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ロールAIから考える新たなコミュニケーション

~家庭や職場での実際の利用シーンから考える~

柏村 祐

目次

1.社会はロールで成り立っている

社会は、一人ひとりが役割(以下「ロール」)を担うことによって成り立っている。

個々人が多様なロールで交わることで、社会の秩序と機能が維持される。ロールは期待される行動、責任、そして関係から定義され、社会の構造を形成する。たとえば、会社では上司が指示と監督を担い、同僚同士で協力しながら仕事を進める。家庭では、親が子供を育て保護し、子供は家庭のルールを理解しながら成長する。このように個々人がその状況に応じてロールを果たすことで、社会は機能し続ける。

近年、AI技術の進歩に伴い、「ロールAI」が登場している。ロールAIは人間のように特定の役割を模倣する技術で、効果的かつ人間らしい応答ができる。ロールを定義することで、AIは疑似的なロールを担い、人との対話を実行する。その対話を通じてAIは適応力と理解をより高め、人間とAIのコミュニケーションを向上させていく。

以下では、ロールAIの実態とその可能性について詳しく述べる。

2.ロールAIの実験

現代社会には、図表1の通り様々なロールが存在する。

図表1
図表1

以下では、ロールAIの実例として、家族と会社における仮想の役割を設定し、ロールAIがどのように振る舞うのか、具体的なデータやシナリオを通じて確認していく。

まず、家族におけるペルソナとしてAIに図表2の設定内容を読み込ませた。ここでは自分自身を親(ハルコさん)として、AIに子供(タクミくん)のロールを担わせて実験を試みた。

図表2
図表2

ここでは、AIに設定されたロールに基づき、子(タクミくん)のロールを担当するAIに向けて「タクミくん、サッカーに力を入れているのはいいけど、もう少し勉強したほうがいいんじゃない?」と質問してみた。タクミ役のAIは、この質問に対して「うーん、わかるんだよ、勉強も大事だって。でも、サッカーは本当に楽しくて、チームで活躍するのが嬉しいんだ。友達もいるし、それで自分を表現できる気がする。勉強もやらないといけないって分かってるけど、今はサッカーが一番楽しいな。でも、成績が悪いとママやパパが心配するから、もう少し頑張るよ」と回答した。

この回答に対して、「そうだね。もう少し頑張るためには目標を持たないといけないと思うけどどう思う?」と質問するとタクミAIは、「うん、目標って大事だよね。サッカーではいつも目標を持ってるから、成績が上がるようにも何か目標を立てた方がいいかも。でも、正直、勉強で目標を立てるのはちょっと難しい。何かいい方法や目標の立て方があれば教えてほしいな。それで、もう少し勉強にも集中できるかもしれないし」と回答してきた。

タクミAIの回答から、勉強における目標の立て方が難しいという回答があったので、生成AIに対してどのような目標の立て方があるのかをたずねたところ、短期目標、中期目標、長期目標、実行計画という4つの案が挙げられた(図表3)。

図表3
図表3

次に、2つ目の事例として、会社の状況をシミュレートするためにAIを利用した例を挙げる。ここでは図表4に示す設定内容をAIに読み込ませ、ペルソナとしてのロールを割り当てた。具体的には、自分自身が従業員(アイコさん)の立場となり、AIには経営者(ヨシダさん)のロールを担わせて実験した。

図表4
図表4

AIに設定したロールをもとに、経営者(ヨシダさん)のロールを担当するAIに対して、「ヨシダさん、最近担当しているプロジェクトでメンバー間のコミュニケーションがうまくいっていません。何か解決につながるヒントはありますか?」と質問した。ヨシダさん役のAIは、定期的なミーティングの実施、オープンな文化の育成、ロールおよび管理ツールの活用といった複数の対策を提案した。さらに、「ヨシダさん、定期的なミーティングは実施しているのですが、いつも時間ばかりが取られてしまい、労働時間が圧迫されています。定期的なミーティングをうまく運営するコツはありますか?」と質問した。その結果、ヨシダさん役のAIは、効率的なミーティング運営のコツについて8つの提案を行った(図表5)。

図表5
図表5

3.ロールAIの可能性と今後の展望

以上のように、ロールAIは、特定の役割や立場での「代理会話者」として利用される。現代社会において、特定の立場や役割をもつ人々とのコミュニケーションが必要な場面は多い。今回の事例のように、親が子どもの教育に関するアドバイスを求める場面や、従業員が上司に対して仕事に関する相談を行う場面が挙げられる。AIを代理会話者として利用することで、そのような場面で必要なコミュニケーションを検討することができる。

もちろん、実際の人間との会話と、AIとの会話には異なる点がある。AIはプログラミングや学習データによる情報にもとづき回答するが、人間は感情や経験、状況に応じて柔軟に対応する。そのため、ロールAIを人間の完全な代替ではなく、コミュニケーションの「補助ツール」として捉えるべきだろう。

人が唯一担えると思われていたロールをAIが果たせる時代が確実に近づいている。今回の実験からも明らかなように、ロールAIは家庭の悩みから職場での課題解決まで、多様なシチュエーションでの活用が可能である。そして、具体的なアドバイスをAIが提供できる点は、今後さらに進化する可能性がある。

ロールAIは急速に進化しており、詳細なロール情報を入力することで、より精緻な回答が得られるようになるだろう。たとえば、ロールに関連する複雑な要素や背景、文化的な違いも理解し、それに応じて適切に対応するAIが登場する可能性もある。状況やニーズに応じたカスタマイズも容易になり、ロールAIはさらなる高度化を遂げるであろう。また、単なる助手や相談相手から、戦略的な意思決定にも寄与する存在へと変貌を遂げるかもしれない。専門的な知識をもつAIが、多角的な視点で課題を分析し、それに基づいて具体的なアクションプランを提案できるようになれば、それは革新的な進化であるといえるだろう。

柏村 祐


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柏村 祐

かしわむら たすく

ライフデザイン研究部 主席研究員
専⾨分野: テクノロジー、DX、イノベーション

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