時評『行政のデジタル・トランスフォーメーション』

可部 哲生

2020年初頭にコロナ禍が始まってから、2年半近くが経過した。

数十年に1回の経験であるパンデミックが内外の経済、社会、政治、文化に与えた影響は幅広いが、この間に、世の中で大きく進んだ事柄の一つがデジタル化とデータの活用である。

コロナ禍以前から、デジタル技術の急速な進展に伴って、官民の業務のデジタル化やデータを活用した経済活動の必要性については認識され、取り組みが進められてきた。

さらに、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のために、出勤抑制をはじめとして人と人との接触が大幅に制限されたことに伴って、デジタル技術を活用した在宅勤務、リモート会議等への対応が否応なく求められるようになった。そして、その効用が幅広く認識されたことが、個人の生活、ビジネス・モデルや社会のインフラストラクチャーそのもののデジタル・トランスフォーメーションを大きく後押しすることになった。

行政サービスにおいても、例えば、国税庁は2021年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」をとりまとめ、12月には工程表も発表している。e-Tax(国税電子申告・納税システム)は、利用率が法人で8割、個人で5割を超え、政府のデジタル手続きの中では最も利用されているサービスの一つであり、コロナ禍の下での感染拡大防止対策という観点からも利用が進んでいる。

この報告書では、さらに、「税務行政の将来像2.0」として、①納税者の利便性の向上のため、あらゆる税務手続が税務署に行かずにできる社会を目指すこととしている。具体的には、納税者の方が、マイナポータルを通じて、保険料、医療費、年金収入、ふるさと納税等、自らの税と社会保障に関する情報を一元的に把握し、申告できるようにする、チャットボットを活用した税務相談を拡充する、申告の要否や申告期限の特例等についてプッシュ型の情報配信を行うといった姿を描いている。また、②課税・徴収の効率化・高度化のため、申告内容の自動チェック、AI・データ分析の活用、照会等のオンライン化、リモート調査の活用等を図り、適正公平な課税の実現を推進することとしている。

政府全体としても、デジタル臨時行政調査会を中心に、2021年12月にデジタル原則を策定し、古い規制をデジタル技術に置き換えることで、国民の安全・安心かつ便利なくらしや事業活動の円滑化につなげることとしている。

デジタル化が真に効果を発揮するためには、単に紙をデジタルに置き換えるのではなく、業務の流れそのものを見直すビジネス・プロセス・リエンジニアリングと併せて実施する必要がある。こうした観点から、政府は、デジタル原則に沿って、法律、政省令、通達等、4万件を点検し、目視規制、実地監査、定期検査、書面掲示、常駐専任、対面講習、往訪閲覧等のアナログ規制をデジタル技術で代替できないか検討することによって、デジタルの力を最大限に発揮し、経済成長の実現につなげようとしている。

こうした動きに経済界も積極的に連携しており、経済団体は、デジタル・トランスフォーメーションによってSociety5.0(創造社会)を実現するため、官民で集中的に取り組むべきデジタル化や規制改革に関する提言をとりまとめている。

コロナ禍によって、ワクチン開発、医療提供体制、働き方改革等、多くの課題が顕在化し、世の中の変化のスピードも加速化したが、デジタル・トランスフォーメーションは、その最たるもののひとつである。

コロナ禍がもたらした経験を、ポスト・コロナの経済成長と社会の発展につなげていくためにも、官民の連携の下で、行政のデジタル・トランスフォーメーションがスピード感をもって実現していくことを期待したい。

可部 哲生


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