インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

メキシコ中銀、利下げペースを加速させるも不確定要因は山積

~中銀は次回に同程度の利下げを見込むも米トランプ政権の出方次第、ペソ相場の行方も見通せず~

西濵 徹

要旨
  • メキシコ中銀は6日の定例会合で5会合連続の利下げに動くとともに、利下げ幅を50bpに拡大させるなど緩和ペースの加速を決定した。メキシコ経済を巡っては、米トランプ政権の追加関税の脅威に晒される一方、足下の景気は高金利政策の長期化も影響してブレーキが掛かる動きがみられる。トランプ関税の発動が一旦延期されたことを受けて、昨年来調整の動きを強めたペソ相場は落ち着きを取り戻している。なお、トランプ関税の脅威が払拭されてはおらず、先行きも経済やペソ相場に影響を与える懸念はくすぶる。こうした状況ながら、中銀は高金利が実体経済の足かせとなるなかで利下げペースの加速に舵を切ったほか、先行きも同程度の利下げに含みを持たせる考えをみせた。ただし、足下のインフレは頭打ちが続く一方、コアインフレは底打ちするなど変化の兆しが出ている。金融政策も米トランプ政権の一挙一動に左右されるほか、ペソ相場についても不確定要因が山積するなど見通しが立ちにくい展開が続くことは避けられない。

メキシコ中銀は、6日に開催した定例の金融政策委員会において、政策金利を50bp引き下げて9.50%とする決定を行った。ここ数年のメキシコにおいては、コロナ禍一巡による経済活動の正常化や商品高などを追い風にしたインフレ高進に直面したため、中銀は累計725bpの利上げを実施してきた。インフレは2022年後半に一時22年ぶりの高水準となるも、その後は利上げ効果に加え、商品高の一巡も重なり頭打ちに転じた。しかし、インフレは中銀目標(3±1%)を上回る推移が続いたほか、一昨年後半以降は再び底打ちに転じるなど、インフレが懸念される状況が続いたため、中銀はその後もしばらくは高金利政策を維持する対応をみせた。

その後は物価高と金利高の共存長期化を受けて景気は頭打ちの様相を強めるとともに、それに伴いコアインフレはインフレと対照的に頭打ちの動きを強めたため、中銀は昨年3月にコロナ禍後初の利下げに動いた。しかし、昨年6月に実施された大統領選と連邦議会上下院選後の金融市場では通貨、株式、債券のすべてに売り圧力が強まる事態に直面したため(注1)、中銀は利下げ休止に追い込まれた。なお、その後はインフレが再び頭打ちの動きを強めており、中銀は昨年8月に再利下げに動くとともに、昨年12月まで4会合連続で累計125bpの利下げを実施するなど、漸進的な利下げに舵を切る動きをみせた。

図表
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中銀が慎重な姿勢を維持してきた背景には、昨年の米大統領選でトランプ氏が勝利し、同氏がメキシコに対して追加関税を材料にした『ディール(取引)』を仕掛ける姿勢をみせるなど、実体経済への深刻な悪影響が懸念されたことが影響している(注2)なお、トランプ氏は今月4日付で同国からのすべての輸入品に一律で25%の追加関税を課す旨の大統領令に署名したものの、その後に両国首脳による電話協議を経て発令を30日間延期することで合意するなど最悪の事態は回避された(注3)。この結果を受けて、追加関税の発令決定を受けて通貨ペソの対ドル相場は大きく調整したものの、延期を受けて調整分が巻き戻されるとともに、ここ数ヶ月は調整の動きを強めてきた流れに変化の兆しがうかがえる。ただし、トランプ関税は一旦延期されただけであり、先行きも何らかの材料を元に発動されるリスクがくすぶるなど、メキシコ経済にとって不安材料が払拭されたと判断するのは早計である。

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さらに、上述のようにトランプ関税の発動はメキシコ経済に深刻な悪影響を与えることが懸念されるものの、昨年10-12月の実質GDP成長率は前期比年率▲2.19%とマイナス成長となるなど景気にブレーキが掛かる動きが確認されている(注4)。こうした背景には、異常気象が頻発するなど自然現象の影響に加え、中銀がインフレの頭打ちにも拘らず漸進的な利下げに留めるなど慎重な政策運営を継続するなか、足下の実質金利(政策金利-インフレ)は歴史的高水準で推移するなど市場環境が極めて引き締まった状況が続いていることも影響している。また、米トランプ政権が同国に『矛先』を向ける動きを強めるなか、近年の同国においては世界的なサプライチェーン見直しの動きも追い風に対内直接投資が活発化する動きがみられたものの、そうした動きの再見直しを余儀なくされるとの見方を反映して、新規投資を中心に勢いに陰りが出る動きがみられる。仮に米トランプ政権が追加関税の発動を見送ったとしても、メキシコに進出する企業が米国向け輸出を前提にした生産活動を活発化させてきたことへの反発を強める懸念はくすぶることを勘案すれば、新規投資が活発化する状況は見通しにくくなっている。

こうしたなか、中銀は5会合連続の利下げに加え、利下げ幅を50bpに拡大させるなど緩和ペースを加速させる決定を行った。ただし、会合後に公表した声明文では、今回の決定に際しては「4(50bpの利下げ)対1(25bpの利下げ)」と全員が利下げを主張するもその幅を巡って票割れが発生し、ヒース副総裁が反対票を投じたことが明らかにされている。なお、先行きのインフレについて「昨年12月の前回会合から据え置いているが、米トランプ政権の政策運営により見通しへの不確実性が高まっている」として、「上振れリスク(①コアインフレの高止まり、②ペソ相場の大幅な下落、③地政学リスクや通商政策の混乱、④コスト上昇圧力の拡大、⑤気候変動の影響)」と「下振れリスク(①景気低迷、②一部のコスト上昇要因に伴うパススルー効果の低減、③ペソ安に伴う物価への影響低減)」を上げる一方、インフレを巡るリスクバランスについては「上向きに傾いている」との認識を示す。その上で、先行きの政策運営について「今後も政策スタンスの調整を継続して、同程度の調整を検討する可能性がある」と50bp程度の利下げに含みを持たせる考えを示した上で、「抑制的なスタンスを維持しつつ、インフレ環境は利下げサイクルの継続を可能にすると予想する」との見通しを示している。

図表
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足下のインフレは中銀目標を上回る推移が続くも頭打ちしている一方、頭打ちが続いたコアインフレは足下で底打ちに転じるなど変化の兆しもうかがえる。こうしたなか、先行きの金融政策については米トランプ政権の一挙一動がペソ相場のみならず、メキシコ経済の動向を左右すると見込まれるなかで、その動きの影響を受ける展開が続くことは避けられないほか、困難な政策対応を迫られる展開が続くことは避けられない。その意味では、ペソ相場についても一旦は30日間延長された追加関税の行方に加え、米ドル/円相場の動向にも左右されるなど見通しが立ちにくい動きが続くことが予想される。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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