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2026.05.15
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ペルー大統領選、決選投票を前に高まる経済と政治を巡るリスク
~候補者訴追問題やインフレ圧力の強まりを受け、市場環境は不安定な展開が続くか~
西濵 徹
- 要旨
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- 4月12日に実施されたペルー大統領選は、候補者乱立による混戦の末、右派のケイコ・フジモリ氏が第1回投票で首位となったものの過半数には届かず、中道左派のロベルト・サンチェス氏との決選投票に持ち越された。中南米で右派回帰の流れが強まるなか、決選投票は右派対左派の構図となっている。その一方、サンチェス氏には金融犯罪容疑が浮上しており、候補資格取り消し請求も出されるなど、選挙情勢は不透明感を増している。
- 議会ではいずれの政党も過半数を確保できず、政局の不安定化が続く可能性が高い。中東情勢を背景とするエネルギー価格上昇により、4月のインフレ率は前年比+4.01%と中銀目標を上回る水準に加速している。中銀は5月の定例会合で政策金利を据え置いたが、実質金利の低下によって通貨ソルの投資妙味は後退している。今後のソル相場は銅や金の価格や市場環境、政局動向に左右される展開が続くと見込まれる。
【決選投票は右派と左派の構図に、左派候補に犯罪容疑が浮上する事態に】
ペルーでは、4月12日に大統領選挙(第1回投票)が実施された(注1)。今回の大統領選には2021年の前回大統領選(18人)を大きく上回る35人が立候補したため、選挙戦は支持が分散する大乱戦となった。中南米ではここ数年、アルゼンチンに続いて、ボリビア、チリで相次いで右派政権が誕生しており、ドミノ倒し的に左派政権が誕生した「ピンクの潮流」に変化の兆しが出ている。こうした流れも追い風に、選挙戦の最終盤にかけては右派政党FP(人民勢力党)から出馬したケイコ・フジモリ氏の支持が上昇した。同氏は過去に3度(2011年、2016年、2021年)大統領選に出馬したものの、いずれも決選投票の末に敗北したため、今回は「四度目の正直」を目指した。開票結果の正式公表が遅れるなか、99.99%段階でフジモリ氏の得票率は17.18%とトップとなる一方、当選に必要な50%を大きく下回り、決選投票に持ち越されることとなった。
一方、開票が遅れた一因には次点の候補が接戦となったことが影響している。当初は、前述のように右派に追い風が吹くなか、極右政党RP(人民刷新党)から出馬した首都リマ前市長のラファエル・ロペス・アリアガ氏、中道右派政党PBG(良い統治の党)から出馬したホルヘ・ニエト氏の優勢が伝えられていた。しかし、その後は中道左派政党JP(ペルーとともに)から出馬したロベルト・サンチェス・パロミーノ氏が追い上げ、99.99%開票段階ではサンチェス氏の得票率が12.03%と、ロペス・アリアガ氏(11.91%)、ニエト氏(10.97%)を上回っている。したがって、決選投票は2011年や2021年と同様、右派と左派による対決構図となった。
決選投票に関する世論調査では、フジモリ氏とサンチェス氏は互角になるとの見方がある一方、左派支持者を中心に「反フジモリ」票が根強いなかでサンチェス氏の優位を伝えるものもあった。こうしたなか、地元報道によれば、ペルーの検察当局がサンチェス氏を金融犯罪の容疑で訴追したことを明らかにしたうえで、禁錮5年4ヶ月を求刑するとともに、大統領選の候補者資格を取り消すよう請求したとしている。具体的には、同氏が所属するJPが提出した財務報告書において、行政手続きにおける虚偽申告と選挙資金に関する報告に誤りがあったことが訴追理由となっている模様である。同氏の弁護士によれば、検察当局の捜査に政治的意図がうかがえ、仮に訴追を受けるとしても会計責任者が対象となるべきと主張している。裁判の行方は不透明であるものの、仮に裁判に発展する事態となれば、大統領選への影響は避けられない。
【政局の混乱は続く一方、インフレ顕在化で投資妙味は大幅に後退する事態に】
第1回投票と同時に実施された議会上下院選においては、いずれの政党も単独で半数を上回る議席を獲得することはできず、多数派工作に手間取ることは避けられそうにない。したがって、いずれの政権が誕生したとしても、議会運営はこれまで以上に複雑化することは容易に想像できる。議会構成の複雑さは大統領と議会のけん制関係を強め、2018年以降に8人もの大統領が入れ替わる一因になってきたが、今後もこうした構図が続く可能性は高い。
一方、中東情勢の緊迫化を受けた原油をはじめとするエネルギー価格の上昇は世界的なインフレを招いているが、同国もその影響を免れることができない状況にある。ペルーは産油国ではあるものの、その規模は小さく、石油製品などを輸入に依存している。その結果、原油や石油製品、天然ガスなどの収支(輸出入の差し引き)はGDP比で▲1.4%程度の赤字と試算されるため、このところの原油高はマクロ経済を下押しすることが懸念される。4月のインフレ率は前年同月比+4.01%と中銀目標のレンジ(2±1%)の上限を大きく上回る水準に加速しており、2024年初めからレンジ内で推移してきた流れは大きく変化している(図1)。コアインフレ率は前年同月比+2.37%とレンジ内で推移しているものの、足元ではエネルギー価格の上昇を理由に価格転嫁の動きが広がっており、徐々に伸びが加速するなどインフレが伝播している様子がうかがえる。

こうしたなか、中銀は5月14日に開催した定例会合において、政策金利を8会合連続で4.25%に据え置くことを決定した。会合後に公表した声明文では、足元のインフレ加速の大部分は供給要因による一時的なものであり、供給ショックが解消されることで2027年にはインフレ率が2%前後まで鈍化するとの見方を示した。また、中東情勢による世界経済のリスクは依然高く、金融市場のボラティリティの高まりや原油高の影響は続くものの、世界経済の見通しは明るく、ペルー経済にとっての貿易条件はなお良好であるとの見方を示し、様子見姿勢を維持した形となった。
通貨ソル相場については、主要な輸出財である銅や金の国際価格に左右され、このところは実質金利(政策金利-インフレ率)のプラス幅の大きさという投資妙味が下支え役となってきた(図2)。足元では引き続き銅や金の国際価格は高止まりしているものの、実質金利のプラス幅は急速に縮小しており、投資妙味は後退していると判断できる。前述したように、選挙後も政局の安定は見通しにくく、選挙結果を受けた資源政策の動向、市場環境を巡る動向に左右される展開が続くことは避けられないであろう。

注1 4月14日付レポート「ペルー大統領選、フジモリ氏首位も決選投票は激戦必至」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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