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2026.05.19
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BRICS外相会議、中東情勢を巡る「溝」で共同声明の採択見送り
~イランとUAEの対立が先鋭化、「全会一致」を前提とする意思決定の難しさが露に~
西濵 徹
- 要旨
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- 期待外れの内容に終わった米中首脳会談の裏で開催されたBRICS外相会議では、中東情勢を巡る加盟国間の対立が鮮明となった。イランはイスラエルと米国による軍事行動を非難し、BRICSにも同調を求めたが、対立するUAEはこれに強く反発し、双方の溝が露呈した。BRICSは合意形成に当たって全会一致を原則としているため、共同声明の取りまとめは難航、議長国インドが公表した成果文書でも加盟国間の見解の相違が明記された。
- パレスチナ問題を巡っても加盟国間の温度差が浮き彫りとなった。特に、UAEはイスラエルとの関係を深めており、一部の文言に留保を付けたとされる。こうした動きは、加盟国拡大によってBRICSの存在感が高まる一方、利害対立の拡大によって合意形成が難しくなるという構造的課題を示している。今後も加盟拡大の動きが続くと見込まれるが、多様な思惑を抱える国々を束ねる難しさは増しており、BRICSではこれまでの「求心力」に代わって「遠心力」が強まる可能性も意識される。
【米中首脳会談の「ウラ」で開催されたBRICS外相会議】
インドの首都ニューデリーにおいて、米中首脳会談と同じ5月14日から15日にかけてBRICS外相会議が開催された。BRICSは、原加盟4ヶ国(ブラジル(B)、ロシア(R)、インド(I)、中国(C))の集まりとして発足し、2011年に南アフリカ(S)が加わった後は長らく5ヶ国の枠組みであった。その後、2023年の首脳会議で6ヶ国の新規加盟で合意し、翌24年1月にそのうちエジプト、イラン、エチオピア、UAE(アラブ首長国連邦)が正式に加盟した。さらに、2024年の首脳会議で13ヶ国を将来的な加盟を見据えたパートナー国としたほか、そのうちインドネシアが翌25年1月に正式に加盟したため、現時点では計10ヶ国の枠組みとなっている。ここ数年、世界では欧米と中ロによる分断の動きが広がるなか、中ロはBRICSを自らの勢力を拡大させる「舞台装置」に用いてきた。一方、新興国のなかには欧米などの外交姿勢に対する反発が高まり、結果的にBRICSがその「受け皿」として存在感や求心力を高める流れが加速している。
今回の外相会議は、中東情勢の当事国であるイランのアラグチ外相が出席する意向が伝えられたため、その行方についてBRICSが何らかの姿勢を示すかが注目された。また、同日に米中首脳会談が開催されたため(注1)、中国の王毅共産党中央政治局委員・外相は出席できず、駐インド大使の徐飛洪氏が代理出席した。これを受けて、議長国であるインドとしては、BRICS内で圧倒的な存在感を示す中国が不在のあいだに、自らが主導する形でなんらかの「成果」を打ち出すことを目指した可能性があるものの、そのハードルは極めて高かったとみられる。4月に外相会議の前段階として開催された高官会議では、中東情勢を巡って対立するイランとUAEが互いを非難し、インドが取りまとめた議長声明では中東情勢に関する直接的な言及が盛り込まれなかった経緯がある。
【中東情勢を巡って加盟国の意見対立が顕在化、求心力の流れに変化が生まれるか】
外相会議では、イランのアラグチ外相が、イスラエルと米国による同国への軍事行動を違法な侵略行為と指摘したうえで、BRICSとして両国による国際法違反を非難するよう要求する姿勢を示した。そのうえで、同氏は一連の軍事行動を「違法な拡張主義と好戦行為」として米国を批判するとともに、イランはあらゆる手段を用いて自国を守る用意がある一方、外交への道は開かれていると述べるなど、米国との協議に応じる考えをみせた。ただし、前述したように中東情勢を巡ってイランとUAEが対立しており、アラグチ氏は名指しこそ避けたものの、イスラエルと米国による軍事行動に直接関与するとともに、軍事行動が開始された際に非難声明も出さなかったと述べるなど、UAEの対応を糾弾する動きをみせたとされる。
一方、イランは周辺国にある米軍基地や関連施設などを標的とした報復攻撃を行ったほか、その標的にはUAEも含まれた。UAEはイランの主張を全面的に否定したうえで、イランによるUAEへの攻撃を正当化する試みであるとして非難したほか、いかなる脅威や敵対行為に対しても主権的、法的、外交的、軍事的権利を完全に留保すると表明するなど、真っ向から対立した。中東情勢の緊迫化が長期化、事態の見通しが立たない状況が続くなか、両国が同じテーブルに着くことの意義は小さくないものの、BRICSの意思決定は全会一致(コンセンサス)を前提としていることから、共同声明の採択に向けた合意形成は困難との見方が強まった。
こうしたなか、議長国であるインドが公表した共同声明と成果文書において「西アジア・中東地域の情勢に関して、一部の加盟国の間で見解の相違があった」とイランとUAEの間の立場の違いを浮き彫りにする文言が付された。そのうえで、加盟国は事態の早期解決の必要性や、対話と外交の価値から主権や領土保全の尊重に至る多岐にわたるテーマについて、それぞれの立場を表明し、多様な見解を共有したことを明らかにした。その一方、多くの加盟国がイランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖の影響を受けるなか、国際法の遵守のほか、国際水域での安全で妨害のない海上輸送の確保、民間インフラと人命の保護の重要性なども協議の焦点になったとするなど、米中首脳会談と並び、この問題も注目を集めた模様である。とはいえ、あくまで各国の立場の違いが明示されるだけにとどまるなど、意思決定の難しさを浮き彫りにしている。
また、パレスチナ問題に関連して、ガザ地区が占領下のパレスチナ領土の不可分の一部であることを再確認したうえで、パレスチナ自治政府の下でヨルダン川西岸地域とガザ地区を統合することの重要性を指摘し、パレスチナ人の自決権や独立したパレスチナ国家の権利を再確認する方針を示した。しかし、これについては具体的な国名こそ挙げていないものの、ある加盟国がガザ地区に関する項目の一部に保留条件を付けたとの指摘もなされた。背景には、2020年のアブラハム合意による国交正常化を経てUAEはイスラエルとの関係を急速に緊密化させており、貿易など経済面での結びつきのみならず、ともにイランを共通の脅威と見なすなかで軍事連携や防衛協力を深化させていることも影響している。UAEは5月1日付でOPEC(石油輸出国機構)から脱退しており、その理由としてサウジアラビアとの路線対立が挙げられるとともに、イランによる報復攻撃に対して他の産油国が明確な批判を示さなかったことへの苛立ちも影響したとの見方もある。
BRICSが加盟国の拡大に動いた際、加盟国の拡大を受けてBRICSに対する注目度が高まるとともに、存在感も向上することが期待される一方、全会一致を前提とする合意形成に当たってそのハードルが高まることが懸念された。足元の状況はBRICSが早くもそうした問題に直面していることを意味しており、先行きも同様の局面に陥る可能性は高い。前述したように、BRICSには将来的な正式加盟を前提とするパートナー国制度が設けられており、4月にはマレーシアが加盟に意欲を示した。各国の思惑が多岐にわたるなか、様々な国がひとつのテーブルに着いて協議を行うことの意義は少なくないものの、これまでの求心力から一転して遠心力が働く可能性にも注意が必要と考えられる。
注1 5月18日付レポート「期待外れに終わった米中首脳会談、「時間軸」が両者の認識の違いに」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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