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QOL向上の視点『Z世代のキャリアはプロティアン(変幻自在)』

畑野 宏

最近「Z世代」という言葉をよく耳にするようになった。「Z世代」とは、1990年代中盤以降に生まれた20代半ばまでの世代を指す言葉だが、彼らの特徴的な思考や行動は、マーケットの世界だけにとどまらず、キャリアの世界においても独自の道を歩み始めている。アメリカの心理学者ダグラス・ホールは、当時主流であった組織主体の伝統的キャリア理論に対し、環境の変化に応じて柔軟に個人を変化させる「プロティアン・キャリア」という概念を提唱した。プロティアンの語源は、変幻自在に姿を変えられるプロテウスという、ギリシャ神話上の神の名に由来する。この概念の中に、今歩き出したばかりの「Z世代」の生き方と、多くの共通点を見つけることができるのである。

「Z世代」は、ソーシャルネイティブ世代とも呼ばれ、生まれた時からデジタルデバイスや、SNSから流れる大量の情報に接して育っている。ジェンダーや環境問題に代表される、現在の社会問題にもリアルタイムで触れ、その問題の抱える本質や世の中の共感度についても、敏感に感じることが出来る環境で育ってきた。また、テレビや車を持たないこの世代は、いわゆるモノに対するこだわりが少ない反面、人とのつながり、自身を高めるコトに対しては出費を惜しまない。マズローの欲求5段階説(資料参照)で言えば、低次の欲求よりも高次の欲求に対し、より出費をする価値を見いだしている。それは、幼いころよりネットから得た、真に美しいものや優れたもの、正しいものを追い求めてきた、彼ら独自の価値観なのだ。そんな環境の中で成長した「Z世代」は、今後どのようなキャリアを形成していくのであろうか。

右肩上がりを生きた筆者の世代は、昇進・昇給、豊かな生活といった、共通の夢や目標に向かってがむしゃらに働いた。しかし「Z世代」にとって、それはさほど魅力を感じない選択肢に映る。なぜなら、目指すべきロールモデルは画一的に映るばかりか、その過程で大切なものを失うリスクがあることも知っているからであろう。むしろ彼らが大切にしているものは、極論を言えば、地位や名誉や遠い未来の豊かな生活よりも、今を大切に、より楽しく充実させることにある。またその過程において、仕事と同じ重さで家族やつながりを大切にする。そこによりよい道が見つかれば、キャリアチェンジすることに抵抗はない。まさに「Z世代」のキャリアはプロティアン(変幻自在)と言えよう。

そしてこの世代は、小学生の頃よりLGBTについての絵本を出版したり、観測用人工衛星の作成に挑戦したり、動画作成者として数百万名のフォロワーを抱えたりと、この停滞した世の中に向けてさまざまな形で発信を始めている。一方で、いまだ成長段階にあるこの若者たちを、私たちはどう見守っていけばよいのだろうか。まずは「今の若者は」という発想を改め、「彼らからも学ぶことがある」という姿勢を持つこと。そしてその多様性を受け入れ、共感し、話しかけてみてはいかがだろうか。その中に、私たち大人自身も、このVUCAの時代を生き抜くヒントを見つけられるかもしれない。

資料1
資料1

畑野 宏


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。