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2024.06.06
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シェインバウム氏勝利でメキシコペソと株価などはなぜ調整した?
~与党連合が議会上下院で「改憲可能勢力」に、ロペス=オブラドール大統領の「置き土産」を警戒~
西濵 徹
- 要旨
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- メキシコでは2日の大統領選で与党の左派MORENAから出馬したシェインバウム氏が勝利した。同氏の勝利は事前予想通りであったものの、想定以上の大勝利を収めたほか、同時に実施された議会上下院選で与党連合が改憲可能な勢力となる可能性が高まっている。ロペス=オブラドール現政権は選挙後の改憲を目指しており、金融市場は財政悪化やエネルギー、鉱業部門の国有化などに動く可能性を警戒して「トリプル安」に直面した。政府は事態鎮静化を図る考えをしめすが、金融市場は10月の米大統領選の行方も警戒しており、当面は外部環境の動向に揺さぶられやすい展開が続くことは避けられないと予想される。
メキシコでは、2日に実施された大統領選挙において与党の左派MORENA(国民再生運動)から出馬したシェインバウム前メキシコシティ市長が勝利し、同国初となる女性大統領が誕生することとなった(注1)。なお、現行憲法で大統領任期は1期6年までと規定されており、現職のロペス=オブラドール氏が出馬できない一方、同氏は依然として国民からの人気が高いなかで最側近のひとりとされるシェインバウム氏が擁立された(注2)。現政権は国家資本主義を前面に押し出す国家保守主義色の強い経済政策を標ぼうし、最低賃金の引き上げなど社会保障の拡充を目指す左派色の強い社会政策を導入するなど、新自由主義色の強い政策を志向した前政権からの大転換を図ってきた。こうした経済政策は低所得者を中心に幅広い国民からの支持を集める一方、『反ビジネス』色の強い政策は産業界や外資系企業を中心警戒されたものの、現実には米国と隣接する地理的な優位性を背景とする『ニアショアリング』を通じたサプライチェーンの受け皿として対内直接投資の流入が活発化してきた。シェインバウム氏はロペス=オブラドール現政権の路線を踏襲する姿勢を示すとともに、ロペス=オブラドール氏の国民人気の高さも追い風に優位に選挙戦を戦うなど、事前の世論調査においても一貫してトップを走ってきた。よって、シェインバウム氏の勝利は既定路線通りであったとみられる一方、選挙管理委員会によれば同氏の得票率が59.4%と史上最高となる見通しとなったことで、同時に実施された議会上下院選挙に対する見方に変化が生じた。というのも、事前の世論調査では上述のようにシェインバウム氏が優位に推移してきたものの、最終盤にかけて支持率がやや低下して野党の支持率が上昇する動きがみられたため、議会上下院選ではMORENAを中心とする与党連合が多数派を形成できるものの、憲法改正などに必要な3分の2には届かないとの見方が広がっていた。しかし、選挙管理委員会が公表した開票結果においては与党連合に属するMORENA、PT(労働者党)、VERDE(緑の環境党)の獲得議席数を併せると議会下院(代議院:定数500)では365議席と3分の2を優に上回る水準に、議会上院(元老院:定数128)でも82議席と3分の2に迫る水準に達していることが明らかになった。ロペス=オブラドール大統領は今年2月に選挙での与党連合の勢力拡大と憲法改正を目指す方針(通称『プランC』)を示し(注3)、改憲案は司法制度や選挙制度、年金制度、財政制度、環境規制など計20項目からなるなかで今回の選挙結果はその実現性が高まっていることを意味する。金融市場が最も警戒しているのは、年金制度改革を巡って給付水準を現役世代並みに引き上げることを盛り込んでおり、財源を示さないなかで歳出拡大圧力が強まり財政悪化が進むことが懸念される。さらに、シェインバウム氏が元々気候関連やエネルギー関連の研究者であるため、一連の憲法改正を通じてエネルギー部門や鉱業部門の国有化をはじめとする国家資本主義色の強い政策が推進されるとの警戒感も高まっている。こうした警戒感が金融市場における通貨ペソ安、株式指数の下落、国債価格の下落(金利上昇)という『トリプル安』を招くなど混乱に繋がっているとみられる一方、シェインバウム氏は事態の鎮静化に向けて現政権で財務・公債相を務めるラミレス氏の留任を要請し、円滑な政権移行を目指す姿勢を示している。ラミレス氏も要請を受諾する考えを示すとともに、次期政権でも公的債務の削減と財政規律の維持を図る考えのほか、中銀の独立性を重視する考えを示すなど金融市場の懸念払しょくに努める姿勢をみせている。他方、ニアショアリングによる対内直接投資受け入れの一環で中国企業が同国への投資を活発化させるなか、米バイデン政権が同国に『圧力』を掛ける動きがみられるなか、金融市場は今年10月に実施予定の米国大統領選の行方を注視している。これは米国のトランプ前政権の下でNAFTA(北米自由貿易協定)から衣替えされたUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)を巡って発効から6年目を迎える2026年に見直し協議が行われる予定であり、シェインバウム次期政権は米国の次期政権との間で協議の場に臨む必要があり、選挙の行方が交渉に影響を与えることも警戒されている。NAFTAからUSMCAへの衣替えに際しては、事前には大幅な変更が懸念されるも現実には小幅に留まり実質的な影響は限定的なものとなり、米中摩擦の激化など外部環境の変化も相俟ってメキシコ経済にとって追い風となってきたものの、現時点においては如何様にも転び得る可能性がある。その意味では、当面の同国金融市場は外部環境に揺さぶられやすい展開が続くことは避けられないであろう。



注1 6月3日付レポート「メキシコ初の女性大統領誕生へ、メキシコペソ相場はどうなる?」
注2 2023年9月8日付レポート「メキシコ大統領選、与野党ともに女性候補による事実上の一騎打ち」
注3 2月7日付レポート「メキシコ大統領が改憲案提出、選挙への「追い風」にしたいとの思惑か」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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