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2025.02.04
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メキシコ・シェインバウム政権、土壇場で「トランプ関税」延期を勝取る
~最悪の事態は回避も、実体経済の弱さやトランプ関税の脅威がペソ相場の足かせとなる展開は続くか~
西濵 徹
- 要旨
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- 米トランプ大統領は「関税男」を自称し、関税を材料に外交面で「ディール」を仕掛ける動きをみせる。就任直後から政権公約実現へ関税賦課を辞さない動きをみせるなか、不法移民と合成麻薬対策を目的にカナダとメキシコ、中国に追加関税を課すことを決定した。なお、メキシコ経済は米国経済と密接な関係があり、仮に関税合戦となれば実体経済に深刻な悪影響が出ることは避けられない。他方、シェインバウム政権はトランプ政権発足前からトランプ氏の懸念に対応して先回りする対応をみせてきた。また、シェインバウム氏はトランプ氏と電話協議を行い、発動直前に1ヶ月延期を勝取った。仮に関税が発動されればメキシコ経済は景気後退局面入りが確実となる上、景気の深刻な下振れが懸念されたため、猶予が得られた格好だ。しかし、今回の対応は一時的なものに留まるほか、今後も引き続きトランプ関税の脅威に晒される懸念は残る。よって、当面のペソ相場も実体経済の弱さも含め、不透明な展開が続く可能性に留意する必要がある。
米トランプ大統領は、自らを「タリフマン(関税男)」と称するとともに、就任前から政権公約の実現を目的に外交戦略で関税賦課を材料に相手国に『ディール(取引)』を持ち掛けるなどけん制を仕掛ける動きをみせている。トランプ氏は就任直後から多数の大統領令に署名し、真っ先に不法移民対策に乗り出したものの、米国からの不法移民の送還受け入れを拒否する動きをみせたコロンビアに対して追加関税や制裁を課す方針を明らかにする動きをみせた(注1)。なお、直後にコロンビアのペトロ政権が米国からの不法移民の輸送受け入れに同意し、追加関税の賦課や制裁の発動は見送られたものの、トランプ政権が公約実現のためには関税賦課も辞さない姿勢をあらためて国内外に示した格好である。さらに、その後も米国において多数の中毒患者が出るなど社会問題となっている合成麻薬のフェンタニルを巡って、その原材料などが中国からカナダやメキシコを経由して米国に流入しているとして「国家の緊急事態」と認定した。その上で、トランプ氏は国家緊急経済権限法(IEEPA)に基づいてカナダとメキシコに25%、中国に10%の追加関税を課す旨の大統領令に署名し、米国時間の4日から発令する方針を明らかにした。メキシコ経済にとっては、仮にすべての米国向け輸出財に一律で25%の追加関税が課される事態となれば、財輸出全体の8割を米国向けが占めるなかで直接的な影響はGDP比7%に及ぶと試算される。また、シェインバウム政権がすべての米国からの輸入財に25%の追加関税を課す報復措置に動けば、財輸入全体の4割を米国からの輸入が占めるなかでGDP比4%弱に及ぶと試算されるとともに、物価を押し上げるなど深刻な悪影響が出ることは避けられない。なお、シェインバウム政権は先月、米トランプ政権の発足を念頭に新たな経済計画を公表しており、中国からの輸入抑制に向けてアジアからの密輸品への取り締まり強化を盛り込むとともに、中国からの小口輸入品に一律で19%の関税を課す対応をみせるなど、トランプ氏が表明する懸念に対応する姿勢をみせてきた(注2)。こうした状況にも拘らず、上述したようにトランプ氏は4日からの追加関税賦課に向けた動きをみせたことを受けて、シェインバウム氏はトランプ氏と電話協議を行った。その結果、両国はトランプ氏が懸念するメキシコから米国へのフェンタニルの流入問題に対応すべく、メキシコ政府が米国との国境地帯に1万人の警備隊を配置することで合意するとともに、米国政府の関税発動についても1ヶ月延期することで合意に達したことが明らかになった。今後は関税発動が延期される1ヶ月に亘って米国、メキシコ両国の高官が交渉を行うとしており、不法移民対策や合成麻薬を巡る問題について具体的な協議が行われるものと予想される。シェインバウム氏を巡っては、研究者出身であることを理由に、事前においては米トランプ政権との対峙に際しても原理原則論に基づく厳格な対応をみせることで交渉が行き詰まることを警戒する向きがあったものの、実際には現実主義的、かつトランプ氏の懸念に先回りして対応することにより決定的な事態を避ける展開が続いている。今後予想される1ヶ月間の交渉においても同様の展開が続く可能性はある一方、米国における不法移民の問題や合成麻薬を巡る問題が深刻化していることに鑑みれば、今回の延期決定が一時的なものに留まる可能性にも引き続き留意する必要がある。なお、メキシコ経済は『トランプ関税』が発動される前の昨年10-12月の実質GDP成長率が前期比年率▲2.19%とマイナス成長となるなど、内・外需双方で景気にブレーキが掛かっていることが確認されており(注3)、関税が発動されれば景気後退局面(リセッション)入りが確実になるとともに、その悪影響の深刻さに鑑みれば完全に視界不良状態に陥ることが懸念された。その意味では、今回シェインバウム氏が関税発動の延期を勝取ったことの意味は極めて大きい一方、先行きもトランプ関税を巡る難局に晒される懸念がくすぶることには変わりがない。トランプ氏の関税発動決定を受けて一旦は調整の動きを強めたペソ相場は、その後の延期決定を受けて底打ちするなど一巡する動きをみせているものの、実体経済を巡る不透明感が根強いことに加え、今後もトランプ関税の行方が見通しにくい状況にあることに鑑みれば当面は不透明な展開が続くものと予想される。

注1 1月27日付レポート「南米コロンビアに「トランプ関税砲」、移民問題を契機に報復合戦へ」
注2 1月14日付レポート「メキシコが「トランプ2.0」を念頭にした新たな経済計画を公表」
注3 1月31日付レポート「メキシコ経済は「トランプ2.0」を前にブレーキ、視界不良状態が続く」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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