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南ア下院、ラマポーザ大統領への弾劾手続き開始へ

~否決の公算も統一地方選には逆風、ランド相場は外部環境が左右する展開続く~

西濵 徹

要旨
  • 南アフリカ国民議会(下院)は5月11日、ラマポーザ大統領の不正資金疑惑を巡る弾劾委員会の設置手続き開始を決定した。これは、以前の弾劾手続き見送りの判断を憲法裁判所が憲法違反と認定したことを受けたものである。ラマポーザ氏は辞任を否定し続投の意向を示しており、与党ANCも弾劾否決に必要な票を確保可能であり、否決される可能性は高い。
  • 同国では11月に統一地方選挙の実施が予定されているが、ANCの支持率は直近の世論調査で30%台後半にとどまり、2021年の前回統一地方選(45.59%)や2024年総選挙(40.18%)の得票率を下回っている。弾劾問題の行方次第では、党勢がさらに悪化する可能性もあり、統一地方選はさらなる苦戦を強いられることも十分に考えられる。
  • 金融市場では政局はほぼ材料視されておらず、ランド相場は外部要因に左右される展開が続いている。金価格の高止まりが下支え要因となる一方、中東情勢の緊迫化による原油高が経済のファンダメンタルズを悪化させるリスクがあり、先行きは不透明である。
目次

【南ア下院、ラマポーザ大統領に対する弾劾委員会の設置手続き開始を決定】

南アフリカ議会の下院(国民議会)は5月11日、ラマポーザ大統領の不正資金疑惑を追及する弾劾委員会の設置手続きの開始を決定した。問題の発端は、2020年にラマポーザ氏が所有する農場内にある別荘で窃盗事件が発生したことに遡る。その際、強盗は家具のなかに隠された多額の現金を持ち去ったものの、当時は事件そのものが公表されなかった。しかし、2022年に情報機関であるSSA(国家安全保障局)のフレーザー元局長が、前述の窃盗事件で盗まれた400万ドルがラマポーザ氏による不正資金であったことを告発した。なお、フレーザー氏はラマポーザ氏の「政敵」であるズマ前大統領の側近であり、政治的意図による告発とみなされたため、事態収拾が試みられた。

一方、ラマポーザ氏は盗まれた金額が58万ドルであるうえ、農場で飼育していたバッファロー(水牛)を売却した代金であると説明したものの、その後も売却されたはずのバッファローが農場にいるなど説明に疑義が生じた。さらに、盗まれた金額を巡る説明に齟齬が生じているうえ、その申告の有無、別荘の家具のなかに隠していた理由などが疑惑として浮上し、現地報道では「ファームゲート・スキャンダル」と名付けられた。こうしたことから、議会は元裁判官などで構成される独立調査委員会を設置し、ラマポーザ氏による偽証を示唆する判断を下した。この判断を受けて、その後の国民議会では、ラマポーザ氏に対する弾劾の是非を審議する委員会の設置案に関する審議が行われたものの、反対多数で否決され、弾劾手続きが見送られた経緯がある(注1)。

しかし、ラマポーザ政権を支える与党ANC(アフリカ民族会議)内から離反の動きがみられるなど、党内結束に揺らぎが生じた。ANCは2024年の総選挙を前に分裂し、1994年の民主化以降で初めて獲得議席数が単独で半数を下回る事態に発展した(注2)。しかし、ANCは白人主体の第2党DA(民主同盟)や、黒人のズールー族主体のIFP(インカタ自由党)、カラード(混血)系国民からの支持を集めるPA(愛国同盟)などと連立を形成し、ラマポーザ政権は維持された。その後、憲法裁判所は5月8日に国民議会の判断そのものが憲法違反とする判断を下したため、一転して弾劾手続きに舵を切ることとなった。

【否決の可能性は高いが、統一地方選の苦戦は必至、ランド相場は外部環境次第の展開が続く】

今後は国民議会において弾劾手続きが開始されるものの、弾劾の可決には3分の2以上の賛成票が必要となる。前述のようにANCは単独で半数を下回っているものの、4割近くの議席数を確保しており、決議が行われても否決される可能性は極めて高い。ただし、与党連立の一角を占めるDAは弾劾委員会への積極的な関与を表明しているほか、今後明らかになる内容によってはANCから再び離反の動きが広がる可能性も否定できない。なお、前述の憲法裁判所による判断を受けて、一部でラマポーザ氏の辞任を求める声が出ているものの、同氏は11日に行ったテレビ演説で「憲法裁の判断には私が辞任することを強制する内容は一切含まれていない」と述べ、続投する意向を示している。

同国では11月に統一地方選挙の実施が予定されている。直近の世論調査におけるANCの支持率は30%台後半にとどまり、2021年の前回統一地方選時の得票率(45.59%)、2024年の総選挙時の得票率(40.18%)をともに下回るなど、党勢の低迷に歯止めがかかっていない。弾劾委員会の行方によっては、ANCを取り巻く状況が一段と厳しくなる可能性も考えられる。

金融市場においては、政局の動きはほぼ材料視されておらず、ランド相場は外部環境に左右されやすい展開をみせている。2025年から26年初にかけては、金価格の上昇がランド相場をけん引してきた(図1)。しかし、中東情勢の緊迫化を受けてランド相場を取り巻く状況は大きく変化している。同国は原油輸入の4分の1をサウジアラビア、石油製品輸入の半分以上をオマーン、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーンなど中東諸国からの輸入が占めている。さらに、原油や石油製品などエネルギー資源のほぼすべてを輸入に依存しており、その収支(輸出入の差し引き)はGDP比▲3.5%の赤字と試算されるため、足元の原油高はマクロ経済に下押し圧力をかける。そのうえ、輸入増による対外収支の悪化、エネルギー価格の上昇によるインフレなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を招く懸念もある。金価格が高止まりしていることがランド相場を下支えしているものの、実体経済を巡る悪材料が山積するなか、ランド相場は引き続き外部環境頼みの展開が続くとみておく必要がある。

図表
図表

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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