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2026.05.26
アジア経済
インド経済
民主主義
インド政府、「Z世代」の支持を集めるSNSへの警戒を強める
~不満を募らせる「ゴキブリ」を若年層が支持、政治的な動きに発展するかが注目される~
西濵 徹
- 要旨
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インドでは、2000年に制定されたIT法を根拠に政府によるインターネット規制が強化されている。ここ数年は国家安全保障やフェイクニュース対策を名目に、投稿削除、アカウント停止、地域単位のネット遮断が行われており、2019年にはジャンムー・カシミール州で約550日間にわたって通信遮断が実施された。2021年のIT規則の施行を受けて、規制強化の動きが広がりをみせている。しかし、中国の「グレート・ファイアーウォール」のような全面的検閲とは異なり、民主主義国家として司法による一定のけん制機能は存在する。とはいえ、国家主義色を強めるモディ政権下で政府権限は着実に拡大している。
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こうしたなか、与党BJPを風刺したSNSアカウント「ゴキブリ人民党(CJP)」が急速にZ世代の支持を集めている。背景には、高学歴者ほど失業しやすいという構造的な雇用問題や、入試問題漏洩など若年層の不満が積み重なっていることがある。政府はアカウント凍結などの締め付けを強めるが、いたちごっこの状態が続く。CJP自体はあくまでパロディーに過ぎず、現実的な政治勢力に発展するかは不透明である。しかし、バングラデシュやネパールでは若年層主導のデモが政権崩壊に至った例もあり、モディ政権の強固な政治基盤の足元で鬱積する若年層の不満が今後どのような動きに発展するか、注視が必要である。
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【インドではここ数年、政府によるインターネット規制強化の動きが進む】
インドではここ数年、政府によるインターネット規制強化の動きが進んでいる。同国では、2000年に制定されたIT法を基本法としてインターネットに対する規制が定められている。規制対象となっているのは、国家安全保障、公序良俗、宗教感情を害するコンテンツの排除のほか、フェイクニュース対策を目的とする投稿削除、VPNサービスに対する規制強化が行われている。これらのコンテンツが発見され次第、政府は投稿の削除、アカウントの停止、アプリの禁止、インターネットの遮断を行うとともに、頻繁に地域単位でインターネットを遮断することが知られる。そして、暴動や抗議活動、選挙期間中には、暴動の防止やデマの拡散防止、治安維持を目的に州レベルでインターネット遮断が実施される傾向がある。
2019年に連邦政府はジャンムー・カシミール州(現在はジャンムー・カシミール連邦直轄領)の自治権はく奪を決定したが、これに際して同州で約550日間にわたって通信遮断や制限が行われた。2020年1月に連邦最高裁判所は無期限の通信遮断を不当としたうえで、連邦政府に見直しを求める判断を下すなど、司法によるけん制は存在する。とはいえ、その後も通信遮断が継続されたことから、国内外で問題視された例もある。
さらに、2021年に制定されたIT規則では、政府がウェブサイトやSNS投稿のブロックを命令可能とするとともに、プラットフォーマーに対する責任範囲(大規模業者にインド居住の苦情処理担当者や法令順守担当者、24時間対応窓口の設置義務、政府の要請に36時間以内に対応する義務、配信者の特定義務)が明確化された。その結果、これらの法律に基づく形で多数の削除命令や遮断措置が行われている。
インターネットへの規制強化を巡っては、中国と比較する向きがみられるものの、恒常的に全面的な検閲を行ういわゆる「グレート・ファイアーウォール」型の中国とは大きく異なることに留意する必要がある。インドは民主主義国家であり、あくまでも部分的かつ事後的な規制としてインターネットへの介入が行われている。さらに、中国では海外のSNSが全面的に禁止されており、国家が主導するSNSのみが利用可能である一方、インドでは海外SNSの利用が可能なうえ、民間企業によるSNSが中心となっている。前述のようにインドでは独立した司法による審査機能も存在しており、2017年には連邦最高裁がプライバシーを基本権と認定する判断を下している。とはいえ、近年はモディ政権の下で国家主義的な動きが広がりをみせるとともに、治安重視やフェイクニュース対策を目的に政府の権限が拡大している。
【政府は「Z世代」を中心とする不満の高まりを警戒】
こうしたなか、政府はあるSNSアカウントに対する締め付けを強めている。当該アカウントは「ゴキブリ人民党(CJP)」という名称で、モディ政権を支える最大与党BJP(インド人民党)をもじったものとなっている。当該アカウントは政治や社会といった幅広い問題に焦点を当てつつ、巧みな風刺によりいわゆる「Z世代」の支持を集めており、開設からわずか数日でフォロワー数が2,200万人を超え、本家BJPのフォロワー数(約880万人)を上回った。投稿内容は、若年層を中心とする失業のほか、医学部の入試問題漏洩といったさまざまな問題を扱っており、いずれも若年層の不満の高まりを反映した内容となっている。「ゴキブリ」と名乗る背景には、5月15日に法廷で連邦最高裁のカント長官が失業中の若者をゴキブリや寄生虫に例えたと報じられたことがきっかけとされる。カント氏は直後、メディアによる誤った切り取りと釈明したものの、直後から反発が拡大した。政府はアカウントの凍結を含めた締め付けを強化しているものの、そのたびに別のアカウントで復活するなど「いたちごっこ」の様相を呈している。
CJPは「入党」の条件として、無職や怠け者であることを掲げている。公約には、①連邦最高裁長官の退職後の優遇措置の禁止、②メディアの独立性確保、③議員数や閣僚数の半数を女性とすること、④正当な投票権の確保、⑤政党変更議員に対する20年間の公民権停止、の5項目を挙げている。CJPが若年層の支持を急速に集めている背景には、インドにおいては高学歴層ほど失業に直面しやすいといった構造的な問題が影響している。インドではここ数年、ITなどハイテク産業に対する支援が強化されているものの、教育面の整備が追い付いていないうえ、インド国内において創出される雇用とのミスマッチが拡大している。ここ数年、インドの隣国であるバングラデシュやネパールでは、若年層が主導するデモをきっかけに政権が崩壊しており、モディ政権としてはそうした事態に発展することを警戒している可能性がある。
CJPが正当な投票権の確保を公約に掲げた背景には、4月に実施された州議会選挙において、一部の地域で選挙管理委員会がイスラム教徒を不法移民扱いして投票を認めなかったほか、選挙の効率化を目的に投票所を削減して多くの人が投票機会を失ったとされることが影響している。州議会選挙では、モディ政権を支えるBJPが野党の牙城であった西ベンガル州で初めて政権与党となる「大金星」を挙げるなど、ほぼすべての州で勝利することに成功した。しかし、その背後で若年層はモディ政権の政策運営に対する不満を募らせている模様であり、前述したカント氏の発言が若年層の神経を逆なでする格好となったことは想像に難くない。CJPは現時点では、あくまでパロディーとして政党を名乗っているに過ぎず、現実的な政党として発展していくかは極めて不透明である。しかしながら、表面上は政治基盤を強固にしているとみられるモディ政権だが、その足元では着実に現状に対する不満が鬱積しており、若年層がその「はけ口」を探していることは間違いない。その政治的なうねりがどのような動きにつながるかを注視していく必要性は高まっている。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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