCPIコアが0.4%Pt程度も下押しされるなど大きな影響が生じただけに、今回も注目されるところだ。

ちなみに、この全国旅行支援の前身となる「県民割」「ブロック割」については、消費者物価指数には反映されていない。県民割が反映されていないのは、おそらく以下の理由と思われる。

まず第一に、割引を受けるにあたって、県内や地域ブロック等、行先が限定されていることがある。第二に、ワクチンを3回接種済であること又は検査結果が陰性であることといった条件がついていることが挙げられる。消費者物価指数では、原則として購入に際して各種の条件が付されていないものについて調査を行っているため、割引に際して条件が付く県民割、ブロック割については反映されてこなかったと考えられる。

では、全国旅行支援についてはどうだろう。対象が全国に広がることで行先の制限はなくなるため、一番目の理由については考える必要はなくなる。二番目については、観光庁によると、全国旅行支援においてもワクチン接種済もしくは陰性証明を必要とする方向で検討しているが、正式には決まっていないとのことである。

仮にワクチン要件が付されないのであれば、消費者物価指数に反映させない理由はない。旧GoToと同様にCPIの押し下げ要因となるだろう。難しいのは、ワクチン要件が残る場合である。この場合、反映させるかどうかは総務省の判断次第となる。「接種証明が必要であるため反映しない」と判断される可能性がある一方、「ワクチン接種率が向上している現在、割引を受けるにあたっての接種証明は事実上の制約にはならないとみなし、反映させる」という判断もあり得る。筆者は後者(反映させる)可能性の方が高いとみているが、どうなるかは分からない。総務省の判断に注目したい。

反映の場合、インパクトは0.2%Pt~0.4%Ptか

仮に全国旅行支援が消費者物価指数に反映される場合、影響はどの程度になるだろうか。ここで改めて支援の内容を確認すると、旧GoToが割引率35%、上限14,000円、全国旅行支援が割引率40%、上限5,000円である。なお、全国旅行支援では交通付の場合には上限金額が8,000円となるが、消費者物価指数の「宿泊料」は交通費を含まないものが調査されている1ため、上限は5,000円として考える。また、クーポン券については消費者物価指数の対象にはならないため、考慮する必要はない。

図表1 宿泊費(一泊あたり、円)
図表1 宿泊費(一泊あたり、円)

全国旅行支援と旧GoToを比較すると、一泊あたり14,000円程度で割引率が概ね同じとなる。それより低い価格では両者は概ね同等もしくは全国旅行支援がやや有利、高い価格では全国旅行支援の割引率が小さくなる。全国旅行支援では上限が低く設定されているため、高価格帯においては旧GoToと大きな差が生じる。

消費者物価指数の調査対象に高価格帯の宿泊施設がどの程度含まれているかが不明のため正確な試算はできないが、旧GoToがCPIコアに与えた影響が0.4%Pt程度だったことを踏まえると、全国旅行支援の場合には、ざっくりと0.2%Pt~0.4%Pt程度の影響と見ておけば良いだろうか。調査対象に高価格帯が多ければ旧GoToよりも影響は小さく、少なければ旧GoToと近いものになるだろう。

なお、観光庁によると、全国旅行支援の開始は7月前半(県民割は7/14まで)であり、最繁忙期を除いて8月末までの実施となっている。仮に、県民割が終了する7月15日から開始されると考えると、月の半分において全国旅行支援が適用されることになるため、7月分におけるCPIコアへの影響は0.1%Pt~0.2%Pt程度と考えられる2。また、仮に8月の最繁忙期(お盆?)に1週間程度適用除外を行うとすれば、8月分におけるCPIコアへの影響は0.1%Pt~0.3%Pt程度となりそうだ。

その先についてもCPIへの影響は続く可能性がある。全国旅行支援の実施は当面8月末までとされている。仮に新型コロナウイルスの感染者数が再び増加するようであればそのまま制度が終了する可能性がある一方、感染者数が抑制されている、あるいは多少増加していても医療資源に余裕がある状況であれば、制度が9月以降も延長される、もしくはGoToトラベルが再開されるといったことも十分考えられるだろう。感染状況や世論の動向次第ではあるが、こうした点も考慮に入れておく必要がある。

このように、全国旅行支援については、ワクチン要件が課されるかどうかといった制度の詳細や9月以降の取り扱いを含め、不明な点が残っている。また、消費者物価指数への影響についても、そもそも反映されるのか、反映される場合にどの程度のインパクトがあるのかといった点について不透明感がある。こうした点については、今後詳細が判明した段階で、改めてレポートにまとめたい。


1 旅館は「和室・1泊2食付き」、ホテルは「洋室・1泊朝食付き」が調査対象。

2 消費者物価指数の「宿泊料」では、ウェブサイトから情報を抽出する技術である「ウェブスクレイピング」を活用した算出が行われている。他の品目のように特定の調査日に調査を行うのではなく、毎日の価格が調査される。そのため、その月において支援が何日間実施されたかで、CPIへの影響が異なることになる。

新家 義貴

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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