毎度おなじみ謎多き雇用統計がテーパリング議論に待ったを

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年前半に資産購入の減額を開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。NYダウは+0.7%、S&P500は+0.7%、NASDAQは+0.9%で引け。VIXは18.40へと上昇。雇用統計が予想比軟調だったことでテーパリング観測が後退。
  • 米金利カーブはツイスト・スティープ化。10年金利は雇用統計を受けて大幅に低下した後、元の水準に回帰。予想インフレ率(10年BEI)は2.506%(+4.9bp)へと上昇。債券市場の実質金利は▲0.930%(▲4.2bp)へと低下。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

  • 為替(G10通貨)はUSDが全面安。USD/JPYは108後半へと下落、EUR/USDは1.21前半へと上伸。コモディティはWTI原油が64.9㌦(+0.2㌦)へと上昇。銅は10417.0㌦(+325.0㌦)へと上昇。金は1831.3㌦(+15.6㌦)へと上昇。ビットコインは上昇。

経済指標

  • 4月中国貿易統計によると輸出(USD建て)は前年比+32.3%、輸入は43.1%と、双方ともベースエフェクトもあり大幅に増加。輸出は米国向けが+31.2%、それ以外の地域向けが+32.5%であった。先行きの生産活動を推し量るうえで注目される銅の輸入量は+5.1%へと伸び率鈍化。またコンテナ船運賃指数は異例の高水準から小幅に低下。

中国 輸入、コンテナ船運賃指数
中国 輸入、コンテナ船運賃指数

中国 輸入
中国 輸入

コンテナ船運賃指数
コンテナ船運賃指数

注目ポイント

  • 4月米雇用統計はテーパリング開始宣言時期を後ずれさせ得る結果であった。FEDが「実績ベース」で政策判断を下す姿勢を明確にしていることを踏まえると、今回の結果はテーパリング議論の開始に待ったをかけるものであったと判断される。

  • 非農業部門雇用者数は前月比+26.6万人に留まり、100万人増加を予想していたエコノミスト予想中央値を大幅に下回った。もっとも、今回の結果は関連指標の改善と整合せず不可解に弱く、幅を持って解釈する必要がある。関連指標に目を向けると、失業保険申請件数が減少基調を強めていたほか、あらゆる企業サーベイで雇用関連項目が大幅に改善し、コンファレンス・ボード消費者信頼感調査でも雇用判断の顕著な改善が認められていた。

  • 一方で原数値(季節調整前)の雇用者数は108.9万人増加とコンセンサス並みの強さとなった。事前予想と乖離した理由として指摘されているのは、季節調整の歪み。コロナパンデミックによって通常観察される季節的な雇用パターンが大幅に崩れており、多くの統計で季節調整の問題を抱えている。そこで雇用者数の季節調整実施に用いられた季節指数を確認すると、2021年はコロナパンデミック発生前の2019年対比で100に近い数値が適用されていたことがわかる。このことは19年対比で季節パターンが除去されていないことを意味する。したがって通常の季節パターンが残存していたと仮定するなら、これまでのところ21年の季節調整値は19年対比でやや弱めの数値が発表されていたことになる(※4月の前月比の弱さを説明することにはならない)。今回の低調な結果について、その主因が季節調整の歪みであるかは議論の余地があるものの、原数値では100万人規模の雇用増加が認められていたことを認識しておきたい。

米国 雇用者数、雇用者数の季節指数
米国 雇用者数、雇用者数の季節指数

米国 雇用者数
米国 雇用者数

米国 雇用者数の季節指数
米国 雇用者数の季節指数

  • 失業率は6.1%へと3月から0.1%pt上昇した。もっとも、労働参加率が61.7%へと0.2%ptも上昇し(労働力人口が増加)、就業率も57.9%へと上昇したことに鑑みれば、必ずしも悪い結果とは言えない。やむなくパートタイム・ジョブに就いている人を失業者としてカウントしたU6失業率は10.4%へと0.3%pt低下し、パンデミック発生前の7%近傍へ距離を詰めた。労働市場の質的改善は継続している。

米国 失業率、U6失業率・労働参加率
米国 失業率、U6失業率・労働参加率

米国 失業率
米国 失業率

米国 U6失業率・労働参加率
米国 U6失業率・労働参加率

  • 名目総賃金(就業者数×平均時給×平均労働時間)は前月比+1.2%、3ヶ月平均前比年率で7.1%と安定的な増加基調にある。平均時給は前月比+0.7%、週平均労働時間は35.0時間へと増加した。週平均労働時間の高止まりは今後、企業の採用意欲を強める要因として作用しそうだ。4月雇用統計は不可解な点が多くみられたが、速報性に優れた経済指標が軒並み労働市場の回復を示していることに鑑みると、5月以降も堅調な結果が予想される。

週平均労働時間
週平均労働時間

藤代 宏一


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