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2022.05.20
日本経済
物価
遂に2%に到達した消費者物価指数(4月全国CPI)
~年内は2%台で推移も、23年度には急速に鈍化。政策要因に注意~
新家 義貴
要旨
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4月のCPIコアは前年比+2.1%と、遂に2%に到達した。プラス寄与が大きいのはエネルギーと食料だが、足元では特に食料品価格の上昇ぺース加速が目立つ。
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22年内のCPIコアは前年比+2%超で推移する可能性がある。エネルギー価格のプラス寄与が緩やかに縮小する一方、食料品価格は伸びが高まる。携帯電話通信料で追加的にマイナス寄与が剥落することも押し上げ要因に。
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攪乱要因は政府による経済政策。GoToトラベル、ガソリン補助金等の実施状況によって物価も大きな影響を受けるため注意が必要。
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コストプッシュインフレは日本経済への悪影響が大きく、持続性には欠ける。時間の経過とともに資源価格の上昇寄与が剥落するにつれて23年度には急速に伸びが鈍化する可能性が高い。
増税要因を除けば2008年9月以来の2%超え
遂に2%を超えた。本日総務省から発表された22年4月の消費者物価指数(生鮮食品除く)は前年比+2.1%と、3月の+0.8%から一気に上昇率が拡大した。携帯電話通信料のマイナス寄与が3月の前年比▲1.48%Ptから4月には▲0.39%Ptへと大きく縮小したことが主因である。21年4月の値下げから一年が経過したことでマイナス寄与の大部分が剥落し、これまで覆い隠されてきた物価上昇が顕在化した格好だ。
なお、CPIコアが2%を上回ったのは15年3月(+2.2%)以来となるが、14年4月~15年3月は消費税率引き上げによって押し上げられていたことに注意が必要だ。こうした増税要因を除いて考えれば2008年9月(+2.3%)以来のことになる。
足元でプラス寄与が大きいのはエネルギーと食料。4月の前年比+2.1%のうち、この二つで2.0%Ptを占める。原油等の資源価格高騰や、小麦等の原材料価格高騰の影響が強く出ている。もっとも、前年比の方向性という点では両者は足元で異なっており、エネルギーは伸びが鈍化(前年比寄与:3月+1.52%Pt→4月+1.44%Pt)、食料品は伸び加速(前年比寄与:3月+0.46%Pt→4月+0.60%Pt)という形となっている。エネルギーについては、ガソリン・灯油への補助金政策により追加的なガソリン価格上昇が抑えられていることに加え、昨年大幅に上昇していた裏が出ていることで、前年比での伸びは鈍化しており、先行きもそうした流れが続く可能性が高い。一方、食料品(生鮮除く)はこのところ伸びが加速している。小麦や油など原材料価格の高騰により価格転嫁を進める企業が増加しており、食料品は値上げラッシュと言っても良い状況にある。
先行きも高止まりが続く
先行きも、物価は高止まりを続ける可能性が高い。エネルギー価格については、ガソリン・灯油補助金効果や前年の上昇の裏が出ることで伸びを緩やかに縮小させていく可能性が高いものの、食料品値上げによる押し上げが続く見込みだ。5月に入っても高まり続ける原材料コスト負担に耐えかねて価格引き上げを表明する企業は数多く、食品値上げの波が止む気配は全くない。値上げ報道が増えていることで、価格引き上げを実施しやすくなっている面もあるだろう。食料品価格は今後も伸びを高めていく可能性が高い。加えて、携帯電話通信料のさらなるマイナス寄与剥落も押し上げ要因となる。携帯電話通信料は21年8月と10月にも断続的に値下げが実施されていた。22年4月に剥落したのは昨年4月の値下げ分のみであり、今後8月と10月で合わせて0.4%Pt分の押し上げ余地が残っている。
こうした点を踏まえると、年内はCPIコアが鈍化することは見込み難い。仮にGoToトラベル要因を考慮せず、原油価格の下落もないのであれば、CPIコアは22年いっぱい前年比で+2%超で推移する可能性が高そうだ。携帯通信料要因が追加的に剥落する8~10月には2%台半ばまで上昇してもおかしくない。
政策が攪乱要因に
一方、攪乱要因となるのが政策の動向である。GoToトラベルは現在休止されているが、これがいつどんな形で再開され、いつまで続くかによってCPIも影響を受ける。前回実施時には0.4%Pt程度の押し下げとなっていたため影響は大きい。また、現在9月までとされているガソリン・灯油への補助金政策についても攪乱要因になりうる。単純な制度終了はおそらくないだろうが、そのまま継続するのか、延長した上で拡充するのか縮小するのか、あるいはトリガー条項の凍結解除等に置き換えるのかは分からない。また、物価上昇が社会問題化するなか、政府が新たに物価抑制策を打ち出す可能性も否定はできない。これらの政策要因の物価へのインパクトは大きいため、今後も動向には注意しておきたい。
また、エネルギーや食料品以外の価格転嫁の動向も読みづらい。食料(酒類を除く)及びエネルギー除く総合(米国型コア)から、さらに携帯電話通信料を除いたものを計算すると、4月は前年比+0.7%と、3月の+0.5%から伸びが高まっている。需要の弱さから値上げに踏み切るハードルは高いものの、原材料費価格の高騰を受けて、年度替わりとなる4月に価格転嫁に踏み切った企業も多少あったとみられる。エネルギーと食料以外については今後緩やかに上昇率が高まることを筆者は想定しているが、止まらないコスト増に耐えかねて、価格転嫁に踏み切る企業が広がりを見せる可能性も否定はできない。仮に予想以上に価格転嫁が進むようであれば、物価はさらに上振れることになる。
23年度には明確に鈍化へ
もっとも、22年に予想される物価上昇は、あくまで資源、食料品といった輸入価格の上昇を背景としたコストプッシュインフレである。ディマンドプル型の物価上昇の場合、景気が好調に推移していることから物価上昇以上の所得増加が実現し、生活水準は向上する一方、コストプッシュ型の物価上昇では、所得の伸びが弱いなかで物価がそれ以上に上昇するため、生活水準は低下する。購入頻度の高さからくる心理的な悪影響もあいまって、個人消費にとっては明らかな逆風となるだろう。また、こうした消費の弱さを懸念して企業が値上げを踏みとどまれば、今度は企業収益の減少の形で企業の負担が増加する。
つまり、コストを転嫁すれば家計の負担が増え、転嫁しなければ企業の負担が増えることになる。結局のところ、供給ショックに端を発する輸入価格の高騰の場合、コスト増を転嫁しようがしまいが、いずれにしても日本経済には打撃となる。資源の大半を輸入に頼る日本にとって、現在の資源価格高騰の悪影響は非常に大きい。
こうした点を踏まえると、物価上昇率の加速はあくまで22年度限定とみるべきだろう。時間の経過とともに資源価格の上昇寄与が剥落するにつれて、CPIは再び伸び率を低下させていくことになる。23年度には急速にCPIの伸びが鈍化し、再びゼロ%台に戻る可能性が高いと予想している。
新家 義貴
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 新家 義貴
しんけ よしき
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経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測
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