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ロシア、産油国が石油不足に陥る苦境の背景とは

~ウクライナによるドローン攻撃が奏功も、ウクライナ戦争の行方は見通せない展開が続こう~

西濵 徹

要旨
  • ウクライナ戦争の開戦から4年半近くが経過し、ロシア経済は物資不足と労働力不足による構造問題が深刻化している。中東情勢緊迫化による原油高は本来追い風となるはずだったが、輸送費のロシア側負担、ルーブル高、「影の船団」への取り締まり強化により、原油収入は伸び悩んでいる。結果、足元の財政赤字は年間目標を大幅に超過する事態となっている。
  • さらにウクライナによる製油所・エネルギーインフラへのドローン攻撃激化が、石油生産・輸出の下振れと国内石油製品供給のひっ迫を招き、ガソリン等の価格急騰が国民生活を圧迫しつつある。プーチン大統領も燃料不足を公式に認め、備蓄放出のほか、ベラルーシやインドからの輸入拡大などの対応を進めているが、供給懸念の抜本的解消は見通しにくい。中銀も6月会合で燃料価格上昇を理由に利下げ局面の終了を示唆した。1-3月の実質GDP成長率はマイナス成長となったうえ、先行きの景気も低迷が続く可能性は高い。
  • こうした経済的苦境がプーチン氏の停戦決断につながるかは不透明である。同氏は「非ナチ化・非軍事化」というナラティブに加え、経済的苦境も西側の脅威によるものとするプロパガンダで国内の結束を図るとみられ、体制の揺らぎや戦争終結の見通しは依然立ちにくい。

ロシアが戦時経済に突入してから、まもなく4年半となる。戦争開始当初は、軍事費増による政府消費の拡大のほか、軍需産業のフル稼働が景気を押し上げる動きが確認された。しかし、足元では、欧米などの経済制裁を理由とする物資不足に加え、戦争長期化による労働力不足が経済活動の制約要因となるなど、構造問題が深刻化している。

イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけとする中東情勢の緊迫化は、原油高を招くなど産油国であるロシア経済の追い風になることが期待された。しかし、ロシアの原油輸出については、輸送費などをロシア側が負担しており、原油収入が抑えられる一因となっている。そのうえ、金融市場では外為規制・外為管理法に基づく外国為替取引の制限に加え、輸入減による貿易黒字の拡大を理由にルーブル高が進んだ。このため、原油高にもかかわらず、ルーブル建てで換算した原油収入が下押しされた。また、足元では欧米がいわゆる「影の船団(ロシア産原油の密輸を目的とする老朽タンカーなどの秘密船団)」の取り締まりを強化しており、輸出も困難になっている。こうしたことから、1月から5月までの財政赤字がGDP比▲2.6%と年間目標(同▲1.6%)を大きく上回った。

そのうえ、このところはウクライナによる製油所のほか、エネルギー・輸送インフラといった兵站を対象とするドローン攻撃を活発化させており、その悪影響が顕在化している。ウクライナによるドローン攻撃が活発化して以降、ロシア国内の石油生産は大きく下振れしており、原油輸出が困難になっている。さらに、製油所に対する攻撃を受けて、ロシア国内への石油製品の供給も滞っている。このため、産油国であるにもかかわらず、足元ではガソリンをはじめとする石油製品が不足しており、石油製品価格が急上昇して国民生活を圧迫する懸念が高まっている。実のところ、多くのロシア国民にとってウクライナ戦争は「他人事」であったとされるものの、石油製品価格の急上昇を受け、身近な問題と認識されるようになっている模様である。

これを受けて、プーチン大統領は公式の場で石油不足に陥っていることを認める姿勢を示している。さらに、備蓄分のガソリンの放出、規制撤廃による低品質燃料の販売許可に動くとともに、軽油の輸出禁止措置を発動する可能性を示唆するなど苦境に陥っている様子がうかがえる。国内の石油不足を補うために、ベラルーシなど周辺国からの輸入拡大に加え、インドからもガソリンの輸入を行うなど調達を活発化させている。また、当局は小売燃料価格統計の公表を制限したうえで、投機家や買い占め業者などの一斉摘発を開始するなどの対応を強化している。とはいえ、その後もウクライナはドローン攻撃を活発化させているうえ、欧米などの経済制裁を理由にインフラ改修に必要な部材調達のハードルが高いことを踏まえると、供給懸念の解消が進むかは見通しが立ちにくい。このため、こうした対応が物価抑制につながるかは不透明である。

中銀は6月の定例会合で利下げ局面の終了が近いことを示唆し、その理由のひとつにウクライナによるドローン攻撃に伴う燃料価格の上昇を挙げた(注1)。1-3月の実質GDP成長率はマイナス成長となったが(図1)、先行きの景気も低迷が続く可能性が高まっている。

図表
図表

とはいえ、こうした経済的な苦境が、プーチン氏にとって自らウクライナ戦争を停止させる誘因となるかは見通しにくい。プーチン氏はウクライナに対する「特別軍事作戦」について、ロシア国民にウクライナの非ナチ化・非軍事化という「ナラティブ(物語)」を通じたプロパガンダを展開してきた。足元の経済的苦境についても、欧米など西側諸国による安全保障を脅かす動きが影響しているとの主張を繰り返すことで結束を呼びかけることが予想される。したがって、プーチン体制の揺らぎにつながるかは極めて不透明であるとともに、ウクライナ戦争も見通しが立たない展開が続くであろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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