- HOME
- レポート一覧
- ライフデザインレポート
- ライフデザイン30年史(1)ライフデザインの設計状況
- Watching
-
2025.08.14
ライフデザイン
人生設計
幸せ・well-being・QOL
ライフデザイン調査
ライフデザイン30年史(1)ライフデザインの設計状況
~緩やかな景気回復と老後への不安を背景とした設計率の上昇~
鄭 美沙
- 目次
1.ライフデザイン30年史
当研究所では、人々の生活実態と意識の現状や変化を把握するため、1995年から2025年の間に「ライフデザインに関する調査」を計13回実施し、書籍「ライフデザイン白書」やレポートなどを通じて情報発信・提言を行ってきた。第1回調査から30年が経過し、価値観の多様化や人口減少社会の進展に伴い、個人が自らの未来を柔軟に設計するライフデザインの必要性は一層高まっている。
本稿は、「ライフデザイン30年史」と題したシリーズの第1弾である。本シリーズでは、これまでの調査結果とその分析に基づき、30年間の生活者の意識や行動の変化をたどる。この30年の大部分は「失われた30年」と重なる。こうした経済状況下での人々の暮らしや意識を振り返ることは、これからの豊かな生き方を考える上で、大いに示唆を与えてくれるだろう。初回となる本稿では、人生設計、すなわちライフデザインの設計状況の変化とその背景について考察する。
2.1995年はどのような年だったのか
当研究所では、最初の書籍である「ライフデザイン白書1996-97」を1996年に発刊した。その基となるアンケート調査を実施したのは1995年1月から2月であり、ちょうど阪神・淡路大震災が発生した直後であった。同年は、オウム真理教による地下鉄サリン事件や相次ぐ金融機関の破綻が生じた。また、一般家庭にパソコンが普及する契機となったWindows 95が発売され、「インターネット元年」と呼ばれた年でもあった。
「ライフデザイン白書1996-97」では、当時について「人生80年時代を迎えて、生活者の意識が物質的豊かさから心の豊かさへと移行し、それとともに、与えられた人生という有限の時間の中で生きがいに満ちた生活を送ろうとする人々の希求が高まってきている」と捉えている。現代は「人生100年時代」となったが、「心の豊かさへの移行」が今まさにウェルビーイングが注目されている理由であるように、この言及は現代のことと捉えても違和感がない。
また、同白書では、その背景として、21世紀に向けての様々な生活意識の変化を6つ挙げている(図表1)。

上記の6つの変化「(1) 健康に裏付けされた長寿化によるライフサイクルの変化とゆとり時間の創出」「(2) 労働時間短縮等による自由時間の創出」「(3) 就業意識における仕事中心主義からの変化」「(4) 伝統的な性別役割意識からの脱却」「(5) 物質的豊かさから心の豊かさ、家族志向等への変化」「(6) 家族から、一人ひとりの個性を前提にした個族への変化」は、いずれも現代と強く関連しているものである。
たとえば、(2)の「時間をうまく活用し、より便利さや自由度を追求する新しいライフスタイル」は、現代のタイパ(タイムパフォーマンス)志向と重なる。(3)で指摘した「終身雇用・年功賃金などを軸とした日本型雇用慣行の変化」は、いまやその見直しが企業の喫緊の課題となっている。また、(6)の「家の中でも各自が独立して活動する『個族』の時代になりつつある」という点は、スマートフォンやタブレット端末の普及により一層加速し、「家族団らん」はこれまで以上に希薄化している。
一方、当時予測しきれなかったこともある。たとえば、(1)の「長寿化によって生まれた人生後半の時間」については、定年延長や高齢者雇用の進展は十分に想定されていなかった。また、(4)についても、M字型就業パターンは徐々に解消されつつある一方で、現代は産後に女性が非正規雇用になる「L字カーブ」が生じているなど、新たな課題もある。性別役割分担意識については、30年経った今もなお完全な脱却には至っていない。
特に大きな違いは、少子化に対する危機感である。1990年は、1989年の合計特殊出生率1.57と戦後最低であった「1.57ショック」が社会的な話題となり、1994年には政府の最初の少子化対策「エンゼルプラン」が策定された。このように当時も少子化への問題意識はあったが、図表1に記載した6つの生活意識の変化として特に指摘がないことから、その影響が社会構造全体に及ぶ深刻な課題であるという認識は、現在ほどには浸透していなかったと考えられる。
とはいえ、こうした変化の方向性自体は現代と大きく重なる。1990年代に芽生えたこれらの流れは今もなお続いており、現代の社会変容の出発点ともいえる。当時現れ始めた社会意識や価値観の変化が、今の社会を形づくる重要な基盤となっているのだ。
3.ライフデザインの設計状況の推移
当研究所では、「ライフデザイン」を経済的な資金計画だけではなく、仕事や学業、家庭、余暇など、生活にかかわる様々な面を含む総合的な人生設計と定義している(第一生命経済研究所,2023)。ライフデザインは人々がより豊かな人生を送る手助けになると考え、図表1で示した生活意識の変化もライフデザインの前提として整理したものである。本節では、生活者のライフデザインの設計状況がどのように変化してきたのかをみていく。
図表2は、ライフデザインについて「ほとんど設計ができている」「ある程度設計ができている」と回答した人の合計割合(以下「設計率」)である。全体では、調査開始時の1995年は15.4%であり、2010年まで大きな変化はみられなかった。しかし、2015年に19.1%に上昇し、以降増加傾向に転じた。直近の2023年には25.4%となり、約4人に1人が設計済となっている。男女別にみると、男性の方が女性より設計率が高い傾向が、調査開始時より続いているが、1995年から2023年にかけて男性は約1.5倍、女性は約1.8倍に増加しており、女性の方が増加の度合いが大きい。

なぜ2010年代半ばより、ライフデザインを行う人が増えたのだろうか。ヒントとなる分析が、「ライフデザイン白書2006」にある。同書では、2005年において設計率が14.8%と伸び悩んでいる状況を踏まえ、「日本経済の低迷は、人々のライフデザインに大きなインパクトをもたらす。世帯収入が伸びず、かついつ仕事を失うかわからない状況においては、長期にわたる生活設計を立てることは難しい。長期のローンを組んで住宅を取得することは、高いリスクを伴うことになる。また、特に雇用環境が厳しい若年層においては、結婚や子育てを行うことさえも難しくなっている」と指摘している。すなわち、ライフデザインは当人の意識や教育の問題だけでなく、将来の生活を見通せる経済社会環境にあるか否かも重要ということだ。
設計率が上昇した2010年代の景気を振り返ると、まず2012年に発足した第2次安倍政権で打ち出された「アベノミクス」の影響で、株価が大きく上昇した。日経平均株価は2012年末の10,395円から、2019年末は23,657円と2倍以上になっている。
雇用の面では、2013年以降2019年まで不本意非正規雇用者数が低下傾向で推移した(図表3左)。また、有効求人倍率はバブル崩壊後に低迷し、2000年代に上昇するもリーマンショックの影響で再び下落した(図表3右)。しかし、2010年代は上昇が続き、それに反比例して完全失業率は改善されていった。

つまり、2010年代半ば以降、日本経済は消費増税などによる一時的な景気後退を経験しつつも、全体としては緩やかな景気回復が続いていた。好調な企業業績は世帯収入増加の期待を生み、雇用の安定は将来を見通しやすい環境につながった。こうした恩恵はすべての世帯に均等にもたらされたわけではなく、実質賃金の伸び悩みや格差拡大といった課題は残るものの、全体としてはライフデザインの設計率上昇に寄与したと考えられる。
一方、2010年代は、公的年金や医療、介護など社会保障制度への不安が一層高まった時期でもある。1995年当時はそこまで深刻化されていなかった少子高齢化が、この頃には社会問題となり、社会保障制度の持続可能性が不安視されるようになった。2012年には、社会保障の機能強化・機能維持のための安定財源の確保と財政健全化の同時達成を目指し、社会保障・税一体改革大綱が閣議決定された。以降その一環として、社会保障制度の効率化や機能強化、安定財源の確保などが進められた。
こうした制度改革は、生活者の社会保障への関心を高める一方で、不安も募らせた。「年金だけでは生活が成り立たないのでは」「将来の介護はどうなるのか」といった懸念から、政府に頼らず老後資金を自ら計画的に貯めるために、ライフデザインを行う人が増えた可能性が考えられる。
実際に、これまでの調査では、ライフデザインの効果として「人生に起こる出来事に、必要な費用を確認できる」と考える人が多くみられている(図表省略)。2017年調査では35.6%の人が、2023年調査では25.9%が該当しており、「人生に、いつ頃、どんな出来事が起こるのかを考えることができる」「自分が働けなくなった場合の経済面でのリスクを意識できる」といった他の効果と比較し、該当する人が最も多かった。また、「ライフデザイン白書2004-05」では、「自己責任意識が強い人ほど人生設計を行っている」という結果も出ている(図表省略)。年金などへの不安が高まるなか、「老後資金は自分で何とかしなければ」という意識が、ライフデザインにつながったと考えられる。
4.年代別のライフデザインの設計状況
ライフデザインの設計状況について、さらに詳しく確認していく。図表4は、男女・年代別にみた設計率である。男女ともに、増加が著しいのは20代以下、次いで30代である。50代・60代は、2000年代中盤頃より、それまでの低下傾向から上昇に転じたが、その伸びは限定的であった。特に男性では、1995年と2023年の設計率はほぼ同水準である。最も増加したのは女性の20代以下であり、1995年の5.8%から2023年は21.1%と約3.6倍になった。男性の20代以下も、1995年の6.7%から2023年は21.6%と、約3.2倍になっている。図表2で全体の設計状況の推移を示したが、その増加に寄与したのは主に若年層であったようだ。

その背景の一つには、ライフコースの多様化と自分らしさの追求があると考えられる。当研究所では、時代に応じてライフデザインのタイプを1.0から3.0に区分し、平成を「ライフデザイン2.0」時代と捉え、多様化が進んで人生の選択肢が広がり、人生をカスタマイズできるようになった時代と評している。
昭和は、同質的で画一性の高い「ライフデザイン1.0」時代である。モデル的なライフコースを歩んでいれば、将来への心配は大きくなかった一方で、そのライフコースを逸脱することによる不安があったり周囲の目が気になるなど、人生における選択の自由度が低かった(宮木,2021)。したがって、「ライフデザイン1.0」時代である昭和では、ライフデザインを考える際にも選択肢は限定されており、その必要性を感じる機会が少なかった、あるいは、モデル的なライフコースを歩むための計画になっていた可能性がある。
一方、「ライフデザイン2.0」時代である平成では、女性の社会進出や高学歴化により、結婚や出産も自己裁量による部分が大きくなるなど、人生における選択の自由度は高まったが、将来への見通しが立ちにくくなったことに加え、自己責任部分が拡大した(宮木,2021)。また、2002 年度からは、新しい学習指導要領のもとで「ゆとり教育」が始まった。それまでの過度な受験競争や詰込み型の知識偏重教育の反省から、豊かな人間性や個性を伸ばす教育へ舵が切られ、「個性」や「多様化」を重視する姿勢が広がった。
2010年代半ばに20~30代である人々は、こうした社会環境で育ってきた世代である。人生の選択肢が増えるなかで、「自分らしい生き方とは何か」を模索し、それがライフデザインへの関心の高まりにつながった可能性がある。
特にこの時期の20代女性は、結婚後に働き続けるか否かにとどまらず、「バリキャリ」志向か「ゆるキャリ」志向か、さらにはキャリアを踏まえた結婚や出産時期の検討など、選択肢が著しく増えた層である。しかし、彼女たちの母親世代は専業主婦が多く、身近なロールモデルも限られていた。このような社会的背景や環境が、若い女性たちのライフデザインの設計率上昇につながったと考えられる。
5.ライフデザインと生活満足度
3節で述べたとおり、ライフデザインは、人々がより豊かな人生を送る手助けになると考えられる。また、「ライフデザイン白書1996-97」では、ライフデザインの構築を各人の価値観と自由な意志のもとで行われることを前提とした上で、「人々の個性的かつ創造的な生き方の提案でもあるのです。ここでは、『若い人は若い人なりの、高齢者は高齢者なりの』、『1年先の、あるいは10年先の』、さらには『仕事では、余暇では』といったように、それぞれが思い浮かべる自由なイメージのもとで生き方を選択することが重要となってきます。つまり、ライフデザインは、個人の『戦略的生活設計』に他ならないのです」と述べている。
「人々の個性的かつ創造的な生き方の提案」というライフデザインの意義は今も変わらない。むしろライフコースが多様化した今こそ、この考えがより重要になっている。このようなライフデザインは、これまでも生活満足度を高めてきた。図表5はライフデザインの有無別にみた生活満足度である。調査を開始した1995年、設計率が上昇した2015年、そして直近2023年と一貫して、ライフデザインをしている人ほど生活満足度が高い。

ただし、これには生活満足度が高い人ほどライフデザインを行う逆の因果も考慮する必要がある。3節で述べたとおり、不安定な雇用や収入の伸び悩みといった状況下では、ライフデザインそのものが難しくなる。将来に希望を持ち、前向きに人生を捉えているから生活満足度が高く、さらにライフデザインに取り組もうと思える。 したがって、ライフデザインを促進するためには、将来の見通しが立てやすい経済・社会環境の整備と、ライフデザインを実際に考える機会の創出という両輪が必要となる。そのような環境や機会の充実が、ライフデザインを通じて人々の生活満足度をより一層高めるだろう。
6.ライフデザインの今後の展望
4節で、平成は「ライフデザイン2.0」時代と述べたが、それに続く令和は「ライフデザイン3.0」時代と捉えている。これまでは、選択肢の多様化によりライフデザインへの関心は高まった一方で、選択肢が多いことから「自分らしい人生モデル」に悩む人も多かったはずだ。宮木(2021)によると、ライフデザイン3.0とは、まずありたい未来を自ら描き、その実現に向けて今をデザインしようというものである。寿命と資産のバランスに主眼を据えて備える人生設計だけではなく、日々を充実させ、幸せを体感することを目的とし、いつからでも始め、何度でもやり直し、方向転換をして歩む、柔軟性の高いライフデザインが求められている。
ライフデザインを考えることは、情報過多の時代のなかで、自分が何を大事にしていきたいか、自身の価値観を見失わないよう振り返る作業でもある。何歳になっても、ライフデザインを見直し続けることが重要であるとともに、誰もがいつでもありたい自分を見つけ、それを目指せる社会であることが望ましい。
30年間を振り返ると、ライフデザインは、老後への不安やキャリア・進路の迷いといった課題に直面した際、その不安を和らげる手段として活用されてきた側面がある。これからはそうした不安の解消にとどまらず、日々の充実感や幸福感を高めるために、前向きな視点でライフデザインを実践し、その意義や価値が広く社会に浸透していくことが期待される。
【参考資料】
-
宮木 由貴子「ライフデザインの視点『幸せ』視点のライフデザイン~なぜ今well-beingなのか」(2021年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書1996-97」(1996年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書1998-99」(1997年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書2000-01」(1999年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書2002-03」(2001年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書2004-05」(2003年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書2006-07」(2005年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書2011」ぎょうせい(2010年)
-
第一生命経済研究所「ライフデザイン白書2015」ぎょうせい(2015年)
-
第一生命経済研究所「『人生100年時代』のライフデザイン」東洋経済新報社(2017年)
-
第一生命経済研究所「人生100年時代の『幸せ戦略』」東洋経済新報社(2019年)
-
第一生命経済研究所「『幸せ』視点のライフデザイン」東洋経済新報社(2021年)
-
第一生命経済研究所「ウェルビーイングを実現するライフデザイン」東洋経済新報社(2023年)
-
第一生命経済研究所「第13回ライフデザインに関する調査~前編(世代別にみた幸福度、ライフデザイン教育機会ほか)~」(2025年)
-
第一生命経済研究所「第13回ライフデザインに関する調査~後編(人口減少下での社会変化、家族、キャリアに対する意識ほか)~」(2025年)
鄭 美沙
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

