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インドネシア・プラボウォ政権、サイバー空間の「予測」に敏感に反応

~同国では賭博は違法だが、「言論の萎縮」が一段と進む可能性も~

西濵 徹

要旨
  • インドネシアでは2008年制定のITE法を軸に、2016年、2024年の改正を経てインターネット規制が強化されてきた。2024年改正では名誉棄損やフェイクニュースなどが規制対象とされたが、定義の曖昧さから言論統制への悪用が懸念される。政府は問題とみなすサイトのブロッキングや、選挙、社会不安時のSNSスロットリング、アクセス制限も頻繁に実施している。2025年8月の反政府デモ拡大時には、当局の過剰対応による死者情報の拡散に対しアクセスを制限し、かえって国民の反発を招いた。一方、未成年者保護の観点から、2026年3月に16歳未満のSNS利用を原則禁止する措置も導入されている。

  • こうしたなか、暗号資産を用いた予測市場「ポリマーケット」で「プラボウォ大統領がいつ失脚するか」を問う市場が立ち上がり注目を集めると、政府はオンライン賭博禁止を理由に即座にアクセスを遮断した。ただし背景には、政府批判の可視化への警戒や、国際的な賭けの対象とされたことへの焦りもあるとみられる。ルピア安定のため中銀が大幅利上げに動く一方、政権のポピュリズム的財政運営がその効果を損なうリスクがあり、金融市場からの「警句」にプラボウォ政権がどう応えるかが問われている。

目次

【インドネシアではここ数年、サイバー空間への政府の関与が高まっている】

インドネシアではここ数年、インターネット空間における言論に対する政府の監視や介入が強まっている。同国では、2008年に電子情報取引法(ITE法)が制定され、電子署名や電子契約、サイバー犯罪などに関する基本法となった。その後、同法は2016年と2024年に改正され、民間電子システム提供者(PSE)に対する規制のほか、児童保護義務、国際電子契約に対するインドネシア法の適用が強化された。

2024年の法改正では、名誉棄損やフェイクニュース、ヘイトスピーチ、わいせつ表現、宗教に対する冒とく、秩序を乱す情報などが規制対象として指定された。しかし、規制対象とされた情報のうち、名誉棄損や秩序を乱す情報などは、その定義が曖昧であるがゆえ、政府批判や言論統制に援用されやすいとされ、言論の自由の萎縮につながることが懸念されてきた。政府はウェブサイトのブロッキングを頻繁に行っているとされ、ポルノやギャンブルに関するサイトや政治・宗教面で問題とされるコンテンツのほか、一部のVPNサービスなどがその対象となっている。2022年には海外のプラットフォーマーに対するPSE登録制度が導入されるとともに、個人情報保護法(PDP)が成立し、データの現地保存義務が課された。その際に違法コンテンツの削除や政府の要請への対応、データ提供の協力に応じなかったことを理由に、一部の海外のプラットフォームが展開するサービスへのアクセスが一時的に不能になったこともある。

政府は選挙期間中や社会情勢の不安定化が懸念される事態に陥った際、SNSの通信速度を意図的に低下させるスロットリングのほか、一時的にアクセス制限を行う事例も多いとされる。2025年8月に国会議員の厚遇を巡る問題のほか、政府が財政健全化を目的に一部の歳出削減に動いた結果、国民生活にその負担が及んだことをきっかけに全土で反政府デモが拡大する事態に発展した。その際、当局が事態の沈静化を目的とする過剰な対応により死者が出たことについて、SNS上で情報が拡散したものの、政府は関連情報に対するアクセスを制限し、国民の不満にかえって火を付ける結果となったことは記憶に新しい(注1)。

近年はSNSなどの急速な発展により若年層が関連するオンライン詐欺やいじめ、デジタル依存が社会問題化している。こうしたなか、同国では2026年3月末から16歳未満によるSNSアカウントの保有や新規開設が原則禁止された。これにより、プラットフォーマーには厳格な年齢確認が義務付けられるとともに、未成年者によるアカウントの段階的な停止措置が進められている。未成年者によるインターネットに関連する問題は世界的な課題となっており、オーストラリアでは2025年12月に16歳未満のSNSの利用を禁止する法律が世界で初めて施行されたほか、EU(欧州連合)や米国の一部の州などでも未成年者によるアカウント作成時における保護者の同意や夜間の利用制限などの法制化が進む動きがみられる。こうした動きは、未成年者によるSNS利用を巡る日本における議論にも影響を与えると見込まれる。

【政府批判への過剰対応か、賭博禁止措置か、冷静な議論が求められる】

こうしたなか、政治や経済、スポーツ、エンタメといった現実世界のあらゆる出来事に関する予測について暗号資産を用いて賭けができる世界最大のブロックチェーン予測市場プラットフォーム「ポリマーケット」が注目を集めている。同国では賭博行為が違法であるものの、5月21日にプラボウォ大統領がいつ失脚するかを巡る予想市場(マーケット)が立ち上げられ、SNS上で急速に注目が集まった。

プラボウォ大統領の任期満了は2029年であるものの、足元では中東情勢の緊迫化による悪影響が懸念されるにもかかわらず、ポピュリズム色の強い財政運営を維持しているうえ、石炭やパーム油など主要一次産品輸出に対する政府統制を強化する考えを明らかにした(注2)。その結果、金融市場では通貨ルピア相場が最安値を更新する展開が続くなど厳しい評価を受けている(図1)。

図表
図表

インドネシア政府は当該プラットフォームについて、オンライン賭博プラットフォームに該当するとともに、結論の出ていない事象に対する賭けや投機を含むなど法律に違反していることを理由に、アクセスを遮断したことを明らかにした。オンライン賭博については、日本においても一時社会問題となったように、その扱いについては既存の法律の下で厳格に扱うことが望まれることは間違いない。ただし、インドネシア政府が今回迅速に対応した背景には、インターネット上で隠語の形で広がりをみせる政府批判が表立って可視化されることへの警戒感があるうえ、全世界を対象とする賭博の対象とされたことに対する「焦り」も影響している可能性がある。

金融市場からの信認を維持すべく、中銀はルピア安定に向けて大幅利上げに動いたものの、プラボウォ政権によるポピュリズム色の強い財政運営はその労苦を水泡に帰す可能性がある。そうした金融市場の「警句」を政府は真正面から受け止めることができるか、プラボウォ政権には対応力が問われている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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