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資産運用のキホン ~その 11:債券投資のメリットと債券投資の方法~

嶌峰 義清

要旨
  • 債券価格と株価は逆方向に動く傾向にあり、景気の局面に応じて適切な選択をすることで運用益を増やすことも可能だ。
  • 個人向け国債など、個人の債券運用に適した債券も増えている。
  • 物価上昇率や債券の信用度をよく見極めることが必要だ。

債券投資のメリット

「資産運用のキホン~その9」でも触れたが、個人投資家の公社債保有割合は株や投資信託に比べて極端に低い。日本の個人投資家にとって債券投資は縁遠いもののようだ。

しかし、資産運用のキホン~その10:債券価格と金利、景気の関係~」で述べたように、債券投資でできるだけ高い収益を上げるためには“景気が最も良いとき”が債券価格面でも債券利回り面でも最も有利になる可能性が高い、という特徴を考えれば、株式投資との補完が可能になることに着目するべきだろう。

「資産運用のキホン~その8:株価と景気と金融政策の関係~」では、株価と景気は連動するという関係から、株式投資で高い収益を上げるためには“景気が最も悪いとき”に購入し、“景気が最も良いとき”に売却することで、その可能性が高まると述べた。

すなわち、債券と株式の投資のタイミングは、景気との関係で言えばちょうど逆になる。

したがって、

景気の谷:株式を購入

景気の山:株式を売却し、債券を購入

景気の谷:債券を売却し、株式を購入

することで、キャピタルゲイン(売却益)を大きくする可能性が高まる。

もっとも、実際の株価も債券価格も、必ず景気の山や谷で価格がピークやボトムをつけるわけではない。投資家の先を読む思惑が絡むので、現実には景気の動きとかなりずれることもある。そもそも、景気の山や谷を認識することも難しい。景気と株や債券の動きは理論上のものに過ぎない。

しかし、実際に機関投資家は景気が良くなっていくと判断すれば、保有資産のうちの株式のウェイトを引き上げる代わりに債券のウェイトを減らし、景気が悪くなっていくと判断すれば株式のウェイトを減らして債券のウェイトを高めるという行動を取る。そうすることで、損失を減らし、収益をより大きくする可能性が高まると判断しているためだ。

個人投資家の場合、機関投資家のように巨額の資金を運用しているわけでは無いうえ、運用環境の分析に多くの時間を割くことも難しい。タイミングを見誤れば、損失を出すリスクもある。場合によっては手数料が嵩むことで運用の利益を損ねてしまうことも考えられる。したがって、個人投資家が機関投資家と同じような運用方法をとる必要は決して無い。しかし、例えば景気が悪化する度合いが大きくなる、あるいはその期間が長期化するとの見方ができるのであれば、株を手放して債券を購入して守りに徹するような運用もできることは知っておくべきだろう。

個人投資家にとっての債券投資

債券投資が個人投資家にとってマイナーな理由の一つに、一般的に債券の額面金額は大きいため、個人の運用額に見合わないことが挙げられる。この点を考慮して、個人でも投資しやすく発行されている債券の代表的なものが個人向け国債だ。

現在(本稿執筆時点、2024年6月)、個人向け国債は固定金利型が3年と5年、変動金利型が10年の3種類が発行されている。それぞれの利率(税引き前)は固定金利型3年が0.40%、固定金利型5年が0.59%となっている。これに対し、6月に実施された5年利付国債の表面利率は0.5%であることから、個人向け国債の方が利回りは若干高い(本稿執筆時における、市場で取引されている国債利回り(いずれも固定金利)は3年物が0.373%、5年物が0.538%、10年物が0.972%となっている)。ちなみに、変動金利型10年の個人向け国債は、経済実勢に合わせて半年ごとに利率が変わるが、最低でも0.05%の最低金利が保証されている(初回の利子適用利率は0.69%)。なお、利率は毎月発行される毎に市場実勢に合わせて変わる。

個人向け国債は、①1万円から1万円単位で購入できる、②毎月発行される、③多くの民間金融機関で購入できる――ことから、個人でも投資しやすくなっている。加えて、④発行後1年を経過して以降は1万円単位で中途換金(売却)が可能で、中途換金でも差し引かれる金額は直前2回分の利子相当額の0.79685倍にとどまる(額面で100万円の個人向け国債を中途解約した場合、直前2回分の利子が合計1万円であれば、1万×0.79685=79.685円が割り引かれた99万9920円が返還される)。

個人向け国債以外で個人投資家にも投資しやすい債券として、国債では新型窓販国債として2年、5年、10年物の固定金利型の利付国債が毎月発行されている。こちらも多くの民間金融機関で購入できるが、個人向け国債と異なる点は、①購入単位が5万円から5万円単位、②償還(満期)前の売却は市場で売却する形になるため、市場価格次第で売却益や売却損が出ることもありうる、③購入時に初回利子の調整額を払い込む必要がある(利子は半年ごとに支払われるが、初回利子支払日が固定されているため、それまでの期間が半年に満たない場合、半年に不足する分の利子を日割りであらかじめ支払うこと)――などが挙げられる。

このほか、個人が債券に投資する際のツールとして、債券型の投資信託がある(投資信託については別途解説予定)。一口に債券型投資信託といっても、国内債券で構成されるものから、外国の債券、社債、高利回り債など、様々な種類がある。このため、自身の運用計画に見合った内容の投資信託を選ぶことが必要だ。

債券投資で注意すべき点

債券での運用の最大の魅力は、何年後にいくら増えるか、ということが分かっている点だ。これは預貯金でも同じことが言えるが、預貯金に比べて大抵の場合利息収入が高いことから、資産をより大きく増やすことができる。しかしだからこそ、計画通りに行かないリスクもあることに注意が必要だ。そこで、債券投資で注意すべき点について、以下に挙げていく。

第一に、利回りが物価上昇率を下回れば、実質的には運用損となる点だ。これは「資産運用のキホン~その4:預金では資産が実質目減りするリスク~」でも解説したが、保有債券の実質利回り(利回りから物価上昇率を差し引いたもの:例えば債券利回りが1%、物価上昇率が3%であれば、実質利回りは債券利回り1%-物価上昇率3%=実質利回り▲2%)がマイナスとなるのであれば、債券での運用によって資産価値は目減りしてしまう。

たとえば、額面100万円、利率1%、償還期間10年の債券を発行から満期まで保有した場合、

投資額:100万円

償還後の資産:110万円(元本100万円+利息収入100万円×1%×10年=10万円)

となる。

すなわち運用によって100万円のお金が10年後に110万円に増えたということになる。

しかしこの間の物価上昇率が年平均で3%だった場合、

投資時に100万円だったモノ(家電製品など)の価格は、

10年後に122万円(100万円×2%の10乗=121.899万円)

となる。

この結果、債券に投資する前には100万円で購入できたモノが、債券で運用している間(10年後)には122万年に値上がりしたため、運用後のお金(110万円)では購入できなくなってしまう。

債券は、償還までの期間が長いほど利率も高く設定されているが、その期間の物価上昇率に見合っていないと実質的に損になる点は、預貯金と同じであることに注意すべきだ。とはいえ、向こう10年間の物価上昇率を見極めてことは難しい。したがって、環境が変化した場合には売却するという判断も必要だ。

第二の注意点は、元本や利払いが保証されている、とは必ずしも言えない点だ。

債券は、償還(満期)時に元本(額面)が返ってくる。また、決められたタイミングで決められた利率に相当する利払いが行われる。利付債であれば元本額に加えて利率に相当する利子が運用益となり、割引債であれば発行時の債券価格と額面の差に応じたキャピタルゲインが運用益となる。

もっとも、これは債券の発行体が債券の利払いや償還金を支払う余裕があれば、の話だ。発行体が償還金を支払えないような財務状況に陥った場合、利払いが決められたタイミングより遅れる、償還金が割り引かれる、あるいは全く支払われないリスクがある。国債であれば、発行体である国の財政破綻、社債であれば発行企業の(著しい)経営悪化や倒産によって、利子や償還を受けられなくなる可能性がある。

こうした債券発行体の財務状態などを材料に、その債券の信用力や元利金の支払い能力の確実性などを分析し、リスクを序列化して表したものが格付けだ。格付けは格付け機関と言われる民間の団体が行っている。国内外の代表的な格付け機関としてはムーディーズ(Moody's)、S&P(スタンダード&プアーズ:Standard & Poor's)、フィッチ・レーティング(Fitch Ratings)、格付投資情報センター(R&I)、日本格付研究所(JCR)などがある。

格付はアルファベットや+、-などの簡単な記号で表され、格付機関ごとに表記方法は若干異なるが概ね右図のようになる。

一般的にBBB格以上が投資適格債と言われる。BB格以下は投機的とされて、ジャンク債やハイイールド債と言われている。格付けは、あくまでも格付機関が入手した情報を独自に分析した結果によるもので、元本や利息が予定通り支払われることを保障するものではない。格付機関は、債券の発行体の財務状況が変化するのに応じて、債券の格付けも変更しているものの、環境が激変したり、発行体の情報開示が十分でない場合には、格付けは適切ではないことには注意が必要だ。

債券格付の例
債券格付の例

ところで、図中にあるように格付けが高いほど信用力(元本や利息が予定通り支払われる可能性)が高い一方で、利回りは低くなる。これは、支払能力が高いほど低い金利で資金を調達でき、支払能力にリスクがあると見なされれば、高い金利でなければ資金を調達できないことを意味している。投資家の観点からは、利率が高いほど資金運用の点では魅力的ではあるものの、投資した資金が回収できなくなるリスクも高くなることになる。こうした運用パフォーマンスとリスクを天秤にかけた上での投資判断が求められる。

国債や政府関係機関が発行した債券をソブリン債と呼び、その格付はその国の財政状況や政治・地政学的リスクも勘案した支払能力となる。先進国でも格付けには差があることや、新興国で経済成長が著しい国でも格付には大きな差はある。BB格以下は投機的とされるという点はもちろんだが、外国の債券が自国通貨建て(その国の通貨で利払いや元本の償還が行われる)の場合は為替リスクも生じることを勘案しなければならない。

主な国のソブリン格付け
主な国のソブリン格付け

なお、格付機関によっては「BBB」の代わりに「Baa」やAA格からCCC格にそれぞれ+や-の記号を付与することで、上位格や下位格に近いことを示すケースもある(例えば「A-」と表記されている場合の読み方は「シングルエーマイナス」)。また、同じ債券でも格付機関によって微妙に格付が異なる場合もある。さらに、格付の方向性(概ね1~2年以内の近い将来に格付を変更する場合の方向)としてポジティブ(格付を引き上げる:格上げの可能性)、安定的、ネガティブ(格下げの可能性)などが表記されることもある。

「資産運用のキホン~その12」では、投資信託について解説する。

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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