「多文化共生」を考える

~地域住民としての生活者の役割~

水野 映子

目次

日本に住む外国人の増加などを背景に、「多文化共生」という言葉が使われるようになって久しい。だが生活者の中には、現在でもその言葉の意味を知らない人や、言葉自体を聞いたことがない人もいる(注1)。そこで本稿では、「多文化共生」という言葉が使われるようになった経緯やその意味、生活者が「多文化共生」に関してすべきことについて改めて考える。

1.「多文化共生」推進の経緯

今から17年以上前の2006年3月、総務省が「地域における多文化共生推進プラン」を策定し、地方自治体に通知した。その背景としては、日系南米人などの外国人住民の増加により、従来の「国際交流」や「国際協力」に加え、「地域における多文化共生」の推進が必要となったことがあげられている(外国人の数・内訳などについては図表1を参照)。 それから14年半後の2020年9月には、外国人住民のさらなる増加や多国籍化などの社会経済情勢の変化をふまえ、「地域における多文化共生推進プラン」が改訂された。具体的な施策は図表2の通りである。

図表1 外国人登録者数及び在留外国人数の推移
図表1 外国人登録者数及び在留外国人数の推移

図表2 「地域における多文化共生推進プラン(改訂)」における施策
図表2 「地域における多文化共生推進プラン(改訂)」における施策

同プランの中で「多文化共生」は次のように定義されている(注2)。

国籍や民族などの異なる人々が、互いの文化的差異を認め合い、対等な関係を築こうとしながら、地域社会の構成員として共に生きていくこと

この定義は、同プランの策定時から現在に至るまで、多文化共生に関する文書等でしばしば引用されている。以下では、この定義を参考にしながら、「多文化共生」の意味を掘り下げる。

2.「多文化」とは?

まず、「文化的差異」「多文化」に焦点をあてる。

「文化的差異」、すなわち文化の違いは、「国籍や民族」を含め、さまざまな属性や特性によって生じる。たとえば、同じ国籍でもどこで生まれ育ったかによって文化は異なることが多い。日本に住む人に関していえば、外国籍であっても日本で生まれ育ったり、長年暮らしたりしていて、日本の文化に慣れ親しんでいる人もいる。逆に、日本国籍であっても外国で生まれ育った人の中には、日本の文化にあまりなじみがない人もいる。

また、当然ながら同じ国の中でも地域ごとに多様な文化がある。さらには、「若者文化」「会社文化」という言葉に象徴されるように、所属する集団によっても文化は異なる。

「多文化」とは、このような多様な文化を指すといえる。

3.「共生」のあり方 ~住民が「共に」考え「共有」「共働」を~

一方、「共生」という言葉は、文字通りにとらえれば「共に生きる・生活すること」という意味になる。ただしポイントは、多様な文化をもつ人々が、単に同じ時間に同じ場所で生活することではなく、どのように「共に生きる」かということにある。前述の「多文化共生」の定義の表現を借りると、「共生」のあり方には以下の3つのポイントがあると考えられる。

第1は、「互いの文化的差異を認め合う」、言い換えれば多様な文化を尊重する・受け入れるという点である。もちろんそれは、相手の文化に無理に合わせることではない。文化の多様性を認め合うためには、相互にコミュニケーションをとり、相手の文化を理解するという過程が不可欠である。

第2は、「対等な関係を築く」という点である。対等な関係を築くためには、互いの文化だけでなく、人権や人格も尊重することが必要である。図表2で示した施策、特に①~③の「コミュニケーション支援」「生活支援」「意識啓発と社会参画支援」を国や自治体が行うことは、これら2点に寄与するだろう。

第3は、「地域社会の構成員として」という点である。国や自治体が施策を行うこととともに、「地域社会の構成員」、つまり地域の住民(生活者)がすべきこともある。前述の第1・2の点を含めどのように「共生」したい・すべきか、どうすればそれを実現できるかを考えることや、実現に向けて行動することは、「共に生きる」主体である住民の役割でもある。国籍などの属性にかかわらず住民自らがに考え、思いを有し、働してこそ、「多文化共生」が進んだといえるのではないか。


【注釈】

  1. たとえば、2023年1月に全国の20~50代の男女1,200名を対象に実施された調査(出典は以下)で、「多文化共生」という言葉や意味を知っているかという質問に対して「言葉とその意味を知っている」「言葉は知っているが、意味は何となく分かる程度」「聞いたことはあるが、意味は知らない」「聞いたことがない」と答えた人の割合は、それぞれ15%・29%・19%・37%であった。
    公益財団法人 日本国際交流センター・特定非営利活動法人 ジャパン・プラットフォーム「在留外国人についてのアンケート調査報告」2023年3月
    (https://www.jcie.or.jp/japan/wp/wp-content/uploads/2023/04/2final_result_understanding_foreign_residents.pdf)
    なお、この調査以外にも、各地の地方自治体が住民を対象に「多文化共生」の認知度などをたずねた調査が多数ある。

  2. 出典は以下。なお、2006年の同プランにおいて、「文化的差異」は「文化的ちがい」と表現されていた。
    総務省ウェブサイト「多文化共生の推進」
    (https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/chiho/02gyosei05_03000060.html)

水野 映子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

水野 映子

みずの えいこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: ユニバーサルデザイン

執筆者の最新レポート

関連レポート

関連テーマ