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2023.03.28
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カザフ再選挙、トカエフ政権は多数派維持で体制安定に道
~中ロの狭間という地政学面で重要な国だけに、外交、経済面での行方に注意する必要性は高い~
西濵 徹
- 要旨
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- 昨年以降、中央アジアのカザフスタンでは政局が大きく揺れ動いた。独立以降に一貫して指導者として影響力を有したナザルバエフ前大統領が失脚し、トカエフ大統領は政治的な変革を進めてきた。昨年11月に前倒し実施された大統領選でトカエフ氏は圧勝で再選を果たすとともに、ナザルバエフ氏の影響力排除に向けて今月19日には議会下院の再選挙が実施されるなど、政治刷新に向けた一連の改革は佳境を迎えた。
- 政権を支える与党アマナトは単独で半数を上回る議席を獲得し、体制内野党を併せると7割弱を占める。他方、中道派や左派も一定の存在感を示しており、今後の政権運営に当たっては経済面での様々な構造改革の行方に注目が集まる。また、同国は伝統的にロシアと関係が深く、中国も接近するなど地政学的に重要な位置にあるなか、外交や経済の動きにこれまで以上に注意を払う必要性が高まっていると判断出来る。
昨年以降の中央アジアのカザフスタンでは、政局が大きく動く流れがみられた。昨年1月に天然ガス価格の大幅引き上げをきっかけに発生したデモの動きは全土に広がるとともに、2019年の大統領退任後も事実上の指導者として政財界に隠然たる影響力を有してきたナザルバエフ前大統領への批判に発展したため、トカエフ大統領はナザルバエフ氏を事実上失脚させるなど『政変』に発展した(注1)。なお、トカエフ大統領派反政府デモの鎮圧に向けてロシアなど旧ソ連6ヶ国で構成される集団安全保障条約機構(CSTO)に対して部隊派遣の要請に動いたものの、その後のロシアによるウクライナ侵攻を巡っては、事実上ロシアと距離を置く姿勢を示している。同国は元々ソ連の一部である上、ソ連崩壊を前に独立を果たして以降はナザルバエフ氏の下で強権的な統治が行われるとともに、政治・外交、経済面でロシアと極めて深い関係が続いてきた。こうした状況ながら、上述のようにトカエフ氏はナザルバエフ氏の失脚に動くとともに、その後もナザルバエフ氏の影響力の『完全な』排除に向けて憲法改正に動くなど様々な面での『変革』に動いている様子がうかがえる(注2)。さらに、昨年11月には元々来年(2024年)に予定された大統領選を前倒しで実施するとともに、81.31%という圧倒的な得票率により勝利を収めるなど政治的な影響力の拡大を図る動きがみられた(注3)。また、トカエフ氏はナザルバエフ氏の影響力が残る2021年に実施された議会について、刷新や体制の安定を図ることを目的に前倒しでの再選挙を実施する方針を明らかにするなど、政治改革を進める考えをみせてきた。しかし、大統領選の得票率は69.44%とトカエフ氏が大統領に就任した2019年の前回選挙(77.54%)から一段と低下して1991年の独立以降の大統領選のなかで最も低い水準に留まるとともに、大都市部で極めて低水準となるなど、政治への関心を巡る温度差が顕在化している。こうしたなか、19日に議会下院(マジリス:定数98)の再選挙が実施された。再選挙については幾つかの問題が指摘されたものの、同国で過去に実施された選挙のなかでは最も自由な選挙と評価されるなど、トカエフ政権が目指す旧体制からの脱却は着実に前進している様子がうかがえる。
他方、トカエフ政権を支える与党アマナト(旧ヌル・オタン)は53.90%と半数を上回る得票率を得て勝利するとともに、議席数は62と議会下院の6割を上回るなど勝利を収めた。さらに、体制内野党であるアク・ジョル(明るい道民主党)も6議席を獲得しており、両党を併せると議会下院の7割弱を占めるなど、表面的には政権基盤は盤石と捉えることが出来る。しかし、両党の得票率はアマナト(53.90%←71.09%)、アク・ジョル(8.41%←10.95%)とともに低下している上、議席数もアマナト(62議席←76議席)、アク・ジョル(6議席←12議席)と改選前においては議会下院の9割弱を占めてきた状況から大幅に勢力を失っている。他方、今回の再選挙で初めて議席を獲得した野党アウィル(国民民主愛国党)は8議席(得票率10.90%)、新党レスプブリカ(共和国党)も6議席(得票率8.59%)、JSDP(全国社民党)も4議席(得票率5.20%)と一定の存在感を示すなど、中道派や左派がそれなりの存在感を示しつつある様子もうかがえる。同国は原油や天然ガス、ウラン、レアアースなどの豊富な鉱物資源を有する一方、地理的にはロシアと中国に挟まれており、伝統的にロシアと関係が深い一方、近年は中国の外交政策(一帯一路)の入口として地政学的に重要な位置にあるため、バランス外交に腐心してきた経緯がある。他方、経済面では資源への依存度が極めて高い上、関連産業のみならず幅広い分野を国営企業が牛耳るなど効率性の低さに加え、硬直的な財政構造の元凶となってきた。トカエフ政権はロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに外交面でロシアと距離を置くとともに、経済面でもアゼルバイジャンとの協力深化によりロシアを経由しないエネルギー供給路の確保に加え、トルコとの戦略的パートナーシップの強化などによりロシアへの依存度低下を目指す動きもみられる。さらに、再選挙で存在感を示した野党は経済のデジタル化や農地改革、自由化、そして多角化などを掲げており、与党が議会内で圧倒的多数を失ったなかではこうした様々な構造改革に配慮しながらの政権運営を迫られることも予想される。足下のインフレ率は20%を上回る水準に加速するとともに、収束の見通しが立たないなど国民生活を巡る状況は極めて厳しい展開が続いている。さらに、反政府デモの直後に急落した通貨テンゲ相場はその後の事態収束や原油などの国際価格の上振れも追い風に底入れしたものの、足下では米ドル高の再燃や原油などの国際価格の調整も相俟って上値が抑えられるなど、神経質な展開が続いている。トカエフ氏による一連の政治改革に道筋が付いたなか、今後は上述のように地政学面でも重要な同国の行方については外交、及び経済の動きにこれまで以上に注意を払う必要性が高まっていると判断出来る。


注1 2022年1月6日付レポート「カザフスタン、暴動を機に政変へ、地域を巡る地政学リスクに要注意」
注2 2022年6月6日付レポート「カザフスタン、改憲で「国父」を完全排除、ロシアとも距離を置く姿勢」
注3 2022年11月22日付レポート「カザフ大統領選、現職トカエフ氏圧勝で「旧体制」からの脱却が進むか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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