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英仏漁業戦争再び

~EU離脱後の英EU関係の緊張が続く~

田中 理

要旨
  • 英国政府は先月末、英海域での操業継続を求めるフランス漁船のうち、約4分の3について漁業歴の証明が不十分として、漁業免許の更新を保留した。フランス政府はこれに反発し、報復措置の可能性を示唆している。移行期間終了後に物流混乱が続く北アイルランドの運営規則の見直しとともに、漁業問題という古くて新しい問題も英EU間の緊張再燃につながる恐れがある。

英国政府は先月、北アイルランドにEUの食品安全ルールを適用する免除期間を再び延長することを決めた。延長は3回目で、過去には英国の一方的な延長決定に反発したEUが、法的措置を検討したこともあった。今回は英EU間で断続的に継続している北アイルランドの運営方針を定めた議定書(プロトコル)の見直しに関する協議に時間が必要と判断し、EUも静観姿勢を貫いている。移行期間終了後の北アイルランドの運営方針を巡る英EU間の対立は長期戦の様相を呈しているが、ここにきて新たに英EU間の緊張を高めかねない事案が発生している。

英国政府は先月末、英海域での操業を認める漁業免許の更新を求めた47のフランス漁船のうち、35漁船について英国のEU離脱時の取り決めに基づき、2012~16年の英領海での漁業歴を証明する記録が不十分として、免許の更新を保留した。フランス政府はこれに反発し、報復措置の可能性を示唆している。英離脱後のEU漁船の操業継続を巡っては、今年5月にも英王室属領のジャージー島周辺海域での漁業継続が困難となったフランス漁船が抗議のために同島に向けて出港、港を封鎖する動きがあるとして、英政府は軍艦2隻を派遣した。英仏海峡に位置するジャージー島は電力の95%をフランスからの海底ケーブルに依存しており、フランス政府は電力供給を打ち切る可能性を示唆した。また、最近ではインド太平洋地域での中国の影響力拡大に対抗するため、米国、英国、オーストラリアの間で締結した軍事同盟(AUKUS)を巡っても、英国とフランスの間で緊張が高まっている。新たな協定には米英が協力してオーストラリア向けの原子力潜水艦の開発を支援することが盛り込まれており、オーストラリアはフランスとの潜水艦の共同開発の合意を破棄する。

英仏間の緊張緩和に向け、ジャージー島の自治政府は先週、漁業免許の更新が保留されているEU漁船に対して、来年1月末を期限とする時限的な免許を付与することを発表している。新たに浮上したジャージ島以外の海域での漁業免許の保留事案についても類似の暫定措置が適用されることも考えられるが、フランス以外のEU漁船とも同様の問題に発展する可能性もあり、北アイルランドのプロトコル見直しとともに英EU関係は緊張状態が続くことになる。

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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