バイデン発言「日本人は外国人嫌い」を検証する

~移民への否定論は強くないが、外国人には慎重な接し方~

前田 和馬

要旨
  • 5月1日、バイデン大統領は「移民が米国経済の強さ」と指摘する一方、日本やインドは「外国人が嫌いで移民を受け入れないため」に経済的な問題があると述べ、波紋を呼んでいる。

  • 日本の人口に占める移民比率は2.2%と、米国(15.3%)と比べると際立って低い。日本を除く主要先進国では移民の流入が人口増へと繋がり、これが経済成長率を押し上げる一方、こうした国々では移民の大規模流入による治安悪化や社会負担に対する懸念が浮上している。

  • 日本における移民の評価は「良い」と「悪い」が概ね拮抗しており、両者の割合はドイツやフランスとほぼ等しいなど、移民への否定論が特段強いわけではない。一方、外国人と接する機会の少なさ、及び他人と接する際の慎重な国民性を背景に、日本人は外国人に一定の距離を取る傾向がみられる。このため、欧米とは異なる社会風土を踏まえた移民政策の議論が求められるだろう。

波紋を呼ぶバイデン大統領の「日本人は外国人嫌い」発言

5月1日、米国のバイデン大統領は選挙関連イベントにおいて「移民の受け入れが米国経済の強さ」と指摘した一方、日本・中国・ロシア・インドの4か国を名指しで「外国人が嫌い(xenophobic)で移民を受け入れない」と述べ、こうした移民へのスタンスが各国の経済的な問題に繋がっているとの考えを示した。同イベントの参加者はアジア系米国人が大半を占めており(注1)、バイデン大統領は米国における移民の重要性を強調することで、聴衆やその祖先(移民1世)を賞賛する意図があったとみられている。

しかし、米国と敵対しているとみられる中国とロシアに加えて、同盟国である日本とインドを「外国人嫌い」と表現した発言は一部で波紋を呼んでいる。林官房長官は「日本の政策に対する正確な理解に基づかない発言で残念」と述べた一方、インドのジャイシャンカル外相は「(インドは)とても開かれた国」と反論した。また、5月3日付けのWall Street Journalの社説は同発言が「十分明白(ブロード)に無礼だった」と論じた。他方、ホワイトハウスのカービー戦略広報担当調整官は「バイデン大統領の発言は移民政策全般に関するもの」と釈明した。

特定国の移民政策や人権問題を指摘するのではなく、「外国人嫌い」といった差別主義者を想定させる表現を国民全体に用いるのは不適切である。一方、移民受入の現状とこれを巡る国民感情に国別の差異があるのは確かであり、本稿ではこの点に関して日本の国際的な位置づけを概観する。

主要先進国では移民流入が経済成長率を押し上げ

アメリカが移民大国であることは疑う余地がない。2020年時点の国連データに基づくと、米国の人口に占める移民比率は15.3%に達しており、2000年(12.4%)からの20年間で2.9%ポイント上昇している(図表1;移民の定義は注釈を参照)。一方、日本・中国・インドの3か国における移民比率は相対的に低い(注2)。日本の移民比率は緩やかな上昇傾向にあるものの、依然2.2%に留まるなど主要先進国と比べるとその規模は限定的だ。また、中国の移民比率は0.1%、インドは0.4%と共に人口大国であることを背景に僅少に留まっている。他方、ロシアの移民比率は8.0%と3か国と比べると決して低い水準ではない。

バイデン発言における「経済的な問題」が具体的に何を意味するかは不明確だが、日本と移民を受け入れる主要先進国との間には明確な成長率格差がある。2000~19年の平均成長率実績を見ると、日本は+0.8%と、G7諸国の中でもイタリア(同、+0.4%)に次ぐ下から2番手に陥る一方、日伊を除く主要先進国は1%半ばから2%台の経済成長を達成している(図表2)。先進国における人口成長は移民の流入に依存する面が強く、人口成長が望めない日本は生産性の大幅な改善を実現しない限り、移民大国と同等の成長率を達成することは難しい。また、米国では移民がイノベーションの担い手にもなっており、例えば米国における特許の36%は移民が関与しているとの分析がある(注3)。

図表1:主要国の人口に占める移民比率
図表1:主要国の人口に占める移民比率

図表2:主要国の移民比率と経済成長率
図表2:主要国の移民比率と経済成長率

注:図表1:移民の定義は日本・中国・韓国が外国籍、それ以外は外国生まれ(一部の国は難民申請者等を含む)。図表2:先進国と新興国の分類はIMF。

出所: 国連、IMFより第一生命経済研究所が作成

しかし、こうした成長押し上げ効果に対して、足下の欧米諸国では移民の大規模流入に対する社会的な懸念が強まっている点に留意が必要だろう(注4)。米国ではバイデン政権下の4年間(2021~24年)における不法移民の流入が合計730万人(2017~20年[トランプ政権]:-3万人)に達すると試算されており、政府の移民対応を巡る米国民の不満は根強い。トランプ前大統領はバイデン政権を批判すると同時に不法移民の大規模送還を公約として掲げるなど、移民政策は2024年大統領選の重要論点に浮上している。一方、欧州では移民・難民の増加が失業や公共サービスの悪化に繋がっているとの見方が一部で強く、6月の欧州議会選挙では反移民的な極右政党が躍進する可能性が高まっている。

他方、少子高齢化による労働力不足の懸念が弱い新興国において、移民比率と経済成長の間に明確な関係性は見られない。足下の景気動向を巡っては中国が不動産不況、ロシアは西側諸国の経済制裁といった懸念材料があるものの、こうした課題は移民政策とほぼ無関係と考えられる。 

日本では移民に対する肯定派と否定派が拮抗

国別の移民比率の違いは、地理的・歴史的な各国間の繋がり、地域間の経済格差、或いは言語上の障壁に加えて、当然のことながら移民政策のスタンスも影響を及ぼす。政策スタンスは移民に対する国民感情に依存すると考えられ、例えば第7回世界価値観調査(欧州価値観研究との合同データ;2017~22年実施)における「移民の経済・社会的影響」に関するアンケート結果を見ると、各国の傾向が確認できる(図表3)。まず、大半の国において、移民が自国の発展に与える影響を「どちらともいえない」と回答する割合が最も多い。上記で指摘したような「移民の経済成長に対するプラス面」を認識しながらも、「社会的な軋轢が生じる懸念」を多くの人々が抱いている様子がみてとれる。また、移民を「良いこと」或いは「悪いこと」と答える人々の割合を見ると、米国や英国では肯定的な意見の方が多いものの、オーストラリアの様に「悪いこと」に傾斜する移民大国も存在する。日本では両者の割合が3割弱で拮抗しており、同様の傾向はドイツやフランスでもみられるなど、国際的に見ても日本が移民に対して明らかに否定的な見方をしているわけではない。

図表3:移民が自国の発展に与える影響
図表3:移民が自国の発展に与える影響

注:「どちらともいえない」には「わからない」及び「無回答」を含む。

出所:世界価値観調査、欧州価値観研究より第一生命経済研究所が作成

日本と欧米で異なる「フレンドリーさ」

とはいえ、移民を含めた外国人との関わり方という点において、日本を含めた東アジア諸国と欧米の主要先進国では根本的な社会風土の違いがあるかもしれない。例えば、同一の調査における「他国の人々をどれだけ信頼するか?」の問いに対して、米国では「やや信頼する」が66.1%と最も多く、「あまり信頼しない」の20.6%を大幅に上回る。一方、日本では「あまり信頼しない」が34.7%と、「やや信頼する」の15.7%を逆転する(図表4)。同様に、移民大国である英国やドイツは「他国の人をどちらかといえば信頼する」一方、中国や韓国では「どちらかといえば信頼しない」傾向がある。「信頼しない」ということは一定の距離を取って接すると考えられ、こうした社会は閉鎖的かつ移民が疎外感を抱きやすい環境として国際社会には映るかもしれない。

これらの国が外国人に慎重に接する傾向がある理由として、「そもそも外国人に馴染みがないこと」と「欧米と異なる慎重な国民性」の2つが挙げられる。

図表4:他国の人に対する信頼度
図表4:他国の人に対する信頼度

図表5:初対面の人に対する信頼度
図表5:初対面の人に対する信頼度

出所: 世界価値観調査、欧州価値観研究より第一生命経済研究所が作成

まず、同調査における「初対面の人々をどれだけ信頼するか?」の回答を見ると、欧米の移民大国が初対面の人よりも外国人をより信頼する傾向にある一方、中国や韓国では両者の回答分布が大きく変わらない傾向にある(図表5)。移民比率の少ない国では外国人と日常的に接する機会が少なく、信頼できるかの判断材料となる交流経験が乏しい。また、日本では外国人の信頼度に関して「わからない(無回答を含む)」の回答が39.5%と最も多く、この割合は「外国人の知人はいないし、付き合ったこともない」日本人の割合である41.5%と概ね一致する(法務省「外国人との共生に関する意識調査(2023年実施)」)。欧米諸国では「外国人」を信頼する人の割合が「初対面」のそれよりも2割程度多い傾向にあり、日本においても移民比率が上昇し異文化に対する理解が進む場合、外国人を「どちらかといえば信頼する」傾向にシフトする可能性がある。

次に、移民大国とそうではない国では「初対面の人」に対する信頼度合いが大きく異なっており、この程度は外国人に対する信頼度とも強い相関性がみられる。初対面の人を「あまり信頼しない」「全く信頼しない」と回答する割合は日本で70.4%、中国で86.2%に達する一方、米国や英国では「やや信頼する」と回答する割合が相対的に多く、面識のない人に対してもフレンドリーに接する姿勢がみられる。実際、欧米諸国では電車など公共の場で出会った初対面の人同士が会話するのをよく見かける一方、東アジア諸国でこうした場面を目撃することは少ない。移民を受け入れることを通じてこうした国民性が変わるとは考えづらく、日本を含む東アジア諸国では「自身のコミュニティの外」に対する警戒感が社会的に強いといえる。こうした警戒感は対象者の出身や国籍を問わずに向かうものの、交流機会の少ない外国人は「馴染みのない人」と認識されやすく、結果的に信頼感が低く出やすい可能性が高い。ちなみに、「個人的に知っている人」に対する信頼感は国別の差異が相対的に小さく、関係性を構築している人を信頼する傾向は世界共通といえる。

移民を受け入れる社会風土は各国で異なると考えられ、日本人の慎重な国民性を踏まえると、欧米と同様のペースで移民を受け入れることは社会的な軋轢を生じさせる懸念が強い。特に民族的な均一性が高い社会において、異文化に対する理解促進は簡単ではなく、外国人が特定のコミュニティに溶け込むには時間がかかると考えられる。このため、欧米型の移民政策を日本でそのまま採用することは難しく、国内においては社会的な融和を含めた移民政策の議論、国際的には欧米との社会構造の違いを踏まえた移民政策に関する情報発信が求められるだろう。

【注釈】

  1. バイデン米大統領、インドと日本は「外国人嫌悪」と  - BBCニュース

  2. 日本政府は「移民政策をとらない」のが公式見解であるものの、外国人労働者に対する各種の在留資格は実質的な移民政策との見方が強い。

  3. Bernstein, Shai, Rebecca Diamond, Abhisit Jiranaphawiboon, Timothy McQuade, and Beatriz Pousada (2022), "The Contribution of High-Skilled Immigrants to Innovation in the United States," NBER Working Paper Series (No.30797).

  4. 詳細は4月15日付け「バイデン政権下で流入する730万人の不法移民」、及び4月18日付け「内外経済ウォッチ『欧州~EUの未来を占う選挙が近づく~』(2024年5月号)」を参照。

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

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