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ブラジル中銀利上げ停止も長期据え置き示唆、トランプ関税も警戒

~米国の「標的」は政府主導の即時決済システム、実体経済への影響は限定的も事態長期化に懸念~

西濵 徹

要旨
  • ブラジル中銀は、7月の定例会合で政策金利を15.00%に据え置いた。中銀は過去7会合連続で利上げし、政策金利は約19年ぶりの高水準にある。ただし、足下のインフレは引き続き目標を上回る水準で推移している。中銀は引き締め姿勢を維持しつつも、利上げを一時停止した上で、高金利政策を「非常に長期にわたって」維持する可能性を示唆している。
  • 一方、トランプ米政権はブラジルに対する相互関税を50%に大幅引き上げる方針を示した。その理由に、不公正な貿易慣行や政治的理由を挙げたが、同国で導入された即時決済システム(PIX)がその標的になっている模様である。トランプ氏は大統領令に署名したが、一部品目が除外されており、実体経済への影響は限定的とみられる。中銀はこうした外部環境の不確実性を強く意識しており、市場で高まる利下げ観測に距離を置きつつ、必要に応じて再利上げに動くことも辞さない構えをみせている。
  • 金融市場では、トランプ米政権の動向が米ドル安圧力となる動きがみられるが、関税政策の余波がレアル相場や株価の重石となっている。当面はトランプ氏の動向に揺さぶられる展開が続くと予想される。

ブラジル中央銀行は、29~30日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)において、政策金利を15.00%に据え置くことを決定した。同行は6月の前回会合まで7会合連続の利上げを実施し、政策金利は約19年ぶりの水準となるなど金融引き締めを強化する一方、利上げ局面の打ち止めに含みを残していた(注1)。今回の決定はそうした見方に沿ったものと捉えられる。一方、直近6月のインフレ率は前年同月比+5.35%、コアインフレ率も同+5.20%とともに伸びが加速している上、ともに中銀が定めるインフレ目標(3±1.5%)の上限を上回る水準で推移している。さらに、中銀が6月末に公表した最新の金融政策報告では、当面の金融政策の判断を左右する2026年末時点のインフレ見通しが+3.6%と目標の中央値(3%)を上回るなど、高金利政策を正当化する根拠となっている(注2)。よって、中銀は利上げ局面を休止させる一方、これまで同様に「非常に長期」にわたって高金利政策を維持する可能性を示唆していると捉えられる。

図表
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一方、足下の世界経済や金融市場はトランプ米政権の動向に翻弄される状況が続いている。米国が4月に公表した相互関税を巡っては、ブラジルが米国にとって貿易黒字国であるため、当初は税率が10%とされた。しかし、今月初めに税率を50%に大幅に引き上げるとともに、その理由として、不公正な貿易慣行、自由選挙や言論の自由への攻撃といった『政治的な要素』を挙げた(注3)。また、米国は不公正な貿易慣行として、2020年に導入された即時決済システム(PIX)を挙げている。同国では電子決済にPIXが義務化されたことで国民の7割以上が利用しているとされる一方、米国の大手クレジットカード会社やIT企業にとっては手数料ビジネスの機会が失われる事態となっている。さらに、ブラジル政府はPIXの国際版(PIXインターナショナル)を通じた越境決済の導入を模索しており、仮に実現すれば国際決済における米ドルの優位性を脅かす可能性がある。トランプ氏は同国が加わるBRICSの『反米的な政策』への追加関税を示唆するなど圧力を強めており、ブラジルへの対応もそうした動きの一環と捉えられる。また、トランプ氏は30日にブラジルへの相互関税を50%に引き上げる大統領令に署名したが、航空機やエネルギー、オレンジジュースなどを対象から除外しており、米国経済への影響を最小限に抑えようとする姿勢がうかがえる。また、ブラジルにとって対米輸出額は名目GDP比2%弱である上、除外品目がその多くを占めることを踏まえれば、実体経済への影響は▲0.2pt程度に留まると見込まれる。他方、中銀は今回の決定を巡って「その動向を注視しており、不確実性が高まるシナリオを元に慎重な姿勢を強めている」との認識を示している。

また、会合後に公表した声明文では、今回の決定も全会一致としている。その上で、世界経済について「米国の政策運営の影響で不確実性が増している上、金融市場のボラティリティが高まるとともに、地政学的な緊張が高まる動きも重なり、新興国を取り巻く状況に注意が必要になっている」との見方を示している。また、同国経済については「景気は想定通り鈍化しているが、労働市場は依然堅調であり、インフレ指標は目標を上回る推移が続いている」としている。一方、物価動向について「これまで以上に上下双方に振れるリスクが高まっている」とした上で、これまで同様に上振れリスクとして「①インフレ期待の上振れ長期化、②正の需給ギャップに伴うサービスインフレの粘着度の高さ、③持続的なレアル安などインフレ圧力に繋がる動き」を、下振れリスクに「①想定以上の景気減速、②貿易の混乱による不確実性の高まりを受けた世界経済の急減速、③商品市況の調整」を挙げている。加えて、金融政策について「非常に長期にわたって大幅な引き締め政策が必要になる」とこれまでと同様の見方を維持し、「まだ顕在化していない累積的な影響を検証し、現在の金利水準が非常に長期にわたって維持されると仮定した場合にインフレが目標への収束を確実にするのに十分か否かを評価する」と明確なスタンスを示さなかった。その一方で「引き続き警戒を維持した上で、必要であれば利上げサイクルの再開を躊躇しない」と付言した。これは、金融市場において年内の利下げ観測がくすぶるなかで、そうした見方に距離を置いたものと捉えられる。さらに、インフレ見通しを「今年は+4.9%、来年は+3.6%」に据え置くなど、インフレ圧力の根強さを警戒している模様である。

金融市場においては、トランプ米政権の政策運営に対する不透明感が米ドル安圧力を招く動きがみられるものの、同国の通貨レアルの対ドル相場は相互関税に対する不透明感が重石となっている。さらに、主要株式指数(ボベスパ指数)も相互関税による悪影響が警戒される形で上値が抑えられている。当面はトランプ氏の一挙一動に揺さぶられる展開が続くとともに、その『標的』とされやすいことが見込まれるなか、為替、株価ともに上値が抑えられる可能性に留意する必要がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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