インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

コロンビアで左派政権継続の可能性高まる、米国との関係の行方は

~選挙の行方は政治や経済のみならず、日本のエネルギー安全保障にも影響~

西濵 徹

要旨
  • コロンビアでは5月31日の大統領選を控え、選挙戦は佳境を迎えている。同国初の左派政権であるペトロ政権の下で親米路線から転換し、トランプ米政権とは度々対立した。しかし、2026年2月に米国との首脳会談が実現し、関係改善が期待された。一方、国内では左右対立による分断が深刻化している。インフレが再加速するなか、政府は景気優先姿勢を崩さず、利上げを続ける中銀との対立が先鋭化するなど、中銀の独立性への懸念が高まっている。
  • ペトロ政権の下での財政運営の悪化を受けて、2025年に格付け大手3社が相次いで格下げを実施し、うち2社が「投資不適格」と評価している。一方、中東情勢緊迫化による原油高は産油国であるコロンビアにとって追い風となるが、精製能力不足によるエネルギー輸入増やインフレ圧力増幅というリスクも伴う。世論調査では、左派のセペダ氏がリードし、ペトロ路線の継続が意識されるなか、ペソ相場の先行きにも不透明感が増している。
  • 原油輸入における中東依存度が高い日本は、ホルムズ海峡の航行困難によりエネルギーや経済安全保障上の重大局面を迎えており、調達先の多様化を急いでいる。コロンビアは安定した産油量を持つ有力候補である一方、可採年数は10年以内と短く、次期政権がペトロ路線を継承すれば脱化石燃料政策により供給源としての期待は難しくなる。大統領選の結果は日本のエネルギー調達戦略にも直結すると見込まれ、その行方を注視する必要があろう。
目次

【佳境を迎える大統領選挙】

南米コロンビアでは、5月31日に次期大統領選挙(第1回投票)の実施が予定されており、投票日まで残り1ヶ月となるなど選挙戦は佳境を迎えている。同国は経済的な結びつきの強さも影響して、長らく中南米随一の親米国として知られてきた。しかし、2022年の大統領選挙でグスタボ・ペトロ氏が勝利して同国初の左派政権が誕生、中南米で広がりをみせてきた「ピンクの潮流」のうねりがコロンビアにも到達した。2025年に米国でトランプ政権が発足して以降、イデオロギーの違いを理由にペトロ氏とトランプ氏は度々対立してきたが、2026年2月にペトロ氏とトランプ氏は初めて直接会談を行い、両国の緊張緩和に向かう動きがみられた(注1)。背景には、同国ではここ数年、左派と右派の両極が支持を集めるなど国民の間で分断が深刻化し、大統領選の行方が見通せない状況にあったことがあるとみられる。トランプ氏との直接会談は、輸出の3割を占める最大の輸出相手である米国との関係改善を通じて景気を浮揚させ、選挙戦を優位に進めたいとのペトロ氏の思惑がうかがえた。

しかし、中東情勢の緊迫化が長期化しているうえ、トランプ氏が「ドンロー主義」を標榜して中南米諸国に対する圧力を強めるなか、ペトロ氏は再びトランプ氏への批判を強めている。

【厳しいファンダメンタルズ】

同国では2023年初旬を境にインフレは鈍化してきたものの、2025年半ばを境に再加速に転じており、中銀目標を上回る伸びで推移している。これを受けて、中銀は物価抑制を目的に2026年1月に2年半ぶりの利上げに動き、3月にも2会合連続で利上げを決定するなど引き締め姿勢を強めている(注2)。とはいえ、前述のように政府は景気浮揚を優先しており、中銀との対立が先鋭化することで、中銀の独立性に対する懸念が高まっている。

図表
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足元でインフレが加速している背景には、ペトロ政権による財政運営も影響していることに留意する必要がある。2025年6月にはS&Pグローバル(BB+→BB)とムーディーズ(Baa2→Baa3)が、12月にはフィッチ(BB+→BB)が相次いで外貨建て長期信用格付けを引き下げ、2社が「投資不適格(ジャンク級)」としている。各社は格下げの理由について、歳出の9割近くを公務員給与や年金、利払いが占めるなど硬直化していることで財政運営に対する信認が低下しているうえ、政府と議会の対立という問題も重なり、財政悪化に歯止めがかからない展開が続くと見込まれるとしている。

一方、中東情勢の緊迫化を受けた原油高は、中南米有数の産油国である同国経済にとって追い風となることが期待される。同国は原油や石油製品、天然ガスの収支(輸出と輸入の差し引き)がGDP比+2.2%の黒字と試算されるため、原油高はマクロ面で景気を押し上げることが期待される。ただし、精製施設を巡る問題を抱えているため石油製品を輸入に依存しており、原油高は輸出のみならず輸入を押し上げるほか、エネルギー価格の上昇がインフレ圧力を増幅させることが懸念される。

【大統領選挙後も政権運営は困難な状況続く】

世論調査では、大統領選挙でペトロ氏と同じ左派勢力から出馬するイバン・セペダ氏がリードするとともに、決選投票でも勝利するとの結果が示されたことで、金融市場ではペトロ路線の継続が意識されている。これを受けて、このところの原油高を追い風に堅調な動きをみせてきた通貨ペソ相場を取り巻く環境が変化する兆しが出ている。先月8日に実施された議会上下院選では、ペトロ政権を支える左派連合(パクト・ヒストリコ)は議会上院で25議席(総議席数108)、下院で42議席(総議席数188)とともに少数派にとどまった。したがって、仮に大統領選でセペダ氏が勝利しても、政権運営は困難な状況が続くことは避けられないであろう。

図表
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【選挙戦の行方が日本に与える影響を考える】

日本は原油の9割を中東諸国からの輸入に依存しており、中東情勢の緊迫化を受けたホルムズ海峡の航行困難により、原油のほか、石化原料であるナフサ、原油や天然ガスの脱硫工程の副産物である硫黄、天然ガスを原料に生産される尿素などの供給に懸念が高まっている。こうしたことから、中東情勢は日本にとってエネルギー安全保障のみならず、経済安全保障の観点で重大事態に直面している。日本は中東に代わる原油の調達先として様々な国、地域との交渉を積極化させている。4月23日には、主要産油国の枠組みであるOPECプラスの一員であり、2025年の産油量が日量172万バレルと世界13位であるメキシコが100万バレルの原油を日本に輸出する方針を明らかにしている(注3)。こうしたなか、同じ中南米の産油国であるコロンビアの産油量はここ数年日量74~78万バレル程度で推移するなど安定しており、調達先を多様化する観点で重要な国のひとつであることは間違いない。しかし、同国の原油や天然ガスの可採年数はともに10年以内であるなど短く、ペトロ政権は脱化石燃料に舵を切る動きをみせており、4月24日に脱化石燃料を目指す初の国際会議をオランダとともに主催している。次期政権が「ペトロ路線」を継承すれば、原油調達先として同国を頼みとすることは困難になることも予想され、そうした点でも大統領選の行方を注視する必要がある。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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