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2026.04.08
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米・イラン一時停戦で注目されるポイント
~ホルムズ海峡通行料とイスラエルの対応がカギ
嶌峰 義清
- 要旨
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米国とイランは、双方が軍事攻撃を2週間停止し、停戦の条件について交渉することを表明した。イラン政府によれば、交渉期間中はホルムズ海峡の安全な航行を認めるとしており、ペルシャ湾内に停泊していた原油タンカーを含む船舶による輸出が再開される。
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両国が停戦の条件として掲げている内容には隔たりが大きく、交渉がスムーズに進むとは考えにくい。しかし、中間選挙に向けて幕引きを急ぎたい米国は、実効性に乏しい内容でも交渉をまとめる可能性がある。これに対し、イスラエルがどのような反応を示すかが不透明要因として残る。
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一時停戦の報を受けたマーケットは、原油安・株高・金利低下・ドル安と、これまでの巻き戻しの動きを強めている。もっとも、ホルムズ海峡管理の問題や、イスラエルの動向次第では、市場や経済に与える影響は異なってくる。
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1. 2週間の停戦で何が話し合われるか
米国とイランは7日(米国時間)、双方が軍事攻撃を2週間停止することで合意した。停戦期間中はホルムズ海峡の安全な航行をイランが認めたことで、今回の一時停戦の合意に至ったと考えられる。今後の焦点は、両国の交渉がまとまり、期限を決めない停戦に至るかどうかということになる。交渉では、両国が停戦の条件として挙げている内容について話し合われることになる。
イランは、停戦の条件として10項目の提案(条件)を仲介国であるパキスタンに提示し(図表1)、米国との交渉に臨むと報じられている。その全文が明らかにされているわけではないが、各種報道によれば、核燃料開発の継続、イランに対する安全保障、各種制裁措置の解除、そしてホルムズ海峡の管理の容認といった内容であるようだ。

これに対し米国は、先に15項目にわたる停戦条件をイラン側に突きつけた(図表2)。こちらも詳細な内容は公開されていないが、各種報道などによれば、核開発の放棄及び関連施設の解体、軍事活動の縮小、ホルムズ海峡の解放、段階的な制裁解除などとなっている。

このように、両国が停戦の条件として掲げている内容は完全に相反しており、2週間の交渉がスムーズに進むとは考えにくい。普通に考えれば、2週間を無駄に過ごす、あるいは2週間も保たずに決裂してもおかしくないほどの隔たりがある。
2. 停戦合意を急ぎたい米国の事情が“ウルトラC”の合意に導く可能性
両国の主張だけを見れば交渉がまとまる要素は少ない。しかし、米国には停戦をできるだけ急ぎたい事情がある。
11月に行われる中間選挙を前に、トランプ大統領の支持率は更に低下した(図表3)。イランへの軍事攻撃が影響していることは確実で、4月初の支持率は41.1%と、大敗した第1次トランプ政権下で行われた中間選挙直前(38.8%)に匹敵する水準にまで落ち込んだ(支持率の数字はいずれもRealClearPolitics世論調査平均による)。イスラエルと歩調を合わせた軍事行動は、トランプ大統領の支持基盤の一角であるキリスト教福音派の高い支持があったとされているが、それも最近では低下しつつあるとされている。また、支持者の中核とも言われるMAGA派は、そもそも対外軍事行動を強く批判している。トランプ大統領、あるいは共和党議員にとって、イランへの軍事攻撃の長期化は、中間選挙での敗北に直結しかねない問題であり、早期の幕引きを図りたいのが本音だろう。特に、トランプ大統領にとっては、下院を民主党に支配されれば、第一次政権時と同様に民主党主導の委員会で、これまでの大統領の行動に対する公聴会を開かれるなどして議会が空転、レームダック化する悪夢が蘇りかねない。

「米国はなんとしても2週間で停戦に持ち込みたい」ことを前提とすれば、イラン側が求める早期の制裁解除や現政権の存続は認める可能性が高い。加えて、これまでのトランプ大統領の言動からは、ホルムズ海峡をイランが管理することについても条件次第で受け入れ、これを事実上の賠償金に充てることを認める可能性がある。イランに侵略しない保証(恒久的な戦争の終結)については、国家間の紛争解決時にしばしば交わされる“口約束”ではあるものの、イラン側も容認することが可能な最低条件を要求する可能性が高い。
最もハードルが高いのは、イランの核開発に関する問題だ。空爆開始当初、トランプ大統領はイランを攻撃する理由について「核開発を放棄させるため」としており、イランの核開発の再開は到底容認できないはずだ。しかし、トランプ大統領はこの問題について「イランの高濃縮ウランについては気にしていない」と発言した。大半の核関連施設は破壊しており、高濃縮ウランも地下深くに埋没したため、ということだ。これに対し、IAEAは「濃縮済みウラン在庫の大部分は存在しており、これまでの攻撃ではイランの核開発を数年遅らせる程度」との見解を示しているが、トランプ大統領はこれを「(埋没して取り出せないから)気にしない」として、事実上無視した。この発言を重視するならば、核燃料の再開発を監視するスキームを作り上げることでイランと合意できれば、この問題は“終了”ということになる可能性もある。
3. 安易な交渉を望まないイスラエルの行動が不透明要因
これに対し、イスラエルはイランによる自国への攻撃能力の破壊が重要な条件となるはずだ。したがって、米国があまりにも“安直な”交渉を進めれば、これに強く反発する可能性がある。特に、イスラエルの極右的存在である宗教シオニズム系は、イランの攻撃能力や現政権の破壊を強く求め、場合によっては米国とイランが合意に至ったとしても、更なる独自の軍事攻撃を主張する可能性がある。複数の政党で連立を組んでいるネタニヤフ首相(リクード)の連立政権から宗派シオニズム系が離脱すれば、議会での過半数を割り込むことになるため、ネタニヤフ首相の行動も読みにくい。
仮に、イスラエルが独自の軍事攻撃を継続すれば、イランはホルムズ海峡の開放を撤回し、米国に対してイスラエルを抑え込むことを要求するなど、事態はより複雑化するリスクもある。
4. 一時停戦を好感するマーケットだが、イスラエルの動向やホルムズ海峡の扱いは懸念材料
米国とイランの一時停戦、交渉開始の報はマーケットの動きを大きく変えた。イランへの空爆開始後、世界のマーケットは原油高・株安・金利高・ドル高という流れが続いてきた。これに対し、一時停戦となった4月8日の東京株式市場では、日経平均株価が前日比+2878.86円(+5.39%)急騰した。原油価格(WTI先物)は同▲18.25ドル(▲16.05%)、10年物国債利回りは同▲0.04%、ドル円相場は同▲1.81円の円高と、これまでとは逆回転の様相を呈している(図表4)。

イランが交渉期間中のホルムズ海峡の航行を容認したことで原油価格が値下がりし、インフレ圧力が後退するとの見方が高まったこと、石油製品の需給緩和期待による生産活動への悪影響懸念の後退が株価を押し上げる一方で、金利の低下に繋がった。同時に、完全停戦への期待はリスク性資産への資金回復期待を高め、為替市場では有事のドル高の巻き戻し(ドル安)に繋がっている。
こうしたマーケットの回復(巻き戻し)の動きは、ホルムズ海峡の安全な航行が続くことで担保される。したがって、航行に何らかの制限がかかる、あるいは再び閉鎖されるようなことがあれば、市場の動きにも変調を来そう。
たとえば、交渉が決裂する、あるいはイスラエルが単独軍事行動を起こしてイランが態度を硬化させて再び閉鎖するようなことが起これば、市場は再び不安定化しよう。
また、ホルムズ海峡の通行料が課せられることになれば、同海峡経由の原油依存が高いアジアを中心に、ある程度のインフレ警戒感やコスト高による企業業績への影響が生じる可能性がある。
嶌峰 義清
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