ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

Well-being LDの視点『日常の暮らしで「地域への愛着」を育むには』

稲垣 円

目次

地域に関わることの難しさ

地域社会において、地域が抱える問題を解決しようとするとき、そうした活動への市民の主体的なかかわりが欠かせない。しかし、いざ実現しようすると、地域の利害関係やコスト等の課題が噴出し、理解や協力を得るのが難しいといったことは、よく聞く話だろう。加えて、地域に住む人びとが皆まちづくりに興味があるわけでも、積極的に参加したいわけでもない。地域にとって大切なことであっても「すべきこと」と強要することもできない。こうした時、自分の住む地域に関心をもってもらう上では、“地域への愛着”が重要な役割を果たす。

生活者の地域に対する実感

では、地域への愛着は何をきっかけに育まれるのだろうか。

「愛着」は「慣れ親しんでいる人や物に心をひかれ,はなれがたく感ずること」(大辞林)というように、醸成されるには一定の時間を要し、短期間であっても、なんらかの地域との濃い関わりを経験しなければ、内面から湧き出るものではない。

そこで当研究所では、既存研究を参考に地域愛着に関連する項目を7つ設定し、居住地域について感じることをたずねた(注1)。

居住年数別にみると、年数が長くなるほど地域に対して好意的な回答がなされている(図表1)。ただし、「住みやすい」「好きだ」「雰囲気や土地柄が気に入っている」の3項目は、居住期間が1年未満であっても、ほぼ半数が好意的に捉えている。これらの項目に関しては、短期であっても、居住者がその土地で不自由なく日常生活を営めている場合には、好意的な感情をもつのではないかと考えられる。

一方で、「住み続けたい」「自分の居場所がない」「住んでいることは(市民であることは)自分にとって大切なことである」「いつまでも変わってほしくない、なくなってしまうのは悲しい・困る」の4項目は、先の3項目ほど割合が高くない。先の3項目が、住みやすさなど表面的な理由でも当てはまるのに対し、これら4項目のように地域に対する感情や持続願望に至るには、一定の時間を必要とするからではないかと考えられる。

資料1 現在住んでいる地域について感じること(居住年数別)
資料1 現在住んでいる地域について感じること(居住年数別)

日常的な行為と地域への愛着

では、居住年数以外で何が地域への愛着を高めるのだろうか。本稿では、日常的な地域住民との関わりに着目してみたい。

図表2は、先の7項目を「地域住民とのコミュニケーション」「地域活動への参加」の頻度別に示したものである(注2)。

結果をみると、「地域住民とのコミュニケーション」「地域活動への参加」のいずれも、高頻度層の方が低頻度層より「そう思う」とする回答が高い傾向にあった。高頻度層の中でも「住みやすい」「好きだ」「雰囲気や土地柄が気に入っている」「住み続けたい」の4項目で「そう思う」とする回答が高い。 

日頃から地域住民に接する機会や地域で行われる活動に関わる機会があれば、地域に対する主観が変化する可能性は考えられるが、本調査結果から、その頻度が地域への好意的な主観を高める可能性があるといえるだろう。

資料2 現在住んでいる地域について感じること
資料2 現在住んでいる地域について感じること

日常の暮らしで地域への愛着を育むには

本調査の結果から、特別な行為でなくても、日常生活圏内での地域住民と関わりや地域活動への参加によって、地域への好意的な主観が醸成されることが示唆された。

内閣府「社会意識に関する世論調査」(調査実施2022年12月、n=1761、インターネット調査)によると、9割以上の人が、地域と何らかの関わりがある方が望ましいと考えている(注3)。もちろん、望ましいと思うことと、実際に行動することは別の問題ではある。しかし、「世間話をする程度の付き合い」「挨拶をする程度の付き合い」であっても、意識的に行われていれば、住民間の信頼が構築され、地域への好意的な感情が高まる可能性はあるだろう。

地域に関わるというと、一部の熱心な人が行うものと捉えられがちである。しかしながら、自身や家族が年老いた時、子どもたちが成長した後、未来永劫現在と同じ質を保ちながら暮らし続けることができるのか、と考えると、そう無関心でもいられないのではないか。

地域に関わりたいという気持ちは人それぞれだが、隣近所との世間話や挨拶であれ、ささやかな地域活動であれ、そうした機会が用意されていること、参加を促す仕掛けがあることが重要だ。さらに、人口減少社会においては、地域住民にすべて任せるのではなく、公的機関や民間の活動組織等が連携した体制を整えていかなければならないだろう。

【注釈】
注1:図表の設問は、「現在お住まいの地域について、次のようなことをお感じになることはりありますか」という問いの下位設問としてたずねている。数値は、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」の合計。

注2:ほぼ毎日、週に3~5日程度を「高頻度」、週に1~2回程度、月に2~3回程度を「中程度」、月に1回程度、月に1回未満、全くないを「低頻度」とし、本稿では、特に高頻度と低頻度について抽出。

注3:「地域の行事や会合に参加したり、困ったときに助け合う」29.5%、「地域の行事や会合に参加する程度の付き合い」28.1%、「世間話をする程度の付き合い」20.9%、「挨拶をする程度の付き合い」18.5%、「地域での付き合いは必要ない」1.5%。

稲垣 円


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

稲垣 円

いながき みつ

ライフデザイン研究部 客員研究員
専⾨分野: コミュニティ、住民自治、ソーシャルキャピタル、地域医療

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