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内外経済ウォッチ『日本~ウクライナ危機が日本経済に及ぼす影響~』(2022年6月号)

永濱 利廣

目次

深刻な所得の海外流出

ロシアによるウクライナへの軍事侵攻により世界経済の先行きが不透明となり、資源高や円安、米金利高など様々な面で悪影響が出始めている。そこで本稿では、ウクライナ危機による日本経済への影響を予測する。

貿易統計でロシアやウクライナとの直接的な貿易額を見ると、2021年時点で全体の2%程度に過ぎない。しかし、分野別で見れば、鉱業や採石業、エネルギー関連産業、魚介・海産物、金属原料や木材などといった原料に関連する産業では相対的に輸入依存度が高くなっている。このため、こうした産業では代替品の調達を余儀なくされることになろう。

むしろ、日本経済への影響を考えた場合、そうした直接的な影響よりも、ウクライナ危機に伴う化石燃料や穀物の価格が世界的に上昇することによる間接的な影響の方が圧倒的に大きいと考えられる。

実際、民間エコノミストの経済予測を集計して平均を公表する日経センターのESPフォーキャスト調査によれば、直近4月時点での消費者物価指数の見通しは、今年4-6月期に+1.8%まで上昇することになっている。

これは、紛れもなく輸入原材料価格の高騰に伴うコストプッシュインフレであり、日本経済にはインフレ率上昇に伴う実質所得の減少を通じ悪影響が及ぶことになる。一方、ウクライナ危機は世界経済にも悪影響を及ぼすため、米欧中をはじめとした日本の主要貿易相手国の景気減速を通じて日本からの輸出にも悪影響を及ぼす可能性がある。

なお、日本の民間部門はコロナ禍の経済活動抑制に伴う強制貯蓄が潤沢に積み上がっていること等から悪影響を一部軽減する可能性があるが、貿易面を通じたウクライナ危機の影響は避けられないだろう。特に、ウクライナ危機前から半導体をはじめとしたさまざまな供給制約に苦しんできたが、さらに輸出の回復が遅れることが予想される。

そして、日本経済全体で見た昨年の交易損失は▲4兆円程度であったが、今年1-3月期時点の一次産品価格がこのまま横ばいで推移すると仮定すれば、今年の交易損失は▲15.8兆円程度になることが予想され、昨年に比べて追加で▲12兆円近くの所得の流出が予想される。加えてオミクロン株の感染拡大もあり、先のESPフォーキャストによれば、今年度の経済成長率見通しのコンセンサスは3か月前の+3.1%から+2.3%に下方修正されている。

困難な日本経済の正常化

化石燃料の価格上昇は、日本の貿易赤字拡大を通じて経常黒字縮小要因となることに注意が必要だろう。経常黒字が縮小するとなれば、対外取引面で相対的に円を外貨に換えて支払う機会が増えることを意味することから、円安圧力が強まる可能性があるためである。

自国通貨が安くなること自体は国内で生み出された財やサービスの国際競争力が高まることを意味するため、一般的にはGDPの押し上げ要因になる。しかし、足元では国際競争力が高まることで恩恵を受けやすい財輸出が、供給制約により十分に力を発揮できていないことに加え、サービス輸出もインバウンド消滅により恩恵を享受しにくくなっている。

結果として、エコノミストコンセンサスに基づいて内閣府版GDPギャップを延長すれば、昨年度末時点で▲18.3兆円、予測最終時期の2023年度末時点でも▲1.0兆円の需要不足が残存することになる。なお、過去の経験則からインフレ目標2%を達成するには内閣府版GDPギャップが+15兆円の需要超過となることが必要になるため、日本経済は効果的な追加の経済対策を打たない限り、2023年度末までに経済が正常化することは困難といえよう。

永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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