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2025.03.10
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メキシコ、「トランプ2.0」に対峙中の財務公債相交代が意味するもの
~政策の方向性は不変も困難な財政運営は変わらず、ペソ相場は今後も「トランプ2.0」に揺さぶられよう~
西濵 徹
- 要旨
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- メキシコ経済を巡っては米国経済への依存度が極めて高いなか、米トランプ政権の通商政策に揺さぶられる展開が続いている。トランプ氏は先月4日にメキシコからの輸入品に25%の追加関税を課す大統領令の発令に動いたが、直後に両首脳の電話会談を経て30日延期された。さらに、今月4日に一旦発令されるも直後にUSMCAに準拠した財への課税は30日免除されており、最悪の事態は回避された格好である。
- 両国が貿易戦争に発展すればメキシコ経済に深刻な悪影響が懸念されるなか、その最中の7日にラミレス財務公債相が辞任を公表する予想外の動きが表面化した。ただし、後任には副大臣であったアマドール氏が昇格し、ラミレス氏も国際経済問題担当の顧問に就任しており、財政運営を巡る大幅な変更はない模様である。ただし、シェインバウム政権が様々なバラ撒きや国家資本主義的な財政運営を志向するなかで難しい財政運営を迫られる状況は変わらない。足下のインフレは落ち着いた動きをみせるなかで中銀は緩和ペースを加速させるなど景気下支えに向けた姿勢を強めている。他方、ペソ相場は落ち着きを取り戻すなど金融市場はトランプ氏による関税政策の延期を期待していると見込まれるものの、今後も期日に向かってペソ相場は動揺を繰り返す展開が続く可能性には引き続き注意する必要がある。
メキシコ経済を巡っては、財輸出、移民送金の両面で米国経済への依存度が極めて高いなか、自身を『タリフマン(関税男)』と称する米トランプ大統領が外交政策を巡って関税を材料にディール(取引)を持ち掛ける動きに揺さぶられる展開が続いている。トランプ氏は先月4日付でメキシコからのすべての輸入品に25%の追加関税を課す大統領令の発令に動いたものの、発動直前にトランプ氏とメキシコのシェインバウム大統領の電話協議が行われた結果、関税賦課が30日間延期されることで合意に至った(注1)。発効延期を受けて両国の実務者レベルでの協議が行われたものの、トランプ氏は今月4日付で追加関税の賦課に動く方針を改めて示した上で大統領令も発令されるとともに、メキシコも9日付で報復措置に動く方針を示すなど、貿易戦争に発展することが懸念された。しかし、その後にトランプ政権は今月7日付でUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に定められている原産地規則に準拠した財に対する関税を30日間免除することを明らかにして最悪の事態は回避されている。
なお、NAFTA(北米自由貿易協定)やUSMCAを通じて両国経済は事実上一体化する動きが強まってきたことに鑑みれば、仮に両国間の貿易に関税が賦課される事態となれば幅広い経済活動に悪影響が出ることは避けられない。そして、上述のようにメキシコ経済は米国経済への依存度が極めて高く、仮に財輸出の8割を占める米国向け輸出に25%の追加関税が課された場合の直接的な影響はGDP比で7%に達すると試算される。さらに、メキシコ政府がすべての米国からの輸入に25%の追加関税を課す報復措置に出れば、輸入の4分の1を米国からの輸入が占めるなかでその直接的な影響はGDP比で4%弱に達するため、同国経済に壊滅的な悪影響が出ることが予想される。こうした状況ながら、同国経済は関税が賦課される前にすでに景気にブレーキが掛かる動きが確認されており(注2)、景気後退局面入りするとともに、その後の経済の立ち直りに向けた道筋も描きにくい事態も懸念された。
このように同国経済は大きな岐路に直面しているなか、7日にロペス=オブラドール前政権から財務公債相を務めたロヘリオ・ラミレス・デ・ラ・オ氏が突如辞任することを表明した。ラミレス氏は前政権下の2021年に財務公債相に就任しており、ロペス=オブラドール大統領がバラ撒き志向を強めるなかでも財政規律を維持することによって公的債務の増加を比較的抑える政策運営が採られてきた。他方、昨年の大統領選でのシェインバウム氏の勝利と同時に実施された議会上下院選での与党MORENA(国民再生運動)の勝利によりロペス=オブラドール氏が掲げた憲法改正が前進することによる財政運営への懸念が高まり、通貨ペソ、株式、債券のすべてに売り圧力が掛かる『トリプル安』に直面したため、ラミレス氏は市場の動揺を抑えるべく財務公債相の留任を決定した経緯がある(注3)。よって、ラミレス氏は現政権に『暫定的な』財務公債相として入閣したため、早晩辞任する可能性がみられたものの、上述のように「トランプ2.0」に対峙する最中での突然の辞任に加え、その理由も不明であるなど予想外の動きとなった。
直後にシェインバウム大統領は後任の財務公債相に副大臣であるエドガー・アマドール氏の昇格を公表するとともに、退任するラミレス氏も引き続き政権内で国際経済問題担当の顧問に就任することが明らかにされており、政策運営が大幅に変更される可能性は極めて低いと捉えられる。ただし、前政権以降の財政状況を巡っては、ここ数年のコロナ禍対応という不可抗力が影響したことに留意する必要はあるものの、公的債務残高が増加傾向を強める展開が続いてきた(図1)。現政権も憲法改正を通じた年金制度改革やエネルギー部門や鉱業部門での国有化など国家資本主義色の強いバラ撒き政策を志向しており、アマドール氏は財政運営の持続可能性を高める難しい対応を迫られる状況は変わらない。

なお、足下のインフレ率は中銀が定めるインフレ目標(3±1%)の範囲内で推移するなど落ち着きを取り戻しており(図2)、中銀は先月の定例会合で5会合連続の利下げに加え、利下げ幅を拡大させるとともに、先行きも同程度の利下げに動く可能性に言及するなど緩和ペースを加速させる動きをみせている(注4)。上述したように米トランプ政権は関税賦課によりメキシコに対する『圧力』を強めているものの、交渉を経て延期される展開が続いていることもあり、金融市場においては来月2日に予定されている関税賦課についても最終的には延期される展開を見込んでいる可能性がある。事実、関税引き上げに向けた期日を迎えるたびに通貨ペソ相場は調整する動きをみせるも、その度に延期されていることを受けて落ち着きを取り戻す動きをみせているが(図3)、先行きについてはトランプ氏の発言をきっかけに再びペソ相場を取り巻く環境が変化するとともに、上値が抑えられる可能性には引き続き注意が必要であることは間違いないであろう。


注1 2月4日付レポート「メキシコ・シェインバウム政権、土壇場で「トランプ関税」延期を勝取る」
注2 2月28日付レポート「トランプ関税は再び発動間近、メキシコ経済の行方はどうなる?」
注3 2024年6月6日付レポート「シェインバウム氏勝利でメキシコペソと株価などはなぜ調整した?」
注4 2月7日付レポート「メキシコ中銀、利下げペースを加速させるも不確定要因は山積」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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