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Well-being QOLの視点『資産所得倍増プランと今後の課題』

平岡 一弘

目次

岸田政権は2022年11月、新しい資本主義実現会議にて、7つの柱からなる「資産所得倍増プラン」を策定した。その趣旨は、投資しやすい環境整備を行って、家計の金融資産約2,000兆円の半分以上を占める現預金を「投資」に向けることだ。私たちの家計の資金が株や債券投資等を通じて企業の成長投資の原資となれば、企業の成長が促進され、持続的な企業価値向上につながる。その結果、株価上昇、配当などによって家計の金融資産所得はさらに拡大し「成長と分配の好循環」を目指すものである。7つの柱は以下のとおり。

第一の柱:家計金融資産を貯蓄から投資にシフトさせる NISA の抜本的拡充や恒久化
第二の柱:加入可能年齢の引上げなどiDeCo 制度の改革
第三の柱:消費者に対して中立的で信頼できるアドバイスの提供を促すための仕組みの創設
第四の柱:雇用者に対する資産形成の強化
第五の柱:安定的な資産形成の重要性を浸透させていくための金融経済教育の充実
第六の柱:世界に開かれた国際金融センター実現
第七の柱:顧客本位の業務運営の確保

これまでの成果

第一の柱であるNISAの抜本的拡充は2024年から新しいNISAが導入される。この主なポイントは㋐制度の恒久化・非課税期間無期限化㋑年間投資枠がつみたて投資枠120万円、成長投資枠240万円に拡充㋒つみたて投資枠と成長投資枠が併用可能㋓非課税限度額は全体で1,800万円(うち成長投資枠1,200万円)であり、投資非課税制度として必要十分な制度見直しと考える。

しかし、第一の柱以外ではまだ具体的な施策が打ち出されていないのが現状である。

今後の課題

第二の柱のiDeCo制度の改革は、2024年の財政検証に併せて結論を得るとしている。iDeCoがつみたてNISAと比較して普及していない要因は、複雑な規定と資金の引き出しの厳格な制限にあると考える。今後公的年金の所得代替率は低下することが見込まれるため、老後資金の自助努力を強力に促進する必要がある。NISAのように制度および手続きの抜本的拡充・簡素化を期待したい。

さらに重要なのは第三、四、五の柱、金融経済教育だ。「金融知識に自信がある人」の割合は米国71%に対して日本12%である注1。政府は金融経済教育推進機構(仮称)の設置をはじめ、企業、学校・地方自治体による教育を揚げる。ただ、今までの学校での金融教育の状況、賃金水準や金融資産、多くの企業に普及しているDC制度などを考えると当面は企業の果たす役割(第四の柱)に期待したい。中でも優先すべきなのはDC導入企業と考える。2018年からDCの継続投資教育は企業の配慮義務から努力義務となっている。DC加入者805万人(2023年3月末)は加入時に投資教育が行われているが、投資を継続するには加入後の教育は更に重要である。DC加入者で投資教育ノウハウが蓄積できれば、徐々に幅広い企業・従業員に裾野が広がり、投資はいっそう浸透しやすくなる。雇用者による金融リテラシーや投資教育の充実は、福利厚生制度とともに従業員の退職時迄の資産形成に大きく貢献し、従業員のエンゲージメント向上にもつながるのではないか。官民一体でどこまで効果的な教育体系・仕組みを構築できるかが、重要なポイントになっている。


注1:金融中央広報委員会「金融リテラシー調査(2022)」

平岡 一弘


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。