日銀 ETF買入れを大幅減額も政策効果は残存 金融政策決定会合は無風通過の公算

藤代 宏一

要旨
  • 日経平均は先行き12ヶ月30,000程度で推移するだろう。
  • USD/JPYは先行き12ヶ月113程度で推移するだろう。
  • 日銀は、現在のYCCを長期にわたって維持するだろう。
  • FEDは、2022年前半に資産購入の減額を開始するだろう。
目次

金融市場

  • 前日の米国株は上昇。NYダウは+0.9%、S&P500は+0.9%、NASDAQは+1.2%で引け。VIXは17.50へと低下。新規の材料に乏しいなか、一昨日の下落を取り戻した。
  • 米金利カーブは全体的に小動き。予想インフレ率(10年BEI)は2.334%(+0.3bp)へと上昇。債券市場の実質金利は▲0.782%(▲0.8bp)へと低下。なお、カナダ中銀は量的緩和縮小したうえで、利上げ開始時期の予想を2023年から2022年後半に変更。

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ
米国 イールドカーブ

  • 為替(G10通貨)はUSDがやや軟調でJPYとEURは概ね横ばい。USD/JPYは109近傍、EUR/USDは1.20近傍で一進一退。CADは上記決定を受けて大幅に上昇。コモディティはWTI原油が61.4㌦(▲1.1㌦)へと低下した反面、銅は9445.0㌦(+123.0㌦)へと上昇。金は1792.3㌦(+15.0㌦)へと上昇。景気の強さを反映する「銅」と安全資産「金」の相対価格は上昇。ビットコインは続落。

主要通貨の変動率(前日比)
主要通貨の変動率(前日比)

注目ポイント

  • 20日はTOPIXの前場下落率が1.25%と、1%を超えていたにもかかわらず、日銀はETF買入れを見送った。他方、翌21日はTOPIXの前場下落率が2.17%となり、701億円の買い入れを実施した。昨日の買入れが判明するまでは、日銀の買入れが事実上ゼロになる可能性も考えられたので、株式市場の視点では一安心といったところだ。現時点の情報から示唆される新たな買い入れ基準は①前場下落率1%未満では買入れを実施しない、②2%の場合は700億円の買い入れを実施するというものだが、可能性としては1.5%超の場合に500億円(もしくは700億円)程度の買入れが実施されることも考えられる。

  • 上記買入れ基準が定着すると仮定した場合、過去の市場データから判断すると年間買い入れ額は1兆円にも満たなくなる可能性が高い(次項の試算表参照)。これまで海外投資家の売り越しを日銀が吸収してきた経緯を踏まえると、この金額はやや心許ない。幸いなことに足もとでは海外投資家が買い越し傾向にあり株式の需給は悪くないが、2018-19年に観察された年間5兆円規模の売り越しが今後起こった場合、日銀の存在感低下を痛感するかもしれない。

海外投資家・日銀売買動向
海外投資家・日銀売買動向

  • もっとも、筆者が思うに日銀のETF買入れの真価は、後場の切り返しを狙った先回り買いを誘発することにある。実弾としての500億円もさることながら、呼び水としての役割が大きいように思える。だとすれば、今後データが積み重なり買入れ基準が広く共有されれば、金額的なインパクトこそ従来対比で薄れるものの、呼び水としての効果は相当程度残存し、株式需給の引き締まりに貢献するのではないか。またETFを売却しなり限り、日銀が問題意識を持っていた「特定の銘柄」に対する株式需給の構造的な引き締まり、国債市場で言うところのストック効果は残存する。今後も日銀が株主として累積的に存在感を強めていくことは認識しておきたい。

  • なお、来週の日銀金融政策決定会合(結果発表は4月27日)は無風通過の見込み。3月の政策修正は現時点で問題が発生しておらず、政策変更の理由は乏しい。米長期金利の上昇が一服しており「連続指値オペ」の出番もなかった。景気認識・見通しについては、足もとで国内のコロナ感染状況が悪化に転じていることを踏まえ、内需のダウンサイドリスクに懸念を表明する反面、海外は米国、英国などワクチン接種の進捗が早い国で経済活動正常化の動きが強まっていることを評価し、日本経済全体として大幅な減速を回避できると判断するだろう。今後期待される国内のワクチン接種の進展を一部織り込み、見通し期間の後半にかけて日本経済が回復力を強めていくとのシナリオを維持するとみられる。

前場下落率
前場下落率

前場下落率2.0%
前場下落率2.0%
前場下落率1.5%
前場下落率1.5%
前場下落率1.0%
前場下落率1.0%
前場下落率0.5%
前場下落率0.5%

藤代 宏一


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