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ブラジル検察がボルソナロ前大統領らをクーデター計画容疑で起訴

~来年の大統領選に影響の一方、政権を巡る環境悪化は中銀への「圧力」を招く可能性に要注意~

西濵 徹

要旨
  • ブラジルでは、2023年のルラ政権発足直後にボルソナロ前大統領の支持者などが議会など政府機関への襲撃事件が発生した。ボルソナロ氏は大統領選の結果に不満を示す一方、その時点で同氏は訪米中であり、当初は襲撃事件への関与は不透明とされた。しかし、同氏は帰国後に大統領選での権力乱用を理由に2030年まで公職を追放される判決受けている。さらに、その後も当局は長期に亘る捜査を行い、18日に同氏や側近など計34人をクーデター計画の容疑で起訴した。最高裁が起訴状を受理すれば、来年の大統領選への出馬意欲を隠さない同氏への打撃は必至とみられる。他方、同氏の起訴を巡っては支持率の急落など政権を取り巻く環境が厳しさを増していることも影響している可能性がある。足下のレアル相場は中銀の「タカ派」堅持が下支え役となる一方、物価高と金利高の共存が支持率低下の一因となっていることに鑑みれば、政権の中銀への「圧力」が強まるリスクもある。その意味でもレアル相場の動向に要注意と言える。

ブラジルでは2023年初めにルラ大統領が就任した直後、ボルソナロ前大統領の支持者などが中心となる形で連邦議会や大統領府、最高裁判所など政府機関を襲撃する事件が発生した(注1)。この背景には、前年の大統領選でルラ氏が僅差で勝利したものの、ボルソナロ氏などは開票結果への異議申し立てを行うも、その後に証拠不十分を理由に申し立ての却下に加え、不誠実な訴訟を理由とする罰金刑を下すなど司法手続きによる見直しが不可能となったことがある。ボルソナロ氏を巡っては、その政治手法や言動が米国のトランプ大統領に似ていることを理由に『ブラジルのトランプ』と揶揄されてきたほか、その支持者を巡ってもトランプ氏の支持者同様に熱狂的とされる。さらに、トランプ氏の支持者は、2020年の大統領選の結果への不満を理由に翌21年初めに連邦議会議事堂を襲撃したこともあり、そうした動きに倣ったとみられた。

他方、ボルソナロ氏自身は司法手続きを通じた選挙結果の見直しが不可能となった後も敗北を認めない姿勢をみせる一方、退任直前に病気療養を目的に訪米しており、上述の襲撃事件の際には訪米中であった。よって、襲撃事件への直接的な関与は不透明とされたが、連邦警察は扇動の容疑での捜査を求めるとともに、最高裁判所も捜査を許可したほか、その後にボルソナロ氏の側近が一連の選挙結果を覆す試みへの参加を強要された旨の告白を行うなど、ボルソナロ氏が事実上関与していたことを仄めかす動きがみられた。ボルソナロ氏はその後にブラジルへの帰国を果たしたが、大統領選での権力乱用を理由に選挙法に違反していたことが認定され、2030年まで公職に就くことを禁じる旨の判決が下されており、来年の次期大統領選への出馬は事実上不可能となっている。

さらに、議会の調査委員会は襲撃事件を巡ってボルソナロ氏や多数の政権幹部に対する起訴相当とする調査結果をまとめるとともに、連邦警察も捜査を継続してきた。昨年には、ボルソナロ氏が側近の提案に従い高等選挙裁判所長官の拘束により選挙結果を無効にすべく国軍に圧力をかけたとの容疑を固めるとともに、検察に対して起訴を求める捜査報告書を最高裁判所に提出していた。そのなかでは、ボルソナロ氏のパスポート(旅券)が押収されたほか、元側近数人が逮捕されるなどの動きがみられたものの、ボルソナロ氏は容疑を否定するとともに、支持者がデモを展開するなど一連の捜査に対するけん制を強める動きもみられた。

このように、ボルソナロ氏への容疑を巡って支持者と当局が真っ向から対立する構図がみられたなか、検察当局は今月18日にボルソナロ氏と副大統領候補であったブラガネット元国防相を大統領選の結果を覆すべくクーデターを企てたとの容疑で起訴した。両者以外にもボルソナロ氏の『右腕』とされるトレス元法相のほか、前政権の閣僚や国軍関係者など計34人が起訴対象となっており、側近を中心とする形で大々的に展開されたとしている。なお、上述のようにボルソナロ氏は2030年まで公民権が停止されるなど来年の次期大統領選への出馬は事実上不可能ながら、支持者の間ではボルソナロ氏の妻(ミシェリ氏)への出馬待望論のほか、現在上院議員の長男フラビオ氏、下院議員の三男エドゥアルド氏などボルソナロ一族からの大統領排出を期待する向きがある。今後は最高裁が起訴状を受理するか否かに注目が集まるが、受理されれば大統領選出馬のハードルは大きく上がるなど打撃は必至である。

当局がボルソナロ氏への起訴に動いた背景には、来年10月に次期大統領選と総選挙の実施が予定されるなど『政治の季節』が近づいているなか、現政権を取り巻く環境が急速に厳しさを増していることが影響している可能性もある。今月公表された最新の世論調査では、ルラ政権に対する支持率が24%と昨年12月時点(35%)から大幅に低下して3期目を迎えるルラ政権下で最も低水準になり、不支持率も41%と昨年12月時点(34%)から大幅に上昇して最も高水準となるなど、政権の政策運営に対する不満が高まっている様子がうかがえる。ルラ政権を巡っては、発足当初から過去の成功体験を元にバラ撒き志向を強めることが警戒されたが(注2)、現実の政策運営においても公的債務残高は拡大ペースが加速するとともに、昨年公表した税制改革を巡って金融市場の失望を招くなど厳しい状況に直面している(注3)。なお、足下のレアル相場は中銀が『タカ派』姿勢を堅持するなど市場の懸念に配慮した政策運営が下支え役となっているものの(注4)、物価高と金利高の共存が政権支持率低下の一因となっていることに鑑みれば、政権からの『圧力』が強まるリスクもくすぶる。今後のレアル相場を巡っては、そうした動きに注意を払う必要性が高まっていると考えられる。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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