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マクロン再選阻止を目指す第三の候補

~ルペンの穏健化戦略は不発に、共和党ベルトランに注目~

田中 理

要旨

来年春のフランス大統領選に出馬するルペン候補が率いる極右の国民連合は、27日の地域圏選挙の決選投票で、初の首長獲得に失敗。政策穏健化で支持基盤を拡大する戦略は不発に終わった。組織基盤の強さを見せたのが、右派・左派の伝統二大勢力。共和党の有力な大統領候補が揃って首長ポストを守り、秋から冬にかけて候補を一本化する。なかでもベルトラン氏は反エリート票の取り込みが可能な候補として注目される。同氏の支持が一段と伸びてくると、大統領選は混戦模様となり、再選を目指すマクロン大統領にとっても脅威となる。

27日に投開票が行われたフランス地域圏選挙の決選投票は、20日の初回投票でプロヴァンス=アルプ=コート・ダジュールで最多票を獲得した極右政党・国民連合が初の首長ポスト獲得を目指したが、共和党を中心とした右派会派の現職候補に大差で敗れた。2017年の大統領選挙の決選投票でマクロン大統領に敗れた国民連合のルペン党首は、ユーロ離脱などの極端な政策を封印することで支持基盤を広げ、反マクロン票や地盤沈下が進む伝統的な二大勢力(共和党を中心とした右派と社会党を中心とした左派)支持者の取り込みを目指してきた。だが、今回の地域圏選挙では前回の大統領選でルペン候補を支持した有権者の投票率がとりわけ低迷した。政策穏健化で支持基盤を広げることに失敗したばかりか、従来からの支持層の一部を失った形となった。33.3%と歴史的な低投票率に終わった初回投票後、ルペン党首は支持者に投票参加を呼び掛けたが、決選投票の投票率も30%台半ばで低迷した模様だ。苦戦を強いられたのは、マクロン大統領が前回の大統領選挙前に旗揚げした中道政党・共和国前進も同様で、多くの地域圏で決選投票進出に必要な10%の得票率に届かなかった。結党から5年余りが経過した今も党組織や支持基盤は脆弱なままで、来年の大統領選挙直後に行われる国民議会(下院)選挙でも苦戦が予想される。初回投票・決選投票ともに歴史的な低投票率となったのは、コロナ禍で行われた選挙であったことばかりが影響した訳ではない。若年層の9割近くが投票を棄権したとされ、フランスの有権者の間に政治不信が広がっている。

地方選挙で引き続き組織基盤の強さを見せたのが伝統的な二大勢力で、地域政党が強いコルシカ島を除く12の地域圏(海外領土を除く)で両勢力が首長ポストを分け合った。共和党を中心とした右派勢力は改選前と同じ7地域圏を、社会党を中心とした左派勢力も改選前と同じ5地域圏を制した。ベルトラン現オ=ド=フランス首長、ぺクレス現イル=ド=フランス首長、ヴォキエ現オーヴェルニ=ローヌ=アルプ首長、ルタイロー現ペイ・ド・ラロワール首長など、来年の大統領選挙の共和党の有力候補は揃って首長の座を守った。初回投票前後に行われた最新の世論調査では、ベルトラン氏が16%、ぺクレス・ヴォキエ両氏が各10%の支持を獲得する(図表1)。20%台後半の支持を獲得するマクロン大統領とルペン候補との差はまだ大きいが、今回の選挙結果や秋から冬にかけての候補一本化の過程で2候補を脅かす存在となりかねない。なかでもベルトラン氏は接戦とみられたオ=ド=フランス地域圏選挙で国民連合の候補に圧勝し、最近の世論調査でもマクロン・ルペンの両候補から支持を奪っている。フランス国立行政学院(ENA)など高等教育機関(グランゼコール)出身者が多いフランス政界において、政界進出以前に保険代理店の営業担当をしていた同氏は異色の存在と言える。多くの大統領を輩出した伝統政党出身ながら(現在は独立候補)、反エリート票を集めることができる人物として知られる。今後、同氏の支持率が伸びてくるようだと、大統領選挙の行方は混戦模様となってこよう。ルペン候補が決選投票への進出を逃した場合、マクロン大統領にとってベルトラン候補はルペン候補以上に手強い相手となりそうだ(図表2)。

図表1
図表1

図表2
図表2

以上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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