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ブラジル最高裁、9月にボルソナロ前大統領への判決を下す方針

~判決は内政や外交、来年の大統領選の行方にも影響を与えるなど、その内容を注視する必要~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル最高裁は15日、2023年に発生した政府機関襲撃事件やクーデター計画への関与容疑で起訴されているボルソナロ前大統領らに対して、来月判決を下すと発表した。ボルソナロ氏は容疑を否認しているが、仮に有罪判決が下れば最長で43年の禁固刑となる可能性がある。
  • 政府機関襲撃事件の背景には、2022年の大統領選での敗北を認めなかった同氏の姿勢が影響しており、支持者の暴走を招いたとされる。米国のトランプ大統領はこの裁判を「魔女狩り」と批判するとともに、先月に同国に対する相互関税を50%に大幅に引き上げる決定を行った根拠の一つに挙げている。
  • なお、米国がブラジルに対する相互関税を大幅に引き上げた根拠としては、政府主導で導入されたデジタル決済システム(PIX)のほか、同国が加わるBRICSによる「反米的な政策」も影響している。さらに、裁判に関連して判事に対する制裁を強化するなど圧力を強めるが、両国の関係の行方も不透明な状況にある。
  • この判決の結果は、ブラジルの内政や外交、さらには来年の大統領選の行方にも影響するとみられる。

ブラジルの最高裁判所は15日、クーデターを計画した容疑などで起訴されているボルソナロ前大統領らに対する判決を来月2~12日に言い渡す予定であると発表した。同国では、2023年のルラ政権発足直後にボルソナロ氏の支持者らが連邦議会や大統領府、最高裁場所など政府機関を襲撃する事件が発生した。支持者が暴挙に動いた背景には、前年の大統領選においてルラ氏が僅差でボルソナロ氏に勝利した結果について、ボルソナロ氏が開票結果への異議申し立てを行うも、裁判所は証拠不十分を理由に申し立てを却下し、不誠実な訴訟を理由にボルソナロ氏に罰金刑を下したことがある。これにより、司法手続きによる結果の見直しは不可能となった。なお、ボルソナロ氏自身はその後も敗北を認めないまま、大統領退任直前に病気療養を目的に訪米し、襲撃事件が発生した際も米国に滞在していた。よって、襲撃事件へのボルソナロ氏の直接的関与は不明とされたが、その後の連邦警察による捜査の結果、ボルソナロ氏の側近から事実上の関与を示唆する証言が相次いだ。さらに、連邦議会調査委員会による調査や連邦警察の捜査を経て、ボルソナロ氏が国軍に圧力を掛けて高等選挙裁判所長官を拘束し、大統領選の結果を無効にする計画を企てた疑いが浮上し、同氏や側近など計34人が起訴された(注1)。

一方、この起訴を巡っては、トランプ米大統領が自身のSNSで裁判を『魔女狩り』であると批判するなど干渉する姿勢をみせた。ボルソナロ氏を巡っては、その政治手法や言動がトランプ氏に似ていることを理由に『ブラジルのトランプ』と揶揄されるとともに、その支持者もトランプ氏の支持者同様に熱狂的とされている。事実、ボルソナロ氏の支持者が連邦議会などを襲撃した件を巡っても、トランプ氏の支持者が2021年に連邦議会議事堂を襲撃した事例を模倣したとの見方もある。そして、ボルソナロ氏は右派で親米色が強く、両者の下で両国は良好な関係を築いたものの、現在のルラ政権を支える最大与党の労働者党(PT)は反米左派色が強く、政権交代以降は中国との関係深化を図ったこともトランプ氏の反発を招いた可能性がある。結果として、ブラジルは米国にとって貿易黒字国であるにもかかわらず、不公正な貿易慣行のほか、自由選挙や言論の自由への攻撃といった政治的要因を理由に、突如同国に対する相互関税の税率を10%から50%に大幅に引き上げた(注2)。さらに、トランプ米政権は裁判を担当する最高裁判事に対するビザ(査証)の発給を制限する旨の制裁を科すなど圧力を強めており、仮に有罪判決が下されれば反発を強めると予想される。

トランプ米政権は同国に対する相互関税を大幅に引き上げた根拠のひとつに不公正な貿易慣行を挙げたが、その根拠としてデジタル貿易や関税が不当、もしくは差別的であり、米国の商業活動を圧迫、もしくは制限している可能性を示した(注3)。同国では、2020年に政府主導により即時決済システム(PIX)が導入されるとともに、電子決済に義務化されたことで、足元では国民の7割以上が利用しているとされる。その一方、米国の大手クレジットカード会社やIT企業などは同国における手数料ビジネスの機会が失われる事態となっている。さらに、ブラジル政府はPIXの国際版(PIXインターナショナル)による越境決済の導入を模索しており、仮にこれが実現すれば、国際決済における米ドルの優位性を脅かす可能性も考えられる。トランプ氏はこのところ、同国が加わるBRICSによる『反米的な政策』に対する追加関税を示唆するなど圧力を強めており(注4)、ブラジルに対する相互関税の大幅引き上げはその一環と捉えられる。なお、ブラジル政府は米国の主張を否定するとともに、世界貿易機関(WTO)の法的枠組み以外の調査を拒否する方針を示す一方、米国に建設的な対話を要求する考えをみせる。しかし、上述のようにトランプ氏はボルソナロ氏の扱いなど政治的理由を関税引き上げの根拠のひとつに挙げたことを勘案すれば、協議が円滑に進むかは見通しが立たない。

一連の公判について、ボルソナロ氏は一貫して容疑を否認しているものの、クーデター容疑が認定されれば、最長で43年の禁固刑を言い渡される可能性がある。なお、仮に有罪判決が下された場合も、ボルソナロ氏は判決に対する不服申し立てが可能であり、その場合は10月末までに審理されるとともに、年内にも判決が確定する見通しとなっている。同国では来年10月に次期大統領選が予定されるなか、ルラ氏は再選を目指しているとされる一方、年明け以降の政権支持率は過去最低を更新するなど政権に逆風が吹く展開が続いた(注5)。しかし、トランプ米政権による関税政策をはじめとする『圧力』を受けて、足元ではルラ政権に対する支持率が不支持率を上回るなど風向きが変わっており、ボルソナロ氏に対する判決の行方は次期大統領選に向けた流れを左右することも考えられる。その意味では、来月の判決はブラジルの内政、外交両面を大きく動かす点で、その行方を注視する必要性がある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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