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- 時評『願望と現実~わが国の成長・財政見通しに思う』
本年1月、内閣府より「中長期の経済財政に関する試算」(以下、内閣府試算)が公表された。これは経済財政諮問会議の審議に資することを目的に、足元から向こう10年程度の経済成長や財政状況等の試算を示したもので、概ね1月と7月の年2回公表されている。
政府は目下、2025年度の「プライマリー・バランス(PB)」(社会保障や公共事業といった政策的経費が、国債等の借金に依存しない(税収等)で賄えているかを示す)黒字化目標を掲げている。物価変動の影響を除いた実質経済成長率で2%、名目で3%程度で推移する「成長実現ケース」では、目標から1年遅れた26年度にPB黒字化目標が達成される。また国と地方の公債等残高のGDP比は22年度がピークで32年度に向けてゆるやかに低下していく。一方、実質で1%弱、名目で1%成長程度の「ベースラインケース」では予測期間の32年度までPBが黒字化することはなく、債務残高のGDP比も一向に低下しない。
では成長実現ケースを前提に、もうひと踏ん張りすれば、25年度の目標達成が視野に入ると楽観して良いのかというと現状は否であろう。まずは、実力を大きく超える成長目標を前提としているからだ。例えば政権に返り咲いた安倍元総理が最初に示した成長戦略である「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(2013年6月)において、「今後10年間の平均で名目GDP成長率3%程度、実質GDP成長率2%程度の成長を実現することを目指す」とした。今年はまさにこの戦略策定からちょうど10年となるが、この間の成長率は、新型コロナの影響で急激に落ち込む前までの平均でも名目で1.5%、実質で1%程度と目標の半分程度にとどまっており、むしろ「ベースラインケース」の成長前提に近い。さらに、内閣府試算では23年度以降において、ほぼ毎年編成されている補正予算を考慮していないため、歳出が実際よりも少なく見積もられていよう。
内閣府試算が公表された2日後、IMF(国際通貨基金)が年に1度の対日経済審査を終え、声明を公表した。その中で、「内閣府が公表するGDP成長率と財政収支の予測は歴史的に楽観的過ぎた」とし、「一層現実的なシナリオを想定することが必要」としている。さらに、補正予算については、「例外的に大きなマクロ経済ショックが発生した場合のみに」限るべきと指摘した。
折しも政府はEBPM(Evidence Based Policy Making)の推進を図っており、2022年度版の「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」でも「効果的・効率的な支出の推進とEBPMの徹底強化」が謳われている(同方針文中では「EBPM」が8回も登場)。また内閣府のHPによると、「データを活用したEBPMの推進は、政策の有効性を高め、国民の行政への信頼確保に資する」としている。声の大小や“カン”ではなく、データ等の客観的な基準で政策の優先順位や予算配分が決められることは、限られた資金・資源を最大限有効に活用していく上で大切である。ただ足元までの財政運営を見る限り、この点でEBPMが効果を上げているとは言い難い。
目下岸田総理は「成長と分配」の好循環を経済政策の柱に掲げており、分配の原資となる成長は極めて重要である。変化の激しい世の中にあって想定される将来像を描き、高成長に向けた夢や理想を語ることは成長戦略には必要である。ただ、その実現に向けた具体的な道筋や必要な政策、財政の将来像等についても、客観的な分析やデータに十分基づかない夢や願望ばかりを前提としていると、また同様の10年を繰り返すことになってしまおう。
松村 圭一
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

