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- フランスの予算成立は困難
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首相交代が相次ぐフランスでは、ルコルニュ首相が年金改革の凍結で穏健左派の野党・社会党の協力を取り付け、10月に政権発足に漕ぎ着けたが、その後の予算協議が難航している。これまで政権を支えてきた中道右派政党の地平線や共和党は、社会党に配慮した政府の予算案に反対票を投じる可能性を示唆している。年内の予算成立は見通せなくなった。
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議会採決を迂回する特別な立法手続きを使って予算成立を目指す方法もある。だが、ルコルニュ首相は就任に当たって、この手続きを封印する方針を表明している。前言を撤回すれば、内閣不信任案が提起され、再び首相交代や議会選挙の前倒しに発展するリスクがある。他方で、予算成立を優先し、社会党に大幅な譲歩をすれば、財政再建が遠退く。予算未成立のまま越年する場合、財政再建は後ずれするが、財政悪化の度合いは限定的となり、政治リスクも封印できる。
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議会選挙は1年に1回しかできない。2027年4月の大統領選挙の直後に議会選挙を行うには、来年の春先以降、議会選挙の前倒しはできない。年末の予算協議を乗り切ると、議会の解散・総選挙のリスクは遠ざかる。ただ、来年後半に入ると、大統領選挙の候補者を一本化する予備選挙が開始される。極右大統領の誕生が意識され、金融市場の動揺を誘うことが予想される。
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フランスの予算協議が難航しており、来年度の予算案を可決できないまま、年末を迎える可能性が高まっている。ルコルニュ首相は、マクロン大統領の目玉政策の1つである年金改革を凍結することで、穏健左派の野党・社会党(PS)の協力を取り付け、10月に政権発足に漕ぎ着けたが、その後の予算協議で与野党間の溝が埋まらず、予算の成立期限が近づいている。5日に行われた社会保障予算の歳入部分の議会採決は、原案からの幾つかの修正と野党議員の投票棄権にも助けられ、辛うじて可決した。だが、9日に予定される年金改革の凍結を含む社会保障予算の歳出部分に関する採決は、より際どいものになるだろうとの見方が支配的だ。
マクロン大統領を支持する与党勢力は数年前から、国民議会(下院)での過半数の議席を失った(図表1)。過去の政権は、議会採決を迂回する特別な立法手続き(憲法49条3項)を頻繁に使うことで、各種の法律や予算を成立させてきた。だが、ルコルニュ首相は首相就任に際して、この49条3項や、提出から一定期間を経過した場合に自動的に予算が成立する別の立法手続き(憲法47条)を封印する方針を表明している。政権運営に協力してきた中道右派の共和党(LR)の議員からは、こうした方針を撤回し、憲法上認められている特別な立法手続きを利用して、予算を成立させるべきとの声が浮上している。だが、ルコルニュ首相が方針を撤回すれば、投票棄権で政権発足に協力した社会党が、野党勢力による内閣不信任案に同調し、政権が倒れる可能性がある(図表2)。ルコルニュ首相はこのまま49条3項や47条の手続きを使わない公算が大きい。


こうしたなか、これまで与党中道勢力の一角を占めてきた中道右派政党の水平(Horizon)、さらには、政権を支えてきた共和党が揃って、9日の議会採決で社会党に配慮した政府の予算案に反対票を投じることを示唆している。水平を率いるフィリップ元首相は、2027年4月に予定される大統領選挙への出馬の意向を表明しているが、マクロン大統領の後継候補と目されることを警戒し、政権から距離を置き始めている。共和党はルコルニュ政権の発足当初から、年金改革の凍結や憲法49条3項の封印など、社会党への譲歩に反発してきた。両党の所属議員が造反した場合、社会党が賛成に回った場合も、予算案は否決される。極右政党・国民連合(RN)の一部議員からは、予算案が否決された場合、ルコルニュ首相の辞任を求めている。年末までの期限に予算を成立させることは極めて困難な情勢で、ルコルニュ首相は昨年同様に、国家の税徴収や公債発行を認める特別立法を議会で通し、年明け後に改めて予算成立を目指す可能性が高まっている。
年金の支給開始年齢を段階的に引き上げる方針を凍結したことで、中長期的な政府の財政悪化は避けられない(図表3)。ルコルニュ首相は別の緊縮措置でこの分を穴埋めしようと考えているが、野党勢がこれに反発している。予算成立を優先し、社会党に更に大幅な譲歩をする場合、フランスの財政状況は大幅に悪化する。年内の予算成立を断念する場合も、財政再建は後ずれするが、社会党に譲歩をする場合と比べて、財政悪化の度合いは限定的となる。前言を撤回し、特別な立法手続きを使えば、内閣不信任案が提起され、首相が再び退陣に追い込まれる恐れがある。予算未成立のまま越年する場合、大幅な財政悪化が避けられ、当面の政治リスクも封じ込められる。

年末の予算協議を乗り切ると、2027年4月に大統領選挙が近づいてくるため、この段階での国民議会の解散・総選挙は回避される公算が高まる。フランスではかつて、大統領選挙と国民議会選挙の投票サイクルが異なり、大統領の出身政党と議会の多数派の間でねじれ(コアビタシオン)が生じたことがある。近年は大統領選挙の直後に国民議会選挙を行うことで、ねじれを回避してきた。2024年に国民議会を任期満了前に解散し、前倒しで国民議会選挙を行ったため、現在は大統領選挙と国民議会選挙の投票サイクルがずれている。国民議会選挙は前回の投開票から1年を経過しないと次の選挙ができない。つまり、2027年の大統領選挙の直後に国民議会選挙を行うためにも、来年の春先以降、議会の解散権を持つマクロン大統領が国民議会選挙を前倒しする可能性は遠退く。
だが、極右政党の勝利が不安視される国民議会選挙が回避された場合も、フランスの政治リスクが一掃されることはなさそうだ。来年後半に入ると、一部の政党が大統領選挙の候補者を一本化する予備選挙を開始するとみられ、今度は大統領選挙に向けて臨戦態勢に入る。公職停止の控訴審判決待ちの国民連合のルペン氏が大統領選挙に出馬できるかどうかは不透明だが、最近の世論調査では、初回投票・決選投票ともに、同党のバルデラ氏が圧倒的な支持を集め、勝利する可能性が示唆される(図表4・5)。極右大統領の誕生が意識され、金融市場の動揺を誘うことが予想される。


田中 理
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