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内外経済ウォッチ『欧州~フランスを襲う不満の冬~』(2023年3月号)

田中 理

目次

年金改革に反対する大規模ストやデモ

フランスでは1月に政府の年金改革案が発表され、支給開始年齢の引き上げや、満額支給に必要な払い込み期間の延長などが盛り込まれた。政府は昨年秋以降、主要労働組合との協議を重ね、年金改革への理解を求めてきた。だが、国民の多くは政府の年金改革案に反対している。過去の年金改革案に中立的な態度を貫いた穏健な労働組合も、今回は徹底抗戦する構えだ。主要8労働組合は団結して政府案に反対する意向を固め、大規模なストや抗議デモを主導している。1月中旬と下旬にフランス全土で行われた抗議デモには100万人を超える労働者が参加した。2月に入ってからも複数のストやデモが計画されている。年金改革案の撤回につながった1995年の冬や、2018~19年にかけてフランス全土に広がった「黄色いベスト運動」に匹敵する抗議活動に発展する恐れがある。

昨年4月の大統領選挙で再選を果たしたマクロン大統領だが、直後に行われた国民議会(下院)選挙では、左派の共同会派や極右政党の躍進を許し、議会の過半数を失った。議会審議の行方は予断を許さない。政府は反対派による審議妨害を防ぐため、年金改革案を独立した法案ではなく、社会保障予算の改正案として議会に提出した。3月末までの法案成立を目指している。

図表1
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マクロン改革の集大成となるか?

野党の協力が得られない場合、政府は議会の議決なしに法案を成立できる憲法49条3項の特例措置を利用する可能性を示唆している。野党勢が一枚岩になれないなか、政府は解散カードをちらつかせ、法案成立での野党の協力を仰ごうとしている。マクロン大統領はこれまでも抵抗勢力の反対を押し切り、強引に改革を進めようとして、国民の反発を買ってきた。多くの国民が反対する年金改革案を議会採決なしに成立させる場合、抗議活動の更なる激化を招きかねない。

年金改革を巡る混乱は、経済活動や財政再建の行方にも影を落としている。大規模ストや抗議活動で経済活動が麻痺すれば、景気後退の瀬戸際にあるフランス経済に更なる打撃となる。年金改革案の成立に失敗すれば、政府の財政再建計画は軌道修正を余儀なくされる。更なる改革期待が削がれ、マクロン大統領の残りの任期はレームダック化が進むことになろう。逆に野党の協力で政府が年金改革案の成立に成功すれば、政府の改革遂行能力を示すとともに、1会期に1回の憲法49条3項の特例措置を温存できる。マクロン大統領は二期目の最重要内政課題にけりをつけ、2027年の任期満了までの残りの期間を欧州連合(EU)改革など外交分野でのレガシー作りに注力できる。

図表2
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田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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