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2025.09.18
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ライフデザイン30年史(2) ライフデザイン設計者の現状と課題
~ライフデザイン設計を通した自分らしさと社会の持続可能性の探求~
鄭 美沙
- 目次
1.ライフデザイン30年史
当研究所では、人々の生活実態と意識の現状や変化を把握するため、1995年から2025年の間に「ライフデザインに関する調査」を計13回実施し、書籍「ライフデザイン白書」やレポートなどを通じ情報発信・提言を行ってきた。本稿は、それらを振り返るシリーズ「ライフデザイン30年史」の第2弾である。
前稿「ライフデザイン30年史(1)ライフデザインの設計状況~緩やかな景気回復と老後への不安を背景とした設計率の上昇~」では、ライフデザインの設計率が2010年代半ば頃から上昇し、特に若い年代で設計者が増加したことを示した。本稿では、その続きとして、現在どのような人がライフデザインを設計しているのか、また設計に向けた課題等について述べる。
2.ライフデザインを設計している人の特徴
当研究所では、ライフデザインを「経済的な資金計画だけではなく、仕事や学業、家庭、余暇など、生活にかかわる様々な面を含む総合的な人生設計」と定義している(第一生命経済研究所,2023)。2023年に行った「ライフデザインに関する調査」では、ライフデザインについて「ほとんど設計ができている」「ある程度設計ができている」と回答した人の割合(以下、設計率)は、全体で25.4%であった。
図表1は属性別の設計率である。性別では女性より男性の方が設計率が高い(図表1の[1])。この傾向は、当研究所が最初に調査を行った1995年以降継続している。
年代別では60代が高く、20〜40代は同程度である(同[2])。1995年時点では、設計率の高さは年齢とともに徐々に上昇していた。一方、2023年では、特に20〜30代の設計率が上昇したため、40代以下の差はみられなくなっている(鄭,2025)。
居住地では、三大都市圏の方がわずかに高い(同[3])。2021年調査までは居住地による差はみられなかったが、2023年調査で初めて、約3ポイントと大きくはないものの、統計的に有意な差が確認された。一時的かどうか現段階では判断できないため、今後の動向を注視する必要がある。

前稿で述べたとおり、ライフデザインの設計には将来の生活を見通せる経済社会環境にあるか否かも重要である。実際、世帯年収が高いほど設計率も高い(同[5])。世帯年収と年齢はある程度比例するため、高年収層の設計率は年齢の影響も受けるが、それでも世帯年収1,000万円以上の層では、60代の設計率よりもかなり高い。就労形態では、会社勤務の中でも管理職が高い(同[4])。年齢・世帯年収の高さ、安定した生活基盤が一因だろう。
住まいの形態では、一戸建て持ち家や分譲マンション居住者の設計率が高い(同[6])。この傾向は調査開始時以来変わらず、住宅を所有することがライフデザイン設計の契機となる、あるいは、ある程度ライフデザインが整った段階で住宅を所有することが多いとみられる。
最も顕著な差がみられたのは、お金や資産形成に関する学びの経験の有無である(同[7])。学校や職場・家庭で教わったか、自分で学習したかといった学習形態による違いはみられず、学びの有無によって設計率に倍以上の差がある。本節の冒頭で、ライフデザインは経済的な資金計画だけではないと述べたが、それでもお金は重要な要素である。比較的設計率が低い30代以下や世帯年収400万円以下の層においても、学びの経験がある方が設計率が高い(図表2)。ライフデザインの設計には、安定した雇用や一定の年収など将来の生活への見通しが重要となるなか、学びの経験は将来の不確実性を補い、見通しを立てにくい状況にある人々のライフデザインを後押しする。

3.ライフデザイン設計における課題
2節では属性によるライフデザイン設計率の違いを確認したが、設計の有無だけでなく、その内容に関しても属性や環境による違いが出る可能性がある。
金融広報中央委員会が提供しているコンテンツ「大学生のための人生とお金の知恵」では、演習として「人生で『ぜひ実現したい』と思っていることを、3つくらい挙げてみましょう。[例]こんな仕事をしたい、こんなくらしをしたい、こんな人と結婚したい、子どもは何人欲しい、親孝行したい」が提示されている。この演習に取り組み、たとえば「こんな仕事をしたい」を考える際、仕事と育児を両立できる仕組みが整っていない社会では、特に女性は無意識のうちに「実現したいキャリア」に制限をかけ、選択肢を狭めてしまう可能性がある。「こんなくらしをしたい」についても、自分がこれまで見聞きした範囲に留まり、知らない地域や文化での暮らしはイメージしづらいだろう。
こうした点を踏まえ、本節では、ライフデザインの主要な要素である仕事と学業、家庭について、属性や環境によって希望や意識に違いが生じうるのか、先行研究を確認する。
(1)仕事
松川・浦坂(2022)は、大学入学までの実家の暮らしぶりが、キャリア構想とキャリア実現に強い影響を与えると指摘している。同研究では、「将来の仕事に関してやりたいことがあったか」「将来の仕事につながる可能性があることで、自分が他人よりも得意なことがあったか」等と「大学入学時の実家の暮らしぶりに余裕があったか否か」の関連を検証している。その結果、大学入学時の「やりたいこと」「得意なこと」のいずれに対しても、暮らしぶりとの正の関係がみられた。その理由としては、暮らしぶりに余裕がある層は他の層に比べて、その豊かさを背景に様々な経験を可能にし、やりたいことについて思い描く機会も豊富に与えられる状態である可能性が述べられている。初職就職時には、やりたいことへの影響はみられなくなったが、得意なことに対しては依然として正の影響を与えていた。
また、大日(2014)は、娘の理想ライフコースを形成する要因として、母親のライフコースが効果を及ぼすことを示している。たとえば、母親が、結婚し子どもを持っても仕事を続ける両立コースの場合、娘の理想ライフコースとして、就業を含んだもの(再就職と両立)を選択する傾向にある。さらに、性別役割分業に対して否定的な意識を持つ効果も確認されている。
(2)学業
大和(2024)は、子どもと母親の将来展望と高校進学行動に、近隣(居住している地域・環境)がどのような影響を与えているのか分析した。その結果、失業率が高いなど不利な近隣ほど、中学3年生時点で子どもと母親ともに大学進学を志向する可能性が低い傾向がみられた(注1)。
また、文部科学省「各都道府県における高等教育の現状に関する調査研究」によると、大学進学率は最も高い東京都で77.6%、最も低い秋田県と宮崎県では40.1%であり、30ポイント以上の開きがみられている。同調査では2040年の大学進学率推計も示しており、東京都は80.5%へ上昇する一方で、最も低いのは山口県で38.5%となり、差がさらに拡大すると推計されている。
(3)家庭
福田(2006)は、女性のライフコースが属性毎にどの程度多様化しているか調査した。サンプルの平均値を標準的なライフコースとし、そこから外れた個体が多いほどライフコースが多様化していると捉えて分析した結果、大卒女性や専門職・管理職に従事している女性はそれ以外の女性よりもライフコースが多様化していた。それらを踏まえ、女性のライフコースの多様化が進んでいるといっても、特に経済的自立性の高い女性で進んでおり、個人の社会経済的属性によって多様化の程度に差があると結論づけている。
また、星野(2023)は、年収が高いほど子どもを持つ割合が高くなっていることを示し、従来よりも「もっとお金がなければ子どもを持つことができない」と考える人が増えてきているのではないかと指摘している。
これらはあくまで一例であるが、ライフデザインの主要な構成要素である仕事・学業・家庭に関する希望や意識、またそれらの実現可能性には、本人の置かれている社会経済状況がポジティブ・ネガティブ両面で影響を及ぼしうる。つまり、本節冒頭で述べた「人生で『ぜひ実現したい』と思っていること」を描くための想像力は、本人の努力以前に、家庭や地域の環境によって大きく制約されてしまう可能性がある。上記の研究は主に若年層を対象としているが、そうした制約はその後も影響を及ぼしうる。もちろん、特定の進路や選択肢を選ばないことが悪いわけではない。重要なのは、どのような選択肢が存在するかを知った上で自身のライフデザインを考えることである。
4.求められるライフデザイン教育の充実
こうした制約をやわらげ、自分らしい人生を思い描けるようサポートするため、ライフデザイン教育の充実が期待される。2節でお金や資産形成に関する学びの経験が設計率を上昇させると示したが、教育には不利な状況を改善する効果がある。人生にはどのような選択肢があるのか、その実現方法、また様々なロールモデルの提示など、ライフデザインの設計をサポートすることは、文化的再生産や格差の是正につながると考えられる。
こうした制約の有無にかかわらず、そもそも日本の若者は自分らしさに悩む傾向もみられている。日本財団「18歳意識調査」によると、「将来の夢を持っている」(60.1%)、「自分には人に誇れる個性がある」(53.5%)と回答した人は、米英などの他国より10~20ポイント程度少なかった。また、特にZ世代に浸透しているMBTI診断は(注2)、自分らしさの発見・表現を手助けするツールとしても求められていると考えられる。
ライフデザインを考えることは、情報過多の時代において、自分が何を大事にしていきたいか、自身の価値観を見失わないよう振り返る作業でもある。ライフデザイン教育によって、どのようなライフコースがあるのかという「外部の情報」を得ると同時に、自分自身が何を大切にしたいのかという「内部の価値観」を見つめ直す機会の創出が期待される。さらに、こうした機会は年齢にかかわらず必要である。社会人に対するライフデザイン教育の充実も求められるとともに、自らライフデザインを見直せるよう、その必要性や方法を若いうちから理解しておくことが重要である。
5.ライフデザイン3.0に向けて
以上、前稿と合わせて2編にわたり、ライフデザインについて考察してきた。前稿で述べたとおり、当研究所では、令和を「ライフデザイン3.0」時代と捉えている。まずありたい未来を自ら描き、その実現に向けて今をデザインするスタイルである。最後に、ライフデザイン3.0に向けて、今後さらに検討すべき課題を2点述べる。
本稿では、ライフデザイン教育の充実を提言したが、ライフデザインの設計をサポートする教育だけでなく、その実現過程で頼れる機関も必要である。たとえば、望んだタイミングで子どもをもうけられなかったり、家族や自分が思わぬ病気や事故に遭うなど、ライフデザインには予期せぬ変更が伴う。社会の変化が速く、不確実性も高い時代には、設計したとおりに進まないことも増えるだろう。一般社団法人カウンセリング・キャリア推進協会によると、カウンセリングの利用率は欧米では52%である一方で、日本は6%にとどまり、日常的には普及していない。カウンセリングに限らず、誰もが安心して自分の気持ちや状況を話せる環境や、人生の転機を支える仕組みを整えることが求められる。
また、「自分らしいライフデザイン」を描く際には、それが他者や将来世代に負担を与えていないかにも留意する必要がある。たとえば、低賃金で働く人の負担によって成り立っていたり、環境負荷の高いライフスタイルを選択していたりするケースが考えられる。自分のライフデザインが、家族のライフデザインの実現を妨げる場合もある。これまでも、配偶者の転勤により希望していたキャリアを諦めざるを得なかった人などは少なくない。こうした、自分と他者のライフデザインのコンフリクトを避けるためには、ライフデザインを設計する際に、外部への影響や実現可能な社会のデザインについても検討することが重要である。
つまり、ライフデザインの設計とは、現在と将来の自分自身、そして社会を考えることである。ライフデザイン3.0は個人と社会のよりよい未来に寄与するものとなるため、その意義と必要性が今後さらに浸透することを期待する。
【注釈】
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大和(2024)によると、不利な近隣が意識や振る舞いに与える影響は、居住する個々人の社会経済的属性の集合による構成効果に起因するものと、近隣固有の社会環境による創発的な効果である文脈効果に起因するものがある。同研究では、子どもの大学進学意欲は構成効果、母親は構成効果と文脈効果双方の影響を受けていると示している。
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MBTI診断とは、ユングの心理学的タイプ論をもと開発された性格検査であり、受検者は自己申告型のテストによって16タイプに分類される。韓国アイドルがSNSで発信したことなどから、2023年頃より日本でもZ世代を中心に普及し始めた。
【参考文献】
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一般社団法人カウンセリング・キャリア推進協会 https://www.ccpi.or.jp/
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大日義晴「若年女性における理想ライフコースの形成要因」社会福祉第55号(2014年)
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大和冬樹「将来展望と進学行動の近隣格差─中学生と母親に着目して─」日本都市社会学会年報2024巻42号(2024年)
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金融広報中央委員会「大学生のための人生とお金の知恵」(2023年)
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福田亘孝「ライフ・コースは多様化しているか?:最適マッチング法によるライフ・コース分析」西野理子・稲葉昭英・嶋﨑尚子編『第2回家族についての全国調査(NFRJ03)第2次報告書No.1:夫婦、世帯、ライフコース』日本家族社会学会全国家族調査委員会(2006年)
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星野卓也「内外経済ウォッチ『日本~子どもを持つことは「ぜいたく」になったのか?~』(2023年1月号)」(2023年)
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松川晴美・浦坂純子「キャリア構想・キャリア実現における格差は挽回できるか:大学生の視野を広げるもの」評論・社会科学(143)(2022年)
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文部科学省「各都道府県における高等教育の現状に関する調査研究」(2025年)
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第一生命経済研究所「ウェルビーイングを実現するライフデザイン」東洋経済新報社(2023年)
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第一生命経済研究所「第12回ライフデザインに関する調査」(2023年)
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鄭美沙「ライフデザイン30年史(1)ライフデザインの設計状況~緩やかな景気回復と老後への不安を背景とした設計率の上昇~」(2025年)
鄭 美沙
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

