インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

チリ中銀、次回以降の利上げ打ち止めを示唆も、政治・経済ともに状況は厳しい

~為替介入の背後で外貨準備は急減、金融市場の動揺への耐性は著しく低下している~

西濵 徹

要旨
  • 足下の世界経済は全体として景気減速が意識されるなか、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜が国際金融市場を揺さぶる展開が続く。チリでは左派政権(ボリッチ政権)が誕生する一方、通貨ペソ相場は銅価格に左右される上、金融市場環境の変化も重石となる展開が続く。さらに、商品高に伴うインフレに見舞われるなかで中銀は昨年7月以降、物価と為替の安定を目的に断続的な利上げを余儀なくされてきた。しかし、物価高と金利高の共存は政権交代をけん引した貧困層や低所得者層を直撃し、ボリッチ政権は支持率急落など困難に直面している。中銀は12日の定例会合で追加利上げを決定するも、先行きの利上げ休止を示唆する動きをみせる。ただし、物価を巡る状況には不透明感がくすぶる上、ペソ相場安定に向けた為替介入により外貨準備は急減するなど金融市場への耐性は急速に低下している。ボリッチ政権は発足半年強で厳しい状況に直面するが、同国経済にも困難が待ち受ける可能性が高まっていると判断出来る。

足下の世界経済を巡っては、中国による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国景気のみならず、サプライチェーンを通じて世界経済の足かせとなっているほか、商品高に伴う世界的なインフレに対応して米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀はタカ派傾斜を強めていることを受けて欧米など主要国経済も頭打ちの様相を強めるなど、全体として景気減速が意識される状況にある。また、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜の動きは世界的なマネーフローに影響を与えており、国際金融市場においては新興国から資金流出の動きがみられるなか、なかでも経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な国々に資金流出が集中する傾向がうかがえる。南米チリでは、昨年12月の大統領選(決選投票)でかつての学生運動のリーダーで左派の社会融合党から出馬したガブリエル・ボリッチ氏が勝利するとともに、3月に同国史上最年少(36歳)の大統領に就任するなど、ここ数年中南米諸国に広がりをみせる『左派ドミノ』の動きが到来した(注1)。同国は長年に亘る『小さな政府』を志向する新自由主義的な経済政策に基づき高い経済成長を実現してきたものの、その背後ではOECD(経済社会開発機構)加盟国のなかでも社会経済格差が極めて高く、ここ数年貧困層や低所得者層を中心に不満が高まったことが左派政権誕生の一因になったとみられる。他方、同国は人口規模が中南米諸国の中でも比較的小さいことで経済構造面では輸出依存度が比較的高く、輸出の大宗を銅などの鉱物資源が占めることも影響して、国際金融市場において通貨ペソ相場は銅の国際価格に連動する傾向がある。よって、このところの中国経済の減速懸念を反映した銅価格の低迷はペソ相場の重石となるとともに、上述の米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜を受けた米ドル高も影響してペソ相場は調整の動きを強める事態を招いている。さらに、商品高による食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とする世界的なインフレは、同国においても同様の動きを招いており、ボリッチ政権の誕生を後押しした貧困層や低所得者層を直撃するなど政権は発足当初から厳しい状況に直面してきた(注2)。さらに、中銀は昨年7月に2年半ぶりの利上げに動いたほか、その後もインフレ率が加速の度合いを強めるとともに、国際金融市場においてペソ安が進んだことも重なり、物価及び為替の安定を目的に断続的な利上げ実施に追い込まれるなど難しい対応を迫られてきた。このように物価高と金利高の共存が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まるなか、ボリッチ政権は発足早々から支持率が急落するなど厳しい状況に直面する上、政権交代の原動力のひとつとなった新憲法草案の承認の可否を問う国民投票が先月行われ、その急進的な内容を巡って国民の間に忌避感が強まり否決された(注3)。この結果を受けてボリッチ政権は発足から半年ほどで早くも内閣改造を実施し、その顔触れを『中道寄り』にシフトさせるなど急進姿勢を和らげる対応を余儀なくされた(注4)。他方、商品高の動きに一服感が出ていることに加え、ペソ相場は一時最安値を更新したことを受けて中銀は大規模な為替介入に動いてペソ安の動きが一服したこともあり、足下のインフレ率は頭打ちの兆候が出ている。ただし、依然としてインフレ率、コアインフレ率はともに中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いている上、為替介入により調整の動きが一服したペソ相場も国際金融市場における米ドル高圧力が重石となるなど、物価及び為替ともに安定にはほど遠い状況が続いている。こうした事態を受けて、中銀は12日の定例会合において追加利上げを決定しており、これにより昨年7月以降の利上げ幅は累計1075bp、政策金利も11.25%となっている。利上げ幅は50bpと9月会合時点(100bp)から縮小するとともに、会合後に公表した声明文では「政策金利は昨年7月からの引き締めサイクルのなかで最高水準に達したとみられ、物価を目標域に収束させるため必要な限りこの水準に据え置かれると予想する」として利上げ局面の終了を示唆する考えを示した。中南米においては、他の新興国・地域に比べて先んじてきたこともあり、ブラジルが先月の定例会合において利上げの小休止に動いており(注5)、これまでの利上げ局面の変化を示唆する兆候がみられる。他方、足下における商品高の元凶となっているウクライナ情勢は依然として先行きのみえない状況が続くなど供給不安がくすぶるほか、主要産油国であるOPECプラスは来月からの協調減産を決定しており(注6)、原油価格も底堅い展開が見込まれるなど物価の高止まりに繋がる要因は山積している。こうしたなか、足下のペソ相場は他の新興国通貨と比べて落ち着いた動きをみせているものの、その背後で当局は断続的な為替介入に動いているとみられ、そうした動きを反映して外貨準備の減少ペースは加速している。外貨準備の水準はIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らせば『適正水準(100~150%)』を大きく下回るなど、急速に厳しさが増している様子がうかがえる。上述のようにボリッチ政権は発足から半年強にも拘らず困難に直面しているが、世界経済や国際金融市場を取り巻く環境が厳しさを増すなかで同国経済にも困難が待ち受ける可能性が高まっていると判断出来る。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ